第59話 「終焉は、もう一度世界を覆う」
二〇分後――。
世界中の契約者が、一斉に戦場へ集結した、その時だった。
最前線。アーサーの隣に立つ黒翼の妖精――マモが、ゆっくりと両腕を広げる。
その仕草は、まるで世界そのものを抱きしめるように穏やかだった。
だが、次の瞬間、大地が激しく震えた。
ゴゴゴゴゴ――ッ!!
地鳴りが響き、空間そのものが悲鳴を上げる。
黒い魔力が、大気を侵食するように天へ昇っていく。
メーティスが警報を鳴らした。
【超高密度精霊魔力反応】
【演算不能――危険度、測定不能】
世界中のモニターが一斉に赤く染まり、すべての国家AIが同時に警告を発した。
その中心で、マモは静かに笑う。
「ならば……見せてやろう。最期の終末を」
広がる黒い翼。次の瞬間、水平線の果てまで大陸を包む魔法陣が空を覆う。
顕現する魔獣。
その姿は、歴史上、人類未踏の圧倒的な巨躯だった。
それを見た瞬間、サラの表情が凍りつく。
「……嘘、まさか……」
フェロも絶句し、レヴィは小さく首を振った。スサノオでさえ目を見開いている。
「知ってるのか?」
悠真の問いに、サラは青ざめた顔のまま、ゆっくりと空を見上げた。
「あれは……終焉級精霊魔法。あの日、世界を焼いた魔法、全部あれだった……」
サラの声は震えていた。
メーティスが冷酷な数値を弾き出す。
【確認:終焉級魔法】
【警告:単独迎撃――〇・〇〇%】
アーサーが静かに微笑んだ。
「見たか。これが、アトランティスの力だ」
マモだけが、嬉しそうに笑っている。
「一万年前、世界を終わらせた一撃。今度も同じだ」
その瞬間、悠真が一歩前へ出た。黒炎が静かに揺れる。
「……大丈夫だ」
その声は不思議なほど落ち着いていた。
「今回は、俺たちだけじゃない」
悠真の背後では、集結した仲間たちが誰一人日和らずに武器を構えていた。
メーティスが静かに全世界へ告げる。
【ユーザ名:天城悠真ヨリ要請】
【全契約者同期ヲ開始】
【接続率一〇〇%ヲ維持】
世界中の魔導ネットワークが一つになり、全妖精たちの魔力が共鳴する。
あの時、決して存在しなかった光景。
その中心で、悠真は黒炎を静かに構えた。
「やるぞ」
黒い終焉の魔法陣が、ゆっくりと回転を始めた――。
――
巨大な黒い魔法陣は、着々と回転速度を増していく。
【超高密度魔力収束。着弾推定、三十秒】
マモは静かに微笑む。
「終わりだ。どれほど手を取り合おうと、人はこの力を越えられない」
悠真は一歩前へ出ると、黒炎を構えながら、静かに息を吸う。
【同期――最終段階。最大出力】
世界各地で同じ光が一斉に灯り、五柱の魔力が悠真の元へ重なる。
「悠真、お願い。みんなの未来を――」
サラが肩へ降り立ち、悠真は不敵に笑った。
「みんなで守ろう」
その刹那、メーティスが宣言する。
【全統合共同演算、完了】
【新規魔導理論、確立】
【名称ヲ設定】
一瞬の静寂――。
【真・統合魔法術式】
【発動】
万色の光柱が天を貫き、終焉級魔法へと真っ正面から激突する。
「……何だ、この魔法は!?」
目を見開くマモへ、サラが毅然と言い放つ。
「これは魔法じゃない。あたしたちの未来そのもの!」
次の瞬間。
悠真の黒炎が《コンコルディア》の光を呑み込み、爆発的に巨大化した。
「一万二千年の絶望だか何だか知らねえが――」
悠真は不敵に口角を上げ、黒炎の出力をさらに引き上げる。
「俺たちの未来の方が、遥かに重てえんだよ!!」
漆黒の星焔が、悠久の絶望ごと終焉の魔法陣をバリバリと喰らい尽くしていく。
あり得ない光景に、アーサーの身体が激しく戦慄いた。
【報告:アトランティス術式、崩壊】
【推定:星焔『素粒子壊変』】
【報告:終焉級魔法、完全消滅】
轟音すら消えた白い光の中、旧時代の終末が、文字通り完全に粉砕された。
光が晴れた空は、どこまでも青く澄み渡っている。
「消えた……この終焉が……」
マモが呆然と呟き、アーサーもまた、理外の敗北に言葉を失っていた。
マモの赤い瞳には、黒炎を揺らす悠真の背後に、
あの日の“あの少年”の幻影が重なって見えていた。
「そうか……お前は、あの時の……」
一度も覆ることのなかった滅びの運命を、人類は今、完全に乗り越えたのだ。
押し寄せる世界中の歓声の中、悠真は冷徹な視線をアーサーへと向けた。
「逃がすかよ。本当の決着をつけようぜ、アーサー」
術式の反動で強制転移し始めるアーサーの座標を、メーティスが瞬時に捕捉する。
悠真の身体が黒炎に包まれ、その追撃のために空間を跳んだ。
「ちょっと悠真、待って!」
サラが慌ててその光の軌跡を追いかける――。
――続く。
次話、「夜明けの漆黒」
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