孤独少年、アルバイトを始める
「僕みたいな人外ならともかく、普通の人間が幽霊に触るのは不可能と言ってもいいでしょう。手っ取り早いのが、誰かに乗り移らせて入れ物をぶん殴るのが一番です」
「それって、幽霊に痛手を与えられるの?」
「まさか。痛いのは乗っ取られたあげくにぶん殴られた可哀想な人だけですよ」
「なにそれ、意味ないじゃん」
死神の言に柚希は呆れて呟く。
隣にいる翔は疲れたように溜め息を吐いただけだ。
「まあ、つまりそういうことなので。死神さま特製『幽霊も殴り飛ばせる手袋』をお貸ししますよ。あ、貸し出し賃は体で払ってくださいね」
という経緯のもと、翔が柚希の仕事である死神代行の手伝いをしてくれるようになってから一週間が経った。
翔と知穂が見舞いに来てくれたお陰で、柚希はあのあと一週間かかる体力回復を二日ほどで済ませることができた。
登校したその日に翔から話しかけられ、一緒に昴の事務所まで行って聞いた話がこれで、驚く柚希に翔は仕事に同行すると言った。
なんでも、幽霊を見分ける訓練にちょうどいいということだ。
ぶっきらぼうに言った翔を、昴がにやにやしながら見ていた理由は謎だが、そこを突っ込むとせっかくやる気になっている翔の気持ちを曲げてしまいそうで、柚希はあえて聞かないことにした。
翔が昴から借りることになった手袋は、ぴったりとした黒革の手袋で、甲のところには白いクロスがはいっている。
試しにとその手でデコピンをされたがちゃんと痛かった。
(いや、なにも言わずに急にデコピンとか酷いけど!)
そんなこんなで、毎日せっせとお仕事だ。
その間に昴の仕事のしなさっぷりを知った翔が顔を顰めたが、彼も早々に死神にはなにを言っても無駄だと悟ってくれたらしい。
翔の仕事は柚希の護衛と言っていいだろう。
成仏させる過程で逆恨みしたり、無念を訴えるのにヒートアップして暴走する幽霊たちを遠慮なくぶん殴っていく。
翔は危機察知能力と引き際を心得ている。
立ち回りも上手く、幽霊と会話をするときは周りに普通の人が居ないのを確認してからだ。
翔と一緒に仕事をするようになってからは失敗して寝込むこともなくなった。白うさぎに助けてもらはなければいけない場面はほとんどない。
「あれ? 今日の場所はちょっと遠いんだね」
「ぎりぎり僕の管轄内なんですよね、そこ。まあ自転車で行ける距離ですし、よろしくお願いしますよ」
爽やかに頷く昴に胡乱な目を向けて、翔が柚希の手から調査書を抜き取った。
紙にはターゲットのプロフィールと地縛霊となっている場所が書かれている。
地図を見た翔が顔を顰める。
「近くにバス停があるな」
「駄目ですよ、バスなんて。お金掛かるじゃないですか。若いんですから体使ってください」
「昴さんのケチー!」
「ケチで結構。それに翔くんには、そろそろこれくらい克服してもらわないと」
「え?」
意味が分からず翔を見上げると、彼は嫌そうに顔を歪めていた。
不機嫌になりそうな気配に、柚希は慌てて口を開く。
「昴さんのさぼり魔、運動不足、プチメタボ、若年寄に……」
「柚希くん?」
「お仕事行ってきまーす!」
甘い声にゆらりと怒気を立ち上らせた昴に、柚希は翔をせっついて事務所を出た。




