イノシシ娘、取り憑かれかける
その日は何事もなく過ぎたが、次の日も柚希は教室で謎の頭痛に悩まされることになった。
今度は眩暈までする気がする。
「なんかこれ、ヤバいかもー」
流石にこれは何かあると柚希でも察することができる。おそらく何か霊障的なものだ。
一度教室を出るかと悩むが、たぶんそれでは解決しないだろう。
とりあえずポケットに忍ばせておいたチョコレートを口に放り投げて自分の席に座る。
顔を伏せてぐってりと座っていると、突然後ろから頭を叩かれた。そのまま勢いで額を机に打ち付ける。
「……痛い」
額は痛いがやはり頭痛は消えた。振り向くと呆れ顔の翔が立っている。
「お前、学習能力ないのか?」
「割とないかも」
深々と溜め息を吐かれ、「ベランダ」と一言告げられた。
背を向ける翔について柚希もベランダに出る。
彼は前と同じように手摺りに寄りかかって教室に目を向けた。
いつも通り無愛想だが、いつも以上に険しい横顔に向かって恐る恐る問いかける。
「一体なにが起こっているのか、説明していただけると……」
「おっはよー!」
教室の中から元気すぎる挨拶が聞こえて、思わずそちらを見た。
登校してきた男子生徒が上げた声らしく、その高すぎるテンションに友人に嫌な顔をされている。
「朝からうるせえぞ。なんでそんなに元気なんだよ」
「こんな良い朝に元気がなくてどうすんよ」
「お前、この間まで毎日謎の疲れに悩まされてただろ。あれ、どうしたよ」
「いやー、なんか昨日からそれなくなったんだよね」
そんな会話が聞こえてきて、柚希は首を傾げた。
疲れがなくなったと言っている男子生徒は、確か毎日取り憑かれかけていた生徒だ。
(取り憑かれなくなったってことかな、良かった。……って、あれ? わたしの頭痛って……)
「まさか、わたしに鞍替えされた?」
「みたいだな」
「いやぁああぁぁー!」
さらりと肯定されて青ざめる。
では知穂といろというのは彼女の守護霊に守ってもらえということか。
頭を叩かれるのは、入っている幽霊を叩き出してくれていたのか。
「いまも窓の内側で恨めしげにこっちを見てる」
「いーやーだぁー」
柚希は頭を抱えて悶えた。
どうしようと助けを求めるように隣を見ると、相変わらず翔は教室内へ厳しい目を向けている。
(もしかして、例の幽霊にガン飛ばして牽制してくれてる?)
幽霊と目を合わせる行為はそれなりに危険なものだ。
それでも敢えてそうしてくれているのは、再び柚希が取り憑かれないためだろう。
「明日からは、知穂と一緒に登校してくるね」
「そうしろ」
翔の素っ気なさはいつも通りだが、柚希はにまにましそうな頬を押さえて頷いた。




