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【完結】魔法はAIに管理されているはずだった  作者: (趣味で)ラノベ書くおじさん


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第60話 「夜明けの漆黒」

終焉級精霊魔法が打ち砕かれた、その直後。


 崩壊を始めた戦場に、一筋の転移光が走る。


 強制転移術式。


 戦闘区域からの緊急離脱を目的とした古代術式だった。


 その光に飲み込まれようとしていたのは――。


 アーサー、マモ、そして皇弟アレクシス、付き従う妖精アジー。


 しかし。


「……行かせない」


 静かな声とともに、俺はその前へ立ちはだかる。


 黒炎が足元に揺れる。


 転移術式は俺の魔力に干渉され、不安定に明滅した。


 アーサーがゆっくりとこちらを見る。


「天城悠真……」


 その瞳には、もはや先ほどまでの余裕はなかった。


 それでも王子は笑う。


「まだ終わってはいない」


 懐から取り出したのは、小さな虹色の結晶。


 ムーでもアトランティスでもない。


 どこかの古代文明が残した禁忌の遺物――『増幅器ブースタ』。


 本来。


 一柱ひとりの妖精で扱えないほどの高魔力を、強制的に圧縮・増幅する装置。


「王とは」


「民を導く者ではない」


「民を従わせる者だ」


 その言葉と同時に、ブースタが禍々しく脈動した。


 マモが苦しげに膝をつく。


「ぐっ……!」


 黒い翼から魔力が強引に吸い上げられていく。


 さらに。


「兄上……やめてください!」


 アレクシスの胸元からも魔力が引き抜かれる。


 肩の上のアジーが悲鳴を上げた。


「アレクシス!」


 それでもアーサーの表情は変わらない。


「犠牲なくして王は成れぬ」


「これが統治だ」


 四つの魔力が一つへ収束する。


 四重魔法陣が天空へ展開される。


 大気が裂けた。


 海面が持ち上がる。


 クリミア全域のメーティス観測網が一斉に警告を発する。


【警告:再度、超高密度魔力反応】


【警告:終焉精霊魔法級】


 アーサーは両腕を広げる。


「見よ!」


「これが王の力だ!」


 次の瞬間。


 巨大な虹色の激流が一直線に俺へ襲い掛かった。


 轟音。


 いや。


 爆発という表現すら生ぬるい。


 地面が消えた。


 一直線に抉られた大地は数百メートル先まで赤熱し、海水すら蒸発していく。


 レイナが息を呑む。


「悠真くん!」


 龍之介が歯を食いしばる。


「あれは……!」


 ノアですら目を見開いた。


「本当に人間が放った魔法なのか……!」


 土煙が空を覆う。


 数秒。


 誰も声を出せなかった。


 やがて。


 煙の奥から、一歩。


 また一歩。


 黒炎が揺らめく。


 俺はゆっくり歩いていた。


 魔法は確かに命中した。


 だが、黒炎の衣を揺らしただけだった。


 傷はない。 焦げ跡すらない。


 アーサーの喉が震えた。


「……馬鹿な」


「あり得ない」


「何故だ!」


 俺は答えない。


 ただ静かに前へ進む。


 一歩進むごとに、背後から魔力が流れ込んでくる。


 五柱ごにんの妖精たち。


 世界中の契約者。


 そしてメーティス。


世界共同演算ユニゾン、継続】


【全契約者、魔力位相同期率九八・七%】


 俺は少しだけ笑った。


「聞こえるよ。みんな……」


 黒炎が静かに脈打つ。


 怒りではない。


 憎しみでもない。


 守りたいという願いだけが、魔力へ変わっていた。


 アーサーは半歩後退した。


 初めてだった。


 覇王を名乗る男が、恐怖で足を引いたのは。


「何なんだ……」


「その力は!」


 俺は静かに答えた。


「俺一人の力じゃない」


「だから、お前には勝てない」


 次の瞬間。


 黒炎が爆ぜる。


 音より速く間合いを詰めた俺は、拳をゆっくり握った。


 静寂が戦場を包む。


 その光景を見つめるアレクシスの瞳から、一筋の涙が零れ落ちた。


「終わりだ、アーサー」


 その一撃は、力ではなく――。


 悠久の時を越えてようやく一つになった――。


 |「人」と「精霊」と「AI」《世界そのもの》の意思だった。


――

 

 黒炎を纏った拳が、アーサーの胸を正面から撃ち抜いた。


 轟ッ――!


 衝撃波が大地を抉り、数百メートル先まで一直線に砂煙を巻き上げる。


 アーサーの身体は砲弾のように吹き飛んだ。


 戦場で横倒しになっていた戦車へ激突する。


 装甲が悲鳴を上げる。


 分厚い複合装甲が紙細工のように歪み、砲塔ごと大きく捻じ曲がった。


 金属片が宙を舞う。


 だが、それでも。


「……まだだ」


 戦車の残骸を押し退けるように、アーサーは立ち上がった。


 口元から血を流しながらも、その瞳だけはなお獣のように鋭い。


「私は……!」


「世界を統べる王になる!」


 叫びとともに、全身から魔力が噴き上がる。


 ブースターの残滓すら絞り尽くし、力へと変えていく。


 幾重もの魔法陣が展開された。


 光槍。


 雷撃。


 重力波。


 黒炎。


 空間断裂。


 数十にも及ぶ高位魔法が、一斉に俺へ襲い掛かる。


 爆発。繰り返す爆発。


 戦場は閃光に包まれ、視界そのものが白く染まった。


 龍之介が息を呑む。


「悠真くん……!」


 レイナは拳を握り締める。


 ノアも静かに見つめていた。


 “普通”ならこれほどの魔法を真正面から受けて、生きている者など存在しない。


 だが。


 煙の中から、一歩。


 黒炎を揺らしながら、俺は静かに歩いていた。


 何一つ傷すら付いていない。


 ただ、肩に座るサラが静かに……悲しそうに……微笑んでいた。


 アーサーの表情が凍る。


「……あり得ない」


「何故だ!」


 俺は答えなかった。


 一歩。また一歩。


 近付くたび、黒炎がその姿を変えていく。


 燃え盛る炎だけではない。


 漆黒だった炎は、ゆっくりと光を帯び始めた。


 星の輝きを内包したような漆黒の炎と光。


 相反する二つが混ざり合い、静かな輝きを放つ。


 サラが小さく呟く。


「悠真……もう終わらせよう」


 俺はアーサーの目の前まで歩み寄った。


 あと一歩。


 その距離で立ち止まる。


 アーサーは震える腕で剣を構えた。


 それでも、その切っ先は揺れていた。


 俺は静かに口を開く。


「アーサー王子」


 彼が顔を上げる。


「俺は……もっとちゃんと話がしたかったです」


 その一言だった。


 世界を支配したい王子と。


 世界を繋げたい少年。


 もし、どこかで向き合えていたなら。


 違う未来もあったのかもしれない。


 アーサーは苦しそうに笑う。


「話し合いで……」


「世界は変わらない」


 俺の、少し諦めに似た感情とともに口をついた言葉――。


「少しは変わりましたよ。貴方の様な方が皆の力で踏み潰される世界に」


 黒い光と炎が静かに右拳へ集束していく。


 漆黒は完全に光へ溶け込み、やがて夜明けのような輝きを宿した。


 すべての想いが、その一撃へ重なる。


 俺は静かに拳を引いた。


「さようなら、アーサー」


 そして。


 放つ。


 ジジ――


 電子ノイズに似た音を仄かに迸らせながら。


 漆黒の光が奔る。


 一瞬だった。


 次の瞬間。


 アーサーが立っていた空間は、静かに消えていた。


 爆発もない。


 炎もない。


 瓦礫も残らない。


 まるで、その場所だけが世界から切り抜かれたように。


 欠片一つ残さず。

 

 吹き抜ける風だけが、終わった戦いを静かに告げていた。


 力なく地面に伏せたマモを残し、静寂だけが戦場に降り積もっていた。


 その時、メーティスのアラートが、非情に響き渡った。


【警告:妖精マモの“存在”に異常】

【存在消滅――残百二十秒】


――続く。

 次話、「終わる戦禍。旅立ち──そして」

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