孤独少年、死神さまに教えを請う
翔は一番後ろの自分の席で、グラウンドの上に広がる鱗雲を眺めていた。
教師の声はあまり耳に入ってこない。ちらりと黒板に目を向けると、例の女学生風幽霊が熱心に講義を聞いているのが目に入り、思わずため息が出る。
夜に学校へ忍び込んだ日から三日、柚希はあれから学校に登校してきていない。
体調不良だということだが、間違いなくあの騒動が原因だろう。
囓られたと言った彼女は、見た目的にそのような痕は見受けられなかったが、それでもなにかしらか不調をきたす原因となったはずだ。
数日悩んだが、やはり気になるものは気になる。
今度は自嘲の溜め息を吐いて、翔はシャーペンを投げ出した。
あまり身にならなかった一日を終え、翔は図書室に寄らずに帰路についた。
追いかけてくる声がないのが心をざわつかせる。
柚希に話しかけられないことで、彼は改めて学校内で自分に話しかけてくるものがいないことを認識してしまった。
(この責任は、取ってもらわないとな)
同じものを見て話せる相手がいる。それは自分の頭がおかしくないという証明。共有できる仲間を得る安堵。
そんな相手が離れてしまうと不安になって、こちらから近づいてしまうのは仕方ないことかもしれない。
昴死神事務所と書かれたドアの前に立つ。一度深呼吸して覚悟を決めると、翔は胡散臭いドアを開けた。
「おや、これは意外なお客さんですね」
入ってきた翔にまったく驚く様子もなく、昴はデスクに座ったまま顔だけ上げた。
もう一度深く息を吐く。
デスクの前に立った翔を、昴は面白そうに見上げて口端を上げた。
「相澤のことだけど」
「大間抜けな柚希くんですか? 魂囓られちゃってますからね、あと一週間くらいは回復に時間が掛かりますよ」
「そうか」
「あれ、いままでずいぶん無碍にしていたのに、彼女のことが心配ですか?」
その通りだが、素直にそうだとは言いづらい。翔は微妙に意味をずらした。
「……あいつ、成績まずいだろ」
「ああ、柚希くん、身の丈に合わない高校に入ってますからね。あんまり休んでると留年かも?」
まったくもってその通りだが、ぼかすことのない言いようになんとなく疲れが溜まる。柚希はよく、この死神と付き合っていけるものだ。
翔は気負ってきたのが馬鹿馬鹿しくなって、さっさと本題に移ることにした。
翔の質問ににやにやしながらも、昴は存外素直に答えてくれる。
昴は印象がちぐはぐで掴み所がない。
まず死神だということからして胡散臭いし、質問には答えるのに肝心な部分は避けられているような違和感、話せば話すだけ釈然としないものが積もっていくような気がする。
聞きたかったことを聞き終えた頃には、ものすごい疲労感に襲われて溜め息をついた。
長居はご免だと昴に軽く礼を言った翔は、早々に退散することにした。
その背を死神が呼び止める。
「あのとき言っていた、幽霊をぶん殴る方法についてですけど……」
振り返った翔は、にやにやと意地の悪い笑みを浮かべる死神に思いっきり顔を顰めた。
***
耳を劈くブレーキ音。放り捨てられた傘。双子と悲鳴、伸ばされた手。
世界がスローモーションで動く。――衝撃。
そして私は、漆黒の美しい死神と契約する。
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