イノシシ娘、強がる
「昴さん、桃華を連れて行っちゃった」
そう言った後に、急に力強く肩を掴まれて、柚希ははっと目を開けた。
こちらを真っ直ぐに射貫く翔の瞳は怒気と気遣いを含んでいる。
「お前が自分を責めたっていまさらどうにも出来ない。そうだろ」
力強い眼光に後ろめたさを覚えて、柚希は目を逸らした。
なかなか返事が出来ない柚希に溜め息を吐いて、翔は目を合わせるために屈めていた腰を伸ばした。
「さっき死神がいたのは、あの場に悪霊かすぐに迎えに来なきゃいけない相手がいたってことか。自分の時のことを思い出して気分が悪くなった?」
「……うん」
柚希が頷くと納得したように翔も頷く。
「もう大丈夫か」
「うん、大丈夫」
うさぎを抱えたまま立ち上がる。
まだ少しふらついたが、これ以上弱いところは見せたくなかった。
棺桶の中の桃華を見たときも、葬式をしている間も、ベッドが二つある部屋に自分しかいないときも、柚希は全てに現実感を持てずにいた。
桃華がまだ近くにいるような気がしていた。ただの願望ではない。彼女の気配を感じるのだ。
そう主張する柚希に両親は悲しそうな顔をして抱きしめてくれた。
それがどうしても、柚希には納得できなかった。
もう一つ、忘れられなかったことがある。
あの日、あの場所に立っていた死神の姿だ。
死ぬはずだった柚希ではなく、桃華を連れて行ってしまった死神。
彼に会えさえすればどうにかなるかもしれないと、柚希は事故や事件と聞くとその場所へと飛んでいった。
その一つで本当に昴と出会えたのは奇跡だったのだろう。
桃華を生き返らせてくれと言った柚希に、彼はにこりと笑った。
『ならまず、お姉さんを見つけなくてはいけませんね』
そうして幽体離脱をある程度制御できるクロスを渡されたのだ。
柚希は生身では幽霊を見ることは出来ない。
事故に遭ってからは体から抜け出しやすくなっていたが、その所為で肉体が衰弱しては意味がない。
柚希は生きて桃華を見つけ出さなければいけないのだ。
だから勉強も頑張った。自分では受からないと思っていた学校に進学し、クラスメイトと良好でそれなりに距離感を持った関係を築いている。
翔や知穂との近しさは少々気懸かりだが、どうにかなるだろう。
――桃華は柚希の自慢の片割れなのだから。
「あら柚希、お帰り。お姉ちゃんに挨拶してきなさい」
「あとでー」
母のいつもの台詞に、いつもの返事を返す。
「まったく、もう」と母親は怒るが、だってそこに桃華はいないのだ。
柚希はベッドにうつ伏せに転がって、枕で頭を隠した。
どうしても、雨の音が鳴り止まない。
***
父も母も、友だちも大事だった。ずっと彼らと生きていたかった。
けれども私にとっては、双子の片割れの方がずっとずっと大切なのだ。
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