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死神さま、現る



 この雨の中、妙に耳に残る猫の声に意識を取られ、翔は周りを見回した。

 片側二車線、その中央の白線に黒猫が座っている。

 闇と同化する姿でありながら、酷く存在を主張する。はっきりと見える。


「なんだ?」


 訝しんだ翔が踏み出しかけた足を留めた横で、白うさぎは構わず飛びだした。

 柚希に向かって一直線に駆けていく白い体を、猫が喉を伸ばして見つめ、次の瞬間ぐにゃりと輪郭を歪めてぬいぐるみの体を捕まえた。

 真っ黒いシャツ、真っ黒いズボン、ジャケットもネクタイも真っ黒で、晒された肌だけがやけに白い。

 白い手が掴む白いうさぎはばたばたと藻掻いて死神の手から逃れようとしていた。


「死神?」

「おや、翔くん。まるで幽霊を見たかのような間抜けな顔をしていますよ」


 いつも通りの人を食った笑顔を浮かべ、昴が白うさぎを片手に翔に近づいてくる。


「あんた、どうして。うさぎは?」


 混乱する翔に、昴はうさぎを持ち上げてみせる。

 背中を鷲掴みにされている白うさぎは、無茶苦茶に両手両足を振り回してどうにか拘束から抜け出ようとしていた。


「僕がいつ、ぬいぐるみに入るなんていうファンシーなことをするって言いました?」

「じゃあ、そのうさぎは……」


 翔が詰め寄ろうとした昴の後ろで、そのとき新たな事故が起きた。

 軽自動車同士の衝突。

 急に止まった自動車に、後続からやって来た自動車が突っ込んだのだ。勢い余って、二台とも滑るように行き過ぎていく。

 翔の目には、最初に止まった軽自動車の前輪に、黒いものが巻き付いて動きを止めているのが見えた。

 あの幽霊の仕業だ。いままでの事故もきっとこうやって起こしていたのだろう。


「もう止めて、桃華! お願いだからっ」


 柚希の悲痛な声が迸る。

 柚希が手を伸ばす。

 黒い幽霊が柚希を見る。


「相澤」

「待ちなさいって、翔くん」


 駆け出そうとした翔の進路を昴が遮る。

 翔は感情の読めない薄ら笑いを浮かべる死神を睨んだ。


「なんで止める」

「君は、生気ってなんだと思います?」

「は?」


「それは生きる意志の強さ、生きたいと思う当たり前の本能、他者から生きて欲しいと望まれる念、生きている者には生まれながらにして誰しも持っているもの。つまり幽体離脱とは生気の弱さ、自分の魂を肉体に留めておく意志が弱いということです」




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