一年五組、いつものチャイム
肉体に戻った柚希は、幽体で駆けた廊下を急いで逆走する。
五組の教室を勢いよく開けると、勢いが良すぎたのかスパンと景気の良い音がなり、ずいぶん増えていた教室内の生徒たちが振り返った。
翔も知穂もまだベランダにいた。
今度は自分の手でベランダのドアを開けると、柚希の突然の登場に目を丸くしていた知穂に明るく笑いかける。
「おはよう、知穂! もうすぐホームルーム始まるよ」
「中に入ろ」と促すと、知穂は不思議そうに首を傾げた。
守護霊が見えなくなったからか、そこにいるのはいつもどおりの知穂だ。
彼女の背後に目をやりたくなるのを堪えて、とりあえずにこにこと愛想笑いを浮かべてみる。
「高坂くんも、席に戻って……」
言いながらペチペチと彼の腕を叩くのは、いまは幽霊じゃないですよーという柚希なりの合図だ。
どうしてだか、柚希が現れてからじっと視線を注いできていた翔は、手を伸ばして柚希の頭に触れた。
「え? ……って、いだっ。痛い痛い痛い」
そのままバシバシと脈絡もなく頭を叩いてくるものだから、柚希は悲鳴を上げて頭を庇った。
「なに? なんなの?」
腕を叩いた仕返しか。心が狭い。
「あらら、柚ちゃん髪の毛ぐちゃぐちゃ」
「ちょっと知穂、笑ってないで助けてよ」
先ほどの剣幕はどこへやら、知穂は柚希が涙目になっても楽しそうに笑っているばかりだ。
やはりあの迫力は守護霊効果なのか。
なにも言わず柚希の頭を叩いていた翔は、最後に彼女の肩に手を置いて耳元で囁いた。
「お前、今日は笹間のそばを離れるなよ」
「?」
疑問符を浮かべる柚希にそれ以上の説明もなく、翔は教室側に立っていた柚希たちの横をすり抜けて教室に戻ってしまう。
さらに柚希が首を傾げたとき、朝のチャイムが学校内に響き渡った。
***
「変わらずにいられると思う?」
「望む限り。大丈夫だよ」
「本当に? なんで言い切れるの」
「大丈夫。約束する。だって大好きなんだもん」
「……ずるい。私が言おうと思ったのに」
「知ってる。だから先に言っちゃった」
***




