イノシシ娘、来世の幸福を祈る
「あっはははっ、見た? あのユズの顔。もうサイッコウ!」
菅原が腹を抱えて笑う。
彼女の晴れ晴れとした顔に柚希も小さく笑った。
台風は去ったようで、すでに雨は止んでいる。
東の空が白んで、もうすぐ夜が明けることを知らせていた。
彼女たちがいるのは、前に翔と寄った小さな公園だ。
件の男性が住んでいたマンションというのが、このあいだ男か女かよく分からない幽霊を成仏させに行ったマンションだった。
翔と柚希は誰からも見られてしまう肉体を持っているので、ずっとあの場にいるわけにはいかず、菅原が満足した段階でこの公園に逃げてきたのだ。
まず桃華が小石を持って窓を叩き、幽体離脱した柚希が頑張ってテレビに干渉した。
その後、翔が外からドアノブを乱暴に回して、リビングに回った桃華が再度窓を叩く。
ここで桃華にエネルギーを与えられた菅原が、しっかりと男性に見える姿で現れたのだ。
男の絶叫は大きく、危うく周りの住民に翔と体に戻った柚希が見つかりそうになって慌てた。
昴はこの復讐劇にそれほど興味がなかったのか、最初から参加しなかった。
幽霊によるこの程度の制裁は、黙認してくれるらしい。
「んー、すっきりした。満足」
そう言った菅原の体が薄くなってくる。
柚希の目ではすでに殆ど見えないほどだ。
「付き合ってくれて、どうもありがとう」
まだ声だけははっきり聞こえる。
柚希は辛うじてそこにいるのだろうなという陽炎に向かって頷いた。
「次の人生では、どうか良い出会いがありますように」
「うん。ありがとう」
柚希の祝福の言葉に、はにかんだような返事だけが返ってきて、完全に菅原の気配が消えた。
無事に成仏出来たのだろう。
人をしっかりと憎みながらも、さっぱりと切り替えられる彼女は、きっと今世の分まで来世で幸せになってくれるはずだ。
明日、3話更新完結予定。




