孤独少年、問答に悩む
「……断ち切るとは討伐すると言うことか」
翔は喉に覚えた乾きを押して問いかけた。
柚希が言っていた。自分たちでは代われない死神の仕事。悪霊の討伐と特別な死者のお迎え。
翔は悪霊の定義を知らなかったが、昨日交差点で見た幽霊は明らかに害ある存在だった。
「討伐するのか、あいつの姉を」
眉間にどうしても力が入る。
決して野放しにしておいていい存在ではない。けれど柚希にとって、唯一の姉だ。
翔の感じる苦みなど歯牙にも掛けず、昴は淡々と続ける。
「人は誰しも怨み嫉み苦悩を内に持っているものです。肉体を持つ間、それは時に己の体調を蝕み、凶暴性として他者を傷つけることもあるでしょう。だけど所詮は肉体の内側です。どれほどの怨嗟を抱えようと、変質することはありえない。けれど受け止めるその器を失った剥き出しの魂は、どこまでも膨れあがって行く。その想いの行き着く先が正なのか負なのか、その違いがあるだけでこの世に与える影響が大きくなりすぎれば対処する。それが僕たちの仕事です」
なんだろうか、この釈然としない感覚は。
ヒントの欠片だけを散りばめられて、核心に触れてこない。
知るも知らぬもこちらの努力次第だと言わんばかりに無造作に与えられた情報は、しかし肝心な部分が足りなくて形を為さない。
まるで出来上がり図のないジグソーパズルをやらされているようだ。
ふと視線を動かした翔の視界に、デスクに置かれた白うさぎが入ってきた。
昨日、柚希に返されることのなかったぬいぐるみの瞳が、見定めるように翔を見ている、そんな錯覚を受ける。
「さて、翔くん」
がらりと声音を変えた昴が、肘をついて組んだ手に顎を乗せ、目を戻した翔ににこにこと笑った。
その表情とは裏腹に、次の昴の言葉は翔に容赦なく息を詰まらせる。
「君は死者を生き返らせることなんて、本当に出来ると思います?」
部屋の中から酸素が抜けてしまったのかのように息苦しい。
翔は、静かに一度深呼吸をした。
死者の蘇生。出来るわけがない、そう思うが、翔には断じることが出来ない。
己の知りうるものが世界の全てではないと彼は知っている。だが、
「無理だ。少なくともあいつの姉は、死んでから相当の時間が経っているのだろう。遺体だってとっくに焼いているはずだ。魂がこの世に残っていても戻る体がない」
昴は是とも否とも答えず、デスクに置いてあるぬいぐるみの頭を撫でた。
「人の運命を変えられるのは人だけです。奇跡とはそうそう簡単に起こらないから奇跡というのですよ。そして奇跡には犠牲がつきもの。幸と不幸は表裏一体、誰かの幸せは誰かの不幸。そうそうひっくり返せるものではない。そうでしょう?」
密やかに微笑んで目を伏せる死神からは、それ以上の言葉が紡がれる様子はない。
翔は溜め息を呑み込んで昴に背を向けた。
事務所から出ると、急に雨の音が耳につく。その勢いは収まる様子がなかった。
***
「さて、厄介なことになってきましたが、君はどう動くんです」
「……」
「まあ、予定調和ではあるのでしょうね。君が危惧したとおりに」
「分かってる。あの子は私が守る。絶対に」
「でもそれでは前へ進めませんよ。君も、彼女もね」
「それも、分かってる」
***




