孤独少年、仕方ないと諦める
「お礼。あんたが来てくれて嬉しかったから」
「吃驚。高坂くんが素直だ」
「……悪かったな」
自分でもらしくないのを自覚しているのか、翔は眉を寄せて自転車のストッパーを外すとさっさと先を歩いて行ってしまう。
その後を柚希ものんびりついていった。
「あの、ごめんね」
翔の背中を見ていたら、するりと言葉が出てきた。
振り返った翔が訝しげに眉を寄せる。
「なにが?」
「えっと、図書室で。わたし、無神経なこと言ったよね」
言ったというより、書いただが。
「家に押しかける」と紙に書いた柚希は、翔を酷く怒らせ、傷つけた。
理由が分からないなりに謝ろうと思っていたが、ずっと言えずにきたのだ。
幽霊などが見えることが周りにどんな影響を与えるのか、柚希はいまいち分かっていなかった。
家庭環境を慮るなど、そんな高度なことは出来なかった。
だが思い至れないから傷つけていいなど言語道断だ。
「別に。……いい」
翔は素っ気なく言って、柚希を許した。正面に顔を戻して歩調を戻す。
やはり翔は優しい。彼のそれは分かりにくいが、もしそれが表情に出るのなら、きっと翔の母親と同じような柔らかさだろう。
とても柔らかに優しく微笑む女性だった。
「高坂くんのお母さん、優しそうな人だったね」
「……優しいよ。優しすぎるんだ」
淡々とした口調は、だがよく聞くと罅割れている。
割れたところから染み出していくものがあるような気がして、柚希は彼の横に並んで顔を覗き見た。
「恐がりで弱いくせに優しすぎるから、要らない罪悪感まで感じて傷ついて。それなのに優しすぎるから突き放すことも出来ない」
「罪悪感?」
「頭のおかしな息子に怯える罪悪感」
抑揚のない翔の言葉に柚希は絶句した。
きっと彼は何度も何度もいま言った言葉を心の中で繰り返してきたのだ。
そう分かるほど滑らかな口調だった。
「お、かしくなんかないよ、高坂くんは」
「大抵の人にとっては気味が悪いだろ。居ない相手と会話をしてるんだ」
「でも居るもんっ、見えないだけで」
「見えないってのは、居ないんだよ! 普通の奴らにとっては、居ないんだ! だから、だから……」
仕方がないんだ。と呟く翔に、柚希は泣きたくなった。
分かってしまった。彼がこんな風に自虐的な表現をするのは、翔こそが優しすぎるからだ。
頭がおかしい、気味が悪い、そう思われても仕方がないのだと受け入れて、そう言う相手を悪く思わないようにと必死に言い聞かせて、分かってくれないと嘆くこともなく、分かるわけがないだろうと八つ当たりすることもなく、自分の傷を胸の中に押さえ込んで、その傷で誰かを傷つけることがないようにと距離を置く。
彼は、傷つきたくないから独りでいて、傷つけたくないから独りになったのだ。




