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死神さま、援護しない

 むくれる柚希に、昴は肩を竦めた。


「それで、彼には手伝ってもらえることになったんですか?」

「なるわけない」


 柚希が答える前に翔に即答されてしまった。

 ますますむくれる柚希を、昴が呆れたように見てくる。


「口説き落とすのが下手ですねえ。イノシシ根性でただ突っ込んでいけばいいものではありませんよ」

「イノシシって……」


 そんなに自分は猪突猛進だろうか。

 そういえばこの前知穂にも同じようなことを言われた。


「利益をちらつかせてでも、脅しをかけてでもじわじわ追い詰めていかなくては」

「……」

「獲物を追い詰め弱ったところを狩るあの快感。堪らないですよぉ」

「……悪趣味」


 ぼそりと呟いた翔に、柚希としても昴を擁護できない。

 頷きたくなるのだけは我慢して、うさぎの後頭部に口元をうずめた。

 何様俺様、死神さまな昴は白い目を向けてくる少女たちを気に留めることもなく、持っていたペンの先で柚希と翔を交互に差してくる。


「でも実際問題、君みたいな人が手伝ってくれるのは柚希くんには必要なんですよ。ただでさえ貧弱な柚希くんは霊体になるとさらに脆弱ですからね。この世ならざる者たちにとっては、カモがネギを持ってしかも自ら皮を剥いで散歩しているようなもんです」


 近いうち美味しく頂かれちゃうでしょう。と笑えないことを言う昴に柚希は顔を引き攣らせた。


「例えがえげつないよ、昴さん」

「言い得て妙だと思いますが?」


 にっこり笑って取り合ってくれない昴に、それ以上柚希はなにも言えない。

 正確には何か言う体力も無かった。やはり瘴気は体に多大な負担を強いるようだ。

 ぐったりと脱力する柚希を指さして、昴が立ったままの翔にさらに声をかける。


「このように柚希くんはよくグロッキー寸前になってますが、これでも今日は君が居たおかげでマシな方なんですよ」


 どうやら昴は翔を引き入れるのを協力しようとしてくれているようだが、それにしても柚希を評する単語がさきほどから酷い。

 いやそもそも、彼が翔を勧誘する理由は柚希のためではなく、自分の仕事量を減らしたいがためだろう。昴とはそういう死神だ。

 うさぎを抱えてソファーにぺったりくっついている柚希を、翔がちらりと見てくる。


「俺は何もしてない」

「居るだけで良いんですよ。生気の強い生者の側は瘴気も幽鬼も嫌がります。逆に生きながらに飛び出しちゃう柚希くんみたいなお馬鹿さんな魂には栄養剤みたいなものなんです」


 栄養剤扱いされた翔の眉間に皺が寄る。

 嫌そうな顔に、それはそうだろうと柚希でさえも思った。

(援護になってないよー、昴さん)

 内心で昴に突っ込みつつ、翔の顔色を窺う。

 翔は少しの間、考えるように沈黙した後、いつも通りの興味のなさそうな表情で顔を上げた。


「俺には関係ないし、わざわざ厄介事に首を突っ込む趣味もない」

「ちょ、まっ……」

「手伝うつもりはない。だからもう関わってくるな」

「ま、まって」

「そういうことだから」

「待ってぇぇ」


 いまだ動きの悪い体で手を伸ばすが、翔は無情にも柚希に背を向けて扉を開けた。

 階段を降りていく音だけが、ソファーから起き上がれない柚希の耳に微かに聞こえてくる。


「まったく強情ですね。だから彼は友達がいないんですよ」

「……昴さんの馬鹿ぁー」


 翔の頑なさに止めを刺した昴が、まったく悪びれずに肩を竦める。

 初めのころに比べて今日一日で、だいぶ会話もしたし、付き合ってもくれるようになったと思ったのに。

 明日からもおそらく、いままで通りの追いかけっこの繰り返しになってしまうのだろう。


(そういえば、結局謝るのもできてないし)


 うさぎのお腹に突っ伏した柚希は、八割の恨めしさと二割の八つ当たりで、死神というよりも疫病神な雇い主に悪態をついた。



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