交差点の幽霊、爆発する
「あれれ」
白うさぎに蹴り飛ばされた幽霊が、邪気ごと道路にへばり付いている。
幸い今は車の通りがなく、どこにも被害は出ていない。
幽霊が頭をもたげた。黒い固まりの中に穴が生まれる。もしかしてあれは口だろうか。
次の瞬間、金属をギザギザの爪で引っ掻いたような高音が辺りに響く。
応急処置をしてあった窓が粉々に砕け、遠くで車が横転したのが見えた。
耳を塞いでもキーンと響く音に、生理的な涙が込み上げてくる。
しばしの後、音が消えても耳の奥でまだ鳴り止まない気がした。雨の音と混ざって奇っ怪な音楽を作る。
柚希の腕の中で、桃華が不満げな声を上げた。
「あんなヒステリックな女と間違えるとか、ほんとあり得ない。あんた私と双子でしょ」
「う、ごめんなさい」
謝るより他にない。
幽霊は開いた口らしきもので、「ユ、ズ……ユズ」と呟いている。
「でもわたしの名前、呼んでるし」
「結局誰なんだよ、あの幽霊」
耳に残る音が消えないらしい翔が、顔を顰めて誰にともなく聞く。
昴が一人だけ音など聞こえなかったような涼しげな顔で答えた。
「桃華くんとは「モモカ」違いです。菅原百花さん、生前二十九歳ですね。死ぬ直前に、恋人であった「譲」という男性の裏切りにあったそうで、酷く恨みに思って死んだようです」
「……モモカ違いで、ユズ違い」
紛らわしいにも程がある。
がっくりと項垂れる柚希の腕を、翔がさらに引き寄せた。
幽霊がまた大きく口を開ける。甲高い音と、さらに今回は身に纏う邪気が辺りに飛散した。
柚希は慌てて数歩下がった。
素早く手袋をした翔が落ちてくる邪気を払いのけ、柚希の腕から飛びだした桃華が両手両足を使って打ち返す。昴だけが変わらぬ表情で身軽に避けていた。
濃度の濃い邪気が中央分離帯に生える草木を枯らす。
コンクリートに落ちた場所から異臭を放つ煙が上がった。
「ユ、ズ、ユルサ、ナ……イ。ユズ、ル……あの、オト……コ。絶対、ユルサナ、っい!」
最後の一音と共に邪気が爆発する。
悲鳴を上げて退避した柚希たちの見ている前で黒い邪気を飛び散らかしたあと、その場に座り込んでいたのは、つり上がった目元に泣き黒子のある髪の長い女性だった。
「あの男、絶対許さない。毎晩夢に出てやる。足を攣らしてやる。風呂場や洗面所で耳元にフッて息を吹きかけてやる!」




