孤独少年、イノシシ娘のお見舞いに行く
「……ちゃん、……ずちゃん」
誰かの呼びかけに、柚希は微かに瞼を震わせた。
瞼が重い、頭も重い、むしろ体全体が重い。
といっても原因は肉体によるものではない。魂の摩耗、そして欠落だ。
囓られた魂は、いわば生命力である。
魂を喰われると即、死。もしくは寿命を縮めるが、今回はほぼ無害な子鬼たちに甘噛みとほんの少し喰われただけで、数日で回復する程度のものだろう。
だが、その数日はうまく立ち上がることさえ出来ないほど疲弊する。
(だれ? 桃華?)
違う、桃華はもう柚希のことを呼んではくれない。
彼女は柚希の見ている前で死んでしまったのだから。
「柚ちゃん、柚ちゃんってば。起きてないの?」
「ちほ?」
「うん。おはよう、柚ちゃん」
「……おはよー」
目を開けると、制服姿の知穂がいた。
まだ起きることは出来なかったけれど、挨拶だけは返しておく。
ベッドの横に膝をついていた知穂は、目をしょぼしょぼさせている柚希に笑って、うつぶせで寝ている柚希の髪を軽く撫でた。
「学校帰り? お見舞い、来てくれたの?」
「そうよ。ついでに配られたプリントも持ってきたから」
「ありがとー」
ときどきバイトで失敗する柚希は、数日学校を休むことがある。
そのたびに、というわけではないが、知穂が見舞いに来てくれることがあった。
「わたし、何日休んでる?」
「今日で四日目ね」
「あーぅー」
これはやばい、成績が。
枕に顔をうずめた柚希に笑った知穂は、指先で柚希のこめかみをぐりぐりと押してきた。
「今日はね、お見舞いに来たのわたしだけじゃないのよ」
「え」
「驚いちゃった。向こうから話しかけられたのも初めてだし、その内容が柚ちゃんのお見舞いなんだもの」
「ほえ」
柚希が間抜けな声を出したのと、開けっ放しだったドアがコンコンと叩かれたのが同時だった。
柚希はぽっかりと口を開けた。
そこに居るはずのない人の姿が見えたのだ。
「知穂、大変。高坂くんが居る。頭が重すぎて幻覚まで見えてきちゃった」
「大丈夫、柚ちゃん。現実と幻覚が区別できないのは、柚ちゃんが抜けてるだけだから」
「それ全然大丈夫じゃないし」
くだらない女子の会話に、翔が呆れたように溜め息をついた。
「幻覚じゃねえよ。人を勝手に幻にすんな」
「ヤバい知穂ちゃん、幻聴まで聞こえる!」
「阿呆」
柚希は知穂に訴えたが、幻だと思った翔に端的に突っ込まれた。




