イノシシ娘、頭痛がする
かなりの精神力を使うことになった昨日の仕事で、朝から柚希のヒットポイントはほとんどゼロに近いところにあった。
しかも学校に来た途端、なぜだか酷い頭痛に悩まされている。
「あ、頭痛い。なんか気持ちも悪くなってきた気がする。何でー。しかも高坂くん居ないしー。馬鹿ー」
涙目でぶつぶつ言いながら、意味の分からない八つ当たりをしてみる。
窓際一番後ろの席にはあるはずの姿がない。
鞄は置いてあるので登校しているはずだが、まさかまた逃走だろうか。
(昨日は朝から居たのに。っていうか、今日は追いかける元気なんてないしぃ)
まばらに登校してきたクラスメイトたちは柚希の百面相など慣れたもので、注意を払う者はいない。
日々の翔との追いかけっこすら、すでにクラスの風景の一部だ。
教室の開く音がして顔を上げると、ドアの所に翔が立っていた。
その手に持っている紙パックに、飲み物を買ってきていただけかと納得する。
いつもの柚希なら声をかけるのだが、今日はどうにも体が重い。声を出すのも億劫だ。これは本格的に風邪でも引いたのだろうか。
翔は机にぐでっとしている柚希を見てちょっと目を瞠った。
悩むように眉を寄せると、周りを見回してから珍しく彼の方から近づいてきた。
「高坂くん?」
「……」
柚希の机の前に来てじっと黙っている翔に、掠れ声ながらも呼びかける。
返事はない。さらに難しい顔になった彼の制服の袖に手を伸ばして引っ張る。
「おはよう」
「……はよ」
今度は返事が返ってきた。
ほっとしたような顔の翔に、やはり柚希が幽体じゃないか悩んでいたようだ。
「あのさ、……いだっ、痛い、痛い、なにっ?」
急に頭を叩かれた。しかも結構容赦なく。
(あれ? なんか既視感)
確か昨日も自分は叩かれていなかっただろうか。
柚希の頭は太鼓じゃないし、叩いてもピッコーンと解答権を主張できるランプは点かない。
ただでさえ酷い頭痛が悪化すると文句を言おうとした柚希は、そこであれほど痛かった痛みが治まっているのに気づいた。
「あれ?」
「相澤、今日一日笹間のそば離れんなよ」
「あれ? それも昨日聞いた」
一体どういうことだと首を傾げる柚希に返事をせず、知穂が教室に入ってきたのを見た翔は、そのまま自分の席に戻っていってしまった。
質問する間もない。
「おはよう、柚ちゃん。どうしたの?」
「おはよう。んー、よく分かんないんだけど、知穂。今日はずっと一緒にいてね」
不思議そうにする知穂に、柚希も首を傾げた。




