孤独少年、叫ぶ
「幽体離脱とは生気の弱さ、つまり自分の魂を肉体に留めておく意志が弱いということです」
昴は翔の疑問など興味なしと、勝手に話を進める。
だが彼の話は翔の琴線に触れ、柚希の様子を窺いながらも昴と向き合わせた。
「相澤はその意志が弱いっていうことか」
「弱いも弱い、それこそうさぎの心臓のようですよ」
その例えは微妙に分からない。
「柚希くんがいまだ自分を保てているのは、三番目、他者からの強い強い、それこそ超合金のような強さを誇る他者の念が彼女を生かしているのですよ」
「他者。両親や笹間か」
これには昴は何も答えない。
先ほどから一ミリも動かない微笑は、まさしく全てを知り傍観するだけの死神のそれだ。
昴は二度、瞬きをしてから柚希の方を振り返った。
「でもね、やはり他者からの願いだけでは人の体は長く持たないんですよ。いま、姉と魂を入れ替えなかったとしても、いつか柚希くんは強い思念を持つ霊に体を乗っ取られることでしょうね」
「……やっぱり、姉に体を差し出すつもりだったのか」
柚希が犠牲にするもの、それは自分の体だ。
自分の予想が当たっていたことに翔は顔を顰めた。
やるせなさと憤りが体の内側からふつふつと沸き上がってくる。
あまりにも自分勝手だ。こちらのことなど全く考えていない。
うさぎが俯いて首を振る。抵抗はだいぶ弱まっているようだが、パタパタと揺れる長い耳は強い否定を表現しているようだ。
まだ翔には分からないことがある。
本当のところの死神とは、白うさぎの正体、一年前の事故で何が起こったのか。
だがそれら全てが翔にとって瑣末事だ。
いま彼がなによりも言いたいことは。
「巫山戯んなっ……」
翔は柚希に向かって一歩踏み出した。
「相澤!」
翔が呼んでも柚希は振り返らない。彼女の意識は全て目の前にいる幽霊のものだ。
それが酷く悔しい。
どれだけ柚希にとって特別な存在だったとしても、それはもう過去の人だ。
それなのに、柚希はいま傍にいる翔のことを振り返らない。
「柚希っ」
翔は怒りのままに、彼女の名前を叫んだ。




