死神さま、説明する
「治るのか? この目が」
逆に翔の方は驚いたように柚希の方を凝視してくる。
「治りませんよ。というよりそれは治すようなものではありません」
雑誌のページを捲りながら、昴が何でもないことのように言う。
「そういった異能は、生まれながらにして持つその人の個性です。柚希くん、コーヒー」
合間に挟まれた注文に、柚希は給湯室にすっ飛んでいった。
その間に昴は翔への説明を続けてくれている。
「伸ばしたりへたれさせたりすることは出来ますが、完全に消すことは出来ません。君は全力疾走のタイムを遅くすることが出来ますか? りんごを青い果物と見ることが出来ますか?」
「……なるほど」
「なるほどー」
不承不承なようすで頷いた翔に続いて、柚希も頷いた。
角砂糖を十個ほど入れたコーヒーを昴に渡すと、彼はそれを美味しそうに啜って先を続ける。
「まあ、それでも何か対策をしたいというのなら、習うより慣れろですね。百の人間と百の幽霊を見て観察していけば、そのうち見分けも付くようになるんじゃないですか」
「あ、じゃあ高坂くん。これから……」
「行かない」
「……」
取り付く島もない。
いや、別に今回は仕事を手伝ってもらいたくて連れてきたわけではないのだが、結果的にはそういった雰囲気になってしまった。
「話ってのはこれだけか?」
「えっと」
「なら、帰らせてもらう」
「ま、待ってぇ」
懇願する柚希に振り返りもせず、翔はそのまま事務所から立ち去ってしまった。
閉められたドアにがっくりと項垂れる柚希に、昴が肩を竦める。
「気持ちいいほどの素気なさですね。というより柚希くん。君やっぱり馬鹿なんですか? もし彼にあの能力がなくなったら手伝ってもらえなくなるじゃないですか」
「だって……」
手伝って欲しいのは事実だが、それでも翔の無愛想が、その理由を知ってしまったいまは寂しいと思うのだ。
普通の男の子のように馬鹿やって巫山戯て笑って、生きているのだからそういう生活を送って欲しいと思う。
それが例え、柚希のエゴなんだとしても。
「ああ、でもやっぱり手伝って欲しいぃ」
「はい、柚希くん。君も気持ちを切り替えてさくさくお仕事に行きましょう。あ、その前にコーヒーをおかわり」
「……昴さんの鬼ぃ」
結局この日、柚希はひとり半泣きで拝み倒すように、仏さまたちにお墓へのお帰りを願うことになった。




