交差点の幽霊、未練の内容
「あの男、絶対許さない。毎晩夢に出てやる。足を攣らしてやる。風呂場や洗面所で耳元にフッて息を吹きかけてやる!」
呪いの言葉が案外可愛らしい。が、地味に効きそうなツボを押さえている。
纏わり付いていた邪気を発散したせいか、幽霊は言葉は明瞭に、悪意は優しく、意識ははっきりしたようだ。
キーッと叫ぶ声も耳鳴りのするような威力はなくなっている。
「なんか、思ってたのと感じの違う人だね」
思わず呟いた柚希に、昴がのんびりと頷く。
「最近の多すぎる雨で、怨みがドロドロに濁っちゃったんでしょうね。普通だったらあまり害のない方のようですよ」
だから放置していたのだと、昴は悪びれることなく言う。
「濁る前に対処すればよかったのよ」
「結局、死神の怠慢だろ」
桃華と翔の評価は辛口だ。
笑顔のまま表情を固める昴から慌てて目を逸らし、柚希は路上で打ちひしがれる女幽霊に駆けよった。
「えっと、菅原さん?」
柚希の呼びかけに、彼女はのろのろと顔を上げた。
力は弱まったが一度認識しているせいか、随分ぼんやりとしてしまったものの、菅原の姿は生身の柚希にも見えていた。
「あなたの心残りを教えてください」
「心残り?」
「はい。あなたが心穏やかに成仏するお手伝いをさせてほしいんです」
未練の理由は先ほどの昴の話でも察しは付く。
しかし、幽霊の大半は自分の苦しみを誰かに切々と訴えることで満足する者が多い。彼女自身に話させることが重要なのだ。
「みれん、未練。……未練! あの男っ、ユズ! 絶対に許さん!」
急に変わった形相に内心ビビりつつ、柚希は努めて深刻な顔をして頷いた。
「ユズの奴、私にプロポーズした次の日に、家に違う女を連れ込んでたのよ! 私たちの愛の巣に! しかも、殆ど私が家賃出してたのにっ。あの馬鹿ユズっ、絶対呪ってやる。しかも! しかも! よくよく調べたら浮気してたの一人の女じゃないしっ。あんな男、クズよクズ。虫以下。この世のゴミだわ、焼却処分希望!」
「ユズ」と言う名を連呼して罵詈雑言を吐き出す幽霊に、柚希は遠い目をした。
(自分のことじゃないって分かってても、なんか泣きそう)
しかも先ほど桃華にも「馬鹿柚」と罵られたばかりである。




