イノシシ娘、姉と再会する
「ほんとに、ほんとに桃華?」
「ほんとに本当よ」
「なんでうさぎなの?」
「……そこの、ムカツク死神に入れられたのよ。まったくもう」
半ば混乱して重要じゃないことを聞く柚希にも、桃華は律儀に答えてくれる。
「だいたい柚がいけないのよ! ほいほい体から抜け出して、危ないことに首を突っ込むんだから、こっちはおちおち成仏してらんないじゃない」
桃華はかっと目を見開いて柚希に詰め寄ってきた。
プラスチックの丸い目なので表情は変わらないのだが、雰囲気で分かる。
気が強く、しっかり者で、柚希の自慢の姉だ。
「桃華だぁ。本当に桃華がいる」
柚希は白うさぎをぎゅうっと抱きしめた。濡れてぺた付くお腹に頬ずりをする。
桃華は「まったくもう」と言いながら柚希の頭をぽふぽふと叩いた。
一杯いっぱいな柚希の気持ちに水を差すように、間延びした拍手が聞こえてきた。
「いやー、感動の再会ですね」
ゆったりと道路を横断してきた昴が、軽く飛び跳ねるように中央分離帯に乗る。
いつの間にか座り込む柚希の横には翔も立っていた。
「……昴さん、どういうこと?」
半眼で美貌の死神を睨み上げると、全く悪びれた様子もなく彼はにこにこと笑った。
「柚希くんがあんまりにもお間抜けさんでお馬鹿さんなものだから、安心して成仏できない桃華くんに仮の器に入ることを勧めただけですよ。最初っから最後まで、動いていたのは彼女の意志です」
なるほど。白うさぎの行動に柚希の許可など必要ないと言うわけだ。
本来の持ち主である桃華が使っていたのだから。
だが、もちろん納得できないこともある。
「どうして教えてくれなかったの」
「私が望んだのよ、柚」
桃華がくっつく柚希の顔を押しのけて言う。
「あんた、私が傍にいるって分かったら今みたいに体くれようとしたでしょ。私、要らないから」
「でも」
「それは柚希の体で人生よ。私に背負わせる気?」
そう言われてしまうと柚希は何も言い返せない。
横で昴が「どの口が言うんですかね」と言って桃華に睨まれていた。
「あとは柚希くん。あの頃の君にそう言ったら、酷く絶望したでしょう。桃華くんの生気でどうにか生を繋いでいたあの状態でそうなったら、ただの幽体離脱じゃすまなくなってましたよ。死亡理由、脱力死」
そうならないよう、色々手を尽くしてくれていたのだと言う。
柚希のクロスや翔の手袋の貸し出しに、死神の仕事の手伝い。
桃華と情報の共有をして、危ない場面では猫の姿に化けて見守ってくれていたらしい。
「人助けなんて、死神の仕事じゃないんですからね?」と昴が肩を竦めた。
感謝も文句も、まだまだ言い足らないが、いまだ混乱から完全には覚めやらない柚希は、吐き出せる言葉がなくて唸った。
頭を抱える柚希の腕を、いままで黙っていた翔が引く。
彼は呆れた顔で柚希を立たせると、溜め息をついて顎をしゃくった。
「あんたら、暢気に話してんのはいいけど、あれどうするんだよ」
「あれ?」
何のことかと目を丸くした柚希は、一瞬の逡巡の後、どうして自分たちがここに居るのかを思い出した。




