イノシシ娘、照れる
ボールで遊ぶ三人と幽霊だった子供を見送り、深々と溜め息を吐いた翔が蛇口を閉めて背を向けた。
柚希も無言のままその後に続く。
だいぶ目的地の近くまで来ていたので、あとは自転車を押して歩ける距離だ。
柚希は周りに誰もいないのを確認して翔に声をかけた。
「幽霊の見分け方、なにか方法思いついた?」
「いや」
「生きてる人も死んでる人も全く同じように見えるんだよね」
「ああ」
「いまの私も、普通に見える?」
立ち止まった翔が、横を歩く柚希を見つめてくる。
全身を余すことなく見るように視線が動いて、自分で聞いたくせに、柚希はなんだかいたたまれなくなった。
「……そこまでまじまじと見られると、なんか照れるんだけど」
彼に他意はないと分かっていても、思わぬ羞恥に柚希は片手で顔を隠した。
それにはっとした翔が気まずそうに顔を顰めて「悪い」と謝ってくる。
本日、柚希たちが目的地としていたのは、昴の事務所から自転車で三十分ほど走ったところにある大通りの、一本奥にある住宅地だ。
通りに面した七階建てのマンションの裏、車二台がそれほど苦もなくすれ違える道路を挟んで反対側は一戸建ての住宅が並び、その先には収穫の終わっている葡萄の小さな果樹園もあった。
そのマンションの脇に、蹲る人影があった。
鎖骨までの髪、三十代前半くらいの女性だ。いや、男性か。
性別に左右されないTシャツにジーンズ、うつむき加減の横顔はほっそりとしていて、生前ほとんど陽に当たっていなかったのか顔色は青白い。
柚希はごくりと生唾を呑み込んで、その幽霊に近づいた。
ぼそぼそと喋る幽霊は何を言っているのかほとんど分からない。
死因も抱える未練も柚希が理解する前に、喋るだけ喋った幽霊は勝手に成仏していった。
ただひたすら胸の内を喋りたかったらしい。
「成仏してくれて良かったって言うべき。それとも勝手に完結すんなって怒っていい」
「面倒が少なかったんだから、喜んどけ」
違う意味でとても面倒だった気がする。
頑張って説得して成仏してくれた結果なら達成感もあるのだが、なんだかただ疲れただけですっきりしない。
だがそれは柚希の我が儘だろう。側に立ってずっと警戒をしていてくれていた翔は、何事もなく終わってほっとしているようだ。
柚希も気持ちを切り替えて体を伸ばした。
もちろん伸ばす体などないから気分なのだが、これから自転車で三十分の距離を歩いて帰らなければいけない。
ふと嫌な気配を感じて柚希は振り返った。
(なんだろう。すごく気持ち悪い)




