孤独少年、孤独な理由
その日一日、柚希は翔を追いかけなかったし、翔も休み時間事に教室からいなくなるということもなかった。
追いかけっこをしていたときとも、その後のどこか気まずい雰囲気とも違う二人の様子に、クラス中の生徒たちがなにかあったのかと窺ってくる。
その気配を黙殺しながら、柚希は食べ終わったお弁当をナプキンで包んだ。
机に置いたお弁当箱に顎を乗せ、向かいで最後の総菜を口に運んでいる知穂の顔を眺める。
じぃっと見つめる柚希の視線に、知穂が首を傾げた。
「どうしたの、柚ちゃん」
「……知穂、大好き」
「ええ?」
突然の告白に、知穂は目をパチパチさせた。
数瞬考えるように間を開けたあと、ふわりと微笑む。それはあの守護霊が浮かべた微笑によく似ていた。
「わたしも柚ちゃん、大好きよ」
「ありがとう」
はにかみながらお礼を言いつつ、柚希は顔を伏せた。
好きだと言われることが、思われることがこんなに苦しいことだとは思わなかった。そんな資格なんてないのに。
泣きたい気持ちを眉間にぐっと力を込めて耐え、教室の一番後ろにいる翔をのぞき見る。
コンビニで買ってきたと思われるパンを囓りつつ、彼はぼんやりと外を見ていた。
彼の視線の先にはなにがあるのだろう。ただの空か、幽霊でも飛んでいるのか。
幽体となって翔と歩いているときには気づかなかったが、ひとりで体へと戻るとき、柚希は学校中にいる幽霊の存在をみてしまった。
廊下で何人の霊とすれ違っただろう。
窓の外で歩いている人たちのいったい何人が本物だったのか。
廊下の隅をやたら沢山の子鬼たちが駆け回っていた。
これでは廊下を歩くだけでも緊張するはずだ。
幽霊と目を合わせないように、あらゆる人から目を逸らしたくなるのが分かる。
けれど翔は、柚希のために怒る知穂を見て、「羨ましい」と言っていた。
人と関わり合いたくないわけがない。友達が欲しくないわけがない。
だが翔には難しいのだろう。
幽霊が見えることを理解してくれる友達ができれば一番いいのだが、たいてい人は自分に理解できないものは拒む傾向にある。
柚希だって自分がこんな体質をしていなかったら、幽霊や子鬼の存在など信じられたか分からない。
彼には仕事を手伝ってもらいたい。それ以上に柚希の願いの手助けをしてほしい。
だがいまは、翔が少しでも生きやすいように、自分に出来ることがあればいいなと思った。




