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魔法はAIに管理されているはずだった  作者: (趣味で)ラノベ書くおじさん


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第8話 臨海副都心騒乱 3「古代精霊魔法、開放。黒炎の契約者」

 悠真がもう一歩。


 前に出る。


 背後には。

 逃げ遅れた市民もいる。

 恐怖に慄き、身動きが取れない一般魔導警察官もいる。


 ここで引けば、全員が死ぬ。


「悠真」


 耳元でサラが囁く。


 その声は不思議なほど穏やかだった。


「もう迷わないで」


「あなたの炎は、壊すためだけの力じゃない」


 悠真は静かに目を閉じる。


 胸の奥で眠っていた黒い炎が。


 小さく。


 徐々に大きく。

 

 その脈を打った。


 初めて暴走した実技試験。


 富士山麓で石碑を砕いたあの日。


 どれも制御できない力だった。


 だが今は違う。


 『守りたい人がいる』


 その想いだけが、炎を静かに燃え上がらせていた。


「サラ」


「力を貸してくれ」


 小さな妖精は微笑み、悠真の胸へ両手を重ねる。


「もちろん」


「あたしは、そのために悠真を選んだ」


 その瞬間だった。


 黒い炎が悠真の身体を包み込む。


 熱くない。


 燃えない。


 月のない夜空のように深い黒が揺らめき。

 

 その炎の中には、無数の星々を思わせる輝き。


 現代の魔法陣ではない。


 超古代の文字だけで構成された巨大な魔法陣が。


 悠真の足元から幾重にも展開される。


 大気が震えた。


 世界そのものが。


 悠真へ応えるように。


 極紫の魔獣師の表情が初めて曇る。


「……その術式」


「まさか」


「精霊契約……!」


 悠真は右手を天へ掲げた。


 誰かに教えられたわけではない。


 それでも分かった。


 この魔法の名前が。


星焔守護ターラ・ジョティ――!」


 黒い光が、一気に解き放たれた。


 それは炎ではなかった。


 無数の光粒が街を包み込み、巨大な半球状の結界を形成する。


 瓦礫も。

 負傷者も。

 レイナも。


 廉太郎も。


 すべてを優しく包み込んでいく。


 天へと掲げられていた右手を。


 そのまま、前方へと突き出す。


「古代精霊魔法――」


 黒炎が渦を巻く。


星焔黒蓮カラ・カマル


 放たれた黒炎は一本の奔流となり。

 漆黒の光槍となり。


 眼前に立つ、“その女”に激突した。


 轟ッ――!!


 激しい衝突音。


 彼女を包む極紫の魔力は黒炎へ触れた瞬間。


 悉く燃え尽きていく。


 吸収でもない。

 相殺でもない。


 “存在そのもの”が焼き尽くされていた。


「そんな……!」


 魔獣師が目を見開く。


「古代魔法を……燃やしている……?」


 悠真は答えない。


 想像を絶する質量の黒炎を纏ったまま。


 駆け出す。


 一歩踏み込むたび、アスファルトに黒い火花が散る。


 瞬間加速。


 一気に間合いを詰める。


「速い!」


 魔獣師おんなが咄嗟に、極紫色の結界を展開する。


 悠真はそのまま拳を振り抜いた。


 黒炎を纏った拳が結界へ触れた瞬間――。


 パリンッ!


 ガラスのような音を立てて、結界が砕け散る。


「馬鹿な!」


 魔獣師は後方へ飛び退く。


 すぐさま十数枚の極紫色の魔法陣を同時展開し、

 

 ベヒーモスの大軍勢を顕現させた。


「……その程度か」


 迫り来る絶望の軍勢を、悠真は退屈そうに一瞥した。


「全部まとめて――燃え尽きろっ!」


 左手を薙ぐように振るった。

 巨大な黒炎の弧が描かれる。


 それに触れたベヒーモスたちは。

 

 術式ごと――

 

 存在した痕跡すら残さず完全に消滅した。


「あり得ない……!」

「 私の術式が、分解されている……!?」


 魔獣師の額に。

 初めて本物の絶望の汗が滲む。


 悠真はさらに踏み込む。


 その右腕へ。

 黒炎が一本の長剣として収束していった。


 刀身の中で星々が瞬いている。


「黒炎の剣……」


 魔獣師は息を呑んだ。


 彼女が放つ、禍々しい極紫の連撃。


 だが。

 

 悠真はそれを一歩も引かずに。

 

 黒い軌跡で一刀の下に切り伏せていく。


 触れる先から。

 ()()()魔力剣が音を立てて崩壊していく。


「しまっ――」


 悠真はその隙を逃さない。


「終わりだ」


 黒炎が渦を巻き、巨大な魔法陣が上空へ展開される。


 サラも両手を掲げた。


「悠真!」


「今!」


 悠真は深く息を吸う。


 黒炎がすべて右腕へ集束する。


 星々の輝きが一つに重なり。


 巨大な黒い焔球へ変わった。


――その身に宿すは、創星そうせいの神力。


「古代精霊魔法――」


「『星焔創黒蓮タリキ・カマル』!!」


 幾層もの黒い極大の炎が。

 二重螺旋を形作り。


 一直線に放たれる。


 魔獣師も最後の魔法陣を展開した。


紫血食ブラッド・エクリプス!」


 極紫と漆黒。


 二つの極大魔法が正面衝突する。


 ――世界が()()染まった。


 数秒後。


 均衡は崩れた。


 黒炎が極紫色の魔法を飲み込み、そのまま魔獣師を包み込む。


「まさか……」


精霊魔法ホンモノは……ここまで……!」


 断末魔とともに黒炎が天へ舞い上がる。


 やがて光が消えたとき、そこに魔獣師の姿はなかった。


 静寂が街を包む。


 悠真の手から黒炎が静かに消えていく。


 激しい疲労が全身を襲い、その場へ膝をついた。


 その背後から、小さな足音が近づく。


 傷だらけのレイナが。


 半壊した端末を握りしめたまま。


 信じられないものを見る目で悠真を見つめていた。


 端末の画面には。


 【計測不能】

 【判定不能】


 赤い文字が今も明滅している。


(《メーティス》の演算を、力尽くで上書きして消し去った……!?)


(国家最高峰の防衛障壁すら数秒で破る魔獣ベヒーモスが――)

(影も残さず消されたなんて……)


(私が子供騙しに見えるほどの、圧倒的な『高次元のシステム』……!)


 レイナの身体が。


 恐怖とも畏怖ともつかない感情で。


 微かに震える。


 だが、彼女はゆっくりと息を吐き出し。


 真っ直ぐに悠真を見つめ直した。


「……ありがとう、悠真くん」


 その声は、監察官としてのものではなかった。


 一人の少女としての、心からの感謝だった。


 その様子を見つめていたサラだけは。


 消えゆく黒炎の残滓を見上げながら。


「この力は……」

「間違いないよ」


「今の世界が何と言おうと」

「あなたはあたしの」


「世界でたった一人の契約者さん――」

 

 サラは、誰にも聞こえない小さな声で。


 愛おしそうに。


 そう囁いた。


――


 一方、東京湾海底。《メーティス》。


【第二次接触:終了】


記録レコード:完了】


【各国の《メーティス》と同期を開始】


――続く。

 次話、「臨海副都心騒乱 4『夏の終わり。それぞれの思惑』」

 <夏の思い出と、忘れ物。そして、沸き立つ思惑>

※本作はカクヨム様と同時投稿を行っております。


■7/3、わずかに表記揺れを修正しました。

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