孤独少年、宿直に見つかりかける
幽霊学生が成仏したのを見届けた柚希は、教壇に腰掛けて深々と溜め息をついた。
これで明日からの学校生活は安泰だ。
ほっと安堵の息を吐いた柚希の腕が、横からちょいちょいとつつかれた。
いまの柚希に触れられるのは幽霊だけだ。
瘴気や邪気をため込んだ幽霊に触れられるのはとても危険だが、無害な幽霊との接触は微かに魂が擦れ合うような弱い違和感を生むだけで特に害はない。
見れば大正の女学生風の幽霊が柚希の隣にしゃがみ込んでいた。
首を傾げる柚希に、女学生は自分の唇に指を当て、教室の外を指さす。
その意味することを数瞬ののち気づいた柚希は、慌てて自分が乱した机を直している翔に声をかけた。
「高坂くん、誰か来たっ。隠れて!」
柚希の手招きに顔を強張らせた翔は、音をさせずけれど足早にやってくる。
その途中でうさぎを拾ってくることを忘れない。
翔が教卓の中に隠れていくらもしないうちに、廊下の向こうから足音が近づいてきた。
ゆらゆら明かりが揺れているのは懐中電灯だろうか。
「おーい、誰かいるのか? おかしいな、物音がした気がしたんだが」
「担任だ。今日、宿直だったんだ」
柚希はひやりとした。
教えてもらえなかったら、翔が見つかっているところだった。
こんな時間帯に学校に忍び込んでいるのを知られたら、間違いなく大目玉だ。
入り口から教室内を懐中電灯で照らしてくるが、教卓の内側にいる翔に気づく様子はない。
担任は首を傾げながらも、詳しく教室の中を覗くことなく見回りに戻っていった。
柚希はずっと横に座っていた幽霊に向き直った。
「教えてくれて、ありがとう。助かったよ」
女学生に手を合わせて礼を言うと、にっこりと笑って頷かれる。
男子幽霊とは違い、とても感じのいい幽霊だ。
柚希は教卓の中に隠れている翔に声をかけた。
「ちょっと、ちゃんと行っちゃったか見てくるね。高坂くんはまだ出ちゃ駄目だよ」
ここまで付き合ってくれた翔を、何事もなく家に帰さなければ。
見つかる心配のない柚希は、担任の後を追って教室を出た。




