表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
慈悲深い魔女たちの話  作者: けものへんにまし
第一章 忘却の魔女 ロッテ
2/11

忘却の魔女ロッテ①

本日、序章を同時投稿しています。もしこちらに先に来られた方がいましたら、そちらを先にお読みいただけたら幸いです。

 ある町に、幼い頃からの友人である二人の娘がいました。


 二人は毎朝同じ道を歩き、同じ泉で水を汲み、互いの家の窓から声をかけあって育ちました。どちらかが熱を出せばもう一方が薬を届け、縁談で泣く夜には夜通し話し相手になりました。町の人々は二人をひとまとめに呼んでいて、片方の名を言えば、もう片方の顔が自然と浮かぶほどでした。


 けれどある日、二人は喧嘩をしました。

 きっかけは些細なことでした。借りたままの櫛のことか、伝わらなかった言葉のことか。


 そんな帰り道に、娘の口から、言ってはいけない言葉が、ついこぼれてしまったのです。


「……あの子のことなんて、もう、顔も見たくない」


 それは本気の願いではありませんでしたが、忘却の魔女ロッテはそれを聞いていました。


 ふいに、娘の世界から色が消えました。

 驚いて足元を見ると、自分の影だけが、その場に張り付いて動かなくなっているではありませんか。


 何が起こっているのかと顔を上げると、鼻先が触れそうなほどの目の前に、白い顔がありました。

 その陶器のような白い顔の、瞬き一つしない双眸が、娘の瞳の奥をじっと覗き込んでいたのです。


「かわいそうに。心が痛かったのね」


 そう言うと、少女はしばらく娘の瞳を見つめたあと、どこからか取り出したスケッチブックを広げました。その瞬間、何かが娘の中からふわりと浮き出し、そのスケッチブックへと吸い込まれました。


「……うん、描けた。これで、あなたは痛みを忘れられるわ」


 彼女がスケッチブックを閉じると同時に、世界に色が戻りました。白い少女の姿は、もうどこにもありませんでした。


 娘はしばらく道の真ん中に立ち尽くしていましたが、やがて踵を返し、友人の家へと駆け出しました。あの少女が何をしたのか、まだわかりませんでしたが、確かめなければならない気がしたのです。


 友人の家の窓は、なぜか厚い板で打ち付けられ、庭先には雑草が茂り、まるで何年も誰も住んでいないかのようになっていました。


 娘は隣の家の人に尋ねました。

「ねえ、この家になにがあったかわかる? あの子はどこ?」

「ここに誰かが住んでいたことなんて、一度もないよ」

 誰に聞いても、不思議そうに首を横に振るばかり。


 さっきまで、確かに一緒にいたのです。

 けれど町の人の記憶からも、この場所にあったはずの生活の気配からも、彼女の存在だけがごっそりと削り取られていました。

 あの白い少女が、自分の呟いた言葉を叶えてしまったのだと気づいたとき、娘の足から力が抜けました。


 震えながら家に戻った娘は、棚の上に見覚えのあるものを見つけました。それは、返しそびれたままの櫛でした。


 持ち主の名前だけが、最初からなかったかのように滑らかに消えています。


 娘は、返す相手のいない櫛を抱えて泣きました。

 願った通りに、友人の顔は二度と見えなくなったのです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ