孤独少年、イノシシ娘の家を訪ねる
台風の直撃に備え、学校は臨時の午後休校になった。
すでに外は荒れ狂う天気となって、いまさら帰されても手遅れな感が否めない。電車が止まり、駅で立ち往生する生徒も出てくるだろう。
昨日に引き続き学校を休んだ柚希のことが気になって、翔は制服の裾を濡らしながら彼女の家を訪れた。
柚希の母は一度見舞いに来たことがある翔のことを覚えていたようで、快く家へ入れてくれる。
「わざわざ来てくれたのにごめんね。あの子、まだ帰ってきてないのよ」
肩を竦めて言う柚希の母に、翔はのど元までせり上がった疑問を呑み込んだ。
「そうなんですか」
「昔からね、雨が降るとなかなか帰ってこないのよ。二人して、雨の中遊ぶのが好きみたいで、……あ、桃華のことは知ってるかしら」
「知ってます。双子だったと」
頷いた翔は、促されるままにリビングの椅子に腰を下ろした。
柚希は学校を休んでいる。その事実を、この母親は知らないらしい。
いったいどこへ行ったのか、見当は簡単につく。
「コーヒーと紅茶、どっちがいいかしら。緑茶もあるわよ」
「すみません。紅茶で」
深く吟味する余裕もなく、翔はおざなりに答えて席を立った。
部屋の奥に仏壇が置いてある。微かに香る線香の匂いに、毎日欠かさず焚いているのが想像できた。
そちらまで行くのは少し抵抗があって、翔は壁際のチェストの上に置いてある写真に目をやった。
両脇に両親と思しき男女がいて、それぞれの手を繋ぐ同じ顔の少女がいる。
背景はコスモス畑だろうか。紫の小さな花が一面に広がっていた。
ちょっと取り澄ましたような少女と、何が楽しいのか満面の笑みを浮かべた少女だ。
「ああそれね、いつだったかしら。確かあの子たちが小学校の高学年、そう五年生かしら。家族皆で長野に行ったの」
懐かしそうに言った彼女は、紅茶のカップとクッキーの載った皿をテーブルに載せる。
翔が会釈して席に戻ると、彼が紅茶を一口含むのを待ってから柚希の母親は続けた。
「高坂くん、だったわよね。柚希となにかあった?」
翔は下ろしかけたカップを口元に戻して、明確な答えを先延ばしにした。
カップの縁から窺うと、柚希の母は穏やかな表情で小首を傾げている。
柚希もよく同じ角度で首を傾げているが、柚希のそれはもっとあどけない。
翔は慎重にカップを受け皿に戻した。




