表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法はAIに管理されているはずだった  作者: (趣味で)ラノベ書くおじさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/16

第5話 「はじめての夏」

 富士山麓での校外実習から、約一か月。


 “あの一件”は、結局「施設の暴走事故」という公式発表で片づけられた。


 当然、俺たちは口止めされている。


 石碑のこと、外国人魔導師との戦闘、そして古代精霊魔法のこと――。

 

 それらはすべて。

 魔導技術局の手によって、徹底的に情報封鎖された。


 だから世間は何も知らない。


 ……まあ、知っていたら大騒ぎだろうけど。


 校外実習は無事合格。


 続く期末試験もどうにか乗り切った。


 黒炎が暴走することもなく。


 レイナの監察報告書にも。

 【対象に異常なし】の文字が並ぶ日が続いていた。


 比較的――

 いや、この数ヶ月を思えば信じられないほど平穏な毎日だった。


 気付けば七月も半ばを迎えていた。


「終わったぁぁぁ!」


 教室で一番大きな声を出したのは廉太郎だった。


 “あの一件”から更に、クラス内で浮き始めていた俺だが。


 廉太郎こいつは、何処吹く風と言わんばかりで仲良くしてくれている。


「夏休みだ!」

「海だ!」

「祭りだ!」


「宿題は?」


「……八月三十一日にやる」


「お前、恐らく毎年それ言ってるだろ」


 教室が笑う。


 そんな光景を見ながら、俺も少しだけ肩の力が抜けた。


 “黒い炎”はあの日以来、一度も暴走していない。


 サラとも少しずつ話をするようになった。


 古代精霊魔法についてはまだ教えてくれないことも多い。


 けれど、一緒に過ごす時間は確実に増えていた。


 そして。


 相変わらずレイナは俺の近くにいた。


「悠真くん、今週の予定は?」


「監察?」


「任務」


 即答だった。


 もう聞くまでもない。


 俺の夏休みには、必ず監察官が付いてくるらしい。


――


 数日後。


 商店街の夏祭り。


「……」


 浴衣姿のレイナが立っていた。


 紺色を基調とした落ち着いた柄。


 長い黒髪を後ろでまとめ、普段とはまるで雰囲気が違う。


「どう?」


 珍しく自分から聞いてきた。


「……似合ってる」


 自然と口から出た。


 レイナは少し目を丸くして。


「ありがとう」


 と、小さく笑った。


 その笑顔を見た瞬間。


 監察官ではなく、一人の女の子なんだと初めて思った。


「おい!悠真!」


 廉太郎が、信じられない量の焼きそばを持って走ってくる。


「見ろ!十人前!」


「誰が食うんだ」


「もちろん俺!」


 その後ろでは、サラが綿飴を見つめて目を輝かせていた。


「雲!」


「違う」


「食べられる雲!」


「まあ……近い」


「甘い……」


 サラは一口食べると、嬉しそうに笑う。

 

 少なくとも。

 一万年以上を生きている古代の妖精のくせに。

 その笑顔はどこか幼く、少し切なかった。


 金魚すくいの屋台に、サラはふと目をやり留まる。


「昔ね」


 ぽつりと呟く。


「妖精も人間のお祭りに来てた」


「家族も?」


 俺が聞くと。


 サラは少しだけ空を見上げた。


「……もう、いないよ。」


「私だけ」


 それ以上は何も言わなかった。


 俺も聞かなかった。


――


 夏休みも中盤。


 四人はお台場で開かれている『東京魔導未来博』を訪れていた。


 会場に並ぶのは、現代魔導の粋を集めた最先端技術の数々。

 

 自律型の魔法ドローンや、高密度の魔力ホログラムショーが空間を彩っている。


「うおおお!」

「見ろよ悠真、あの新型ドローンの展開速度!」

「マジで異次元だわ!」


 子どものようにはしゃぐ廉太郎の横で。


 俺は展示された魔導回路を静かに一瞥する。


(……いや、非効率だな)


 国内トップのエンジニアたちが。

 

 血反吐を吐いて組み上げたであろう最新の魔導回路。

 

 だが。

 

 あの日、世界のバグを突くような。

 古代精霊魔法の術式を見てしまった俺の目には。

 ()()がひどく回りくどい未完成のパッチワークに見えていた。


(あそこ、術式の第3節をバイパスして精霊言語で書き換えれば)

(出力が3倍にはなるな……)


 無意識に


 そんな構造式を脳内で書き換えている自分に気付き。


 苦笑いする。


「ふん、あんな玩具のどこが新しいのやら」

「悠真の黒炎なら、あの回路ごと一瞬で焼き尽くせるわよ」


 俺の鼻先でふわふわと浮かぶサラが呆れたように鼻を鳴らす。


 俺は苦笑いのまま。


「まあ、平和な時代の技術としては上出来だろ」


 とだけ返した。


「悠真くん、こういう場所は初めて?」


 技術展示を真剣に見つめていたレイナが、ふと俺を振り返る。


「ああ。お前は?」


「任務以外では、ね」


 レイナは少し寂しそうに。

 

 だが。


 どこか吹っ切れたような、とびきりの笑顔を浮かべた。


「私、訓練とか勉強ばかりで友達と遊んだことがなかったの」

「お祭りも、ここも、全部今年が初めて」

「……悠真くんのおかげで、楽しいわ」


 監察官ではなく、一人の少女としての純粋な承認。

 その言葉に少し照れ臭さを感じた。


 その時だった。


 ふわふわと浮いていたサラの動きが、ピタリと止まる。


 その顔から、一瞬で余裕が消え失せていた。


「……おかしい。間違えようがないわ。このおぞましい魔力……」


 震える声で、サラが空を仰ぐ。


「かつて、私達《妖精》を絶滅寸前まで追い込んだ――」

「あのバケモノどもの匂いだ」


ビーーーーッ!!!


ビーーーーッ!!!


同時に。


レイナの手帳型端末が鼓膜を刺すような警報音を鳴らした。


【緊急招集:東京都臨海副都心】

【特級魔法反応を確認】

【監察官・神代レイナは、直ちに臨場せよ】


一瞬でレイナの顔が「冷徹な監察官」へと戻る。

「悠真くん達は、ここにいて」

「危険よ。今度は、私があなたを守る」


 覚悟を決めた少女の言葉。

 

 だが。


 俺は口元を不敵に歪めて、彼女の前に一歩踏み出した。


「監察官殿」

「俺の黒炎を『異常なし』と報告し続けたいなら、俺から目を離さないことだ」


「え……?」


「行くぞ。お台場の空が、黒に染まりかけてる」


ドゴォォォォン!!!


 お台場の空に、不穏な黒煙と。


 現代魔法をあざ笑うかのような巨大な異形の影が立ち上る。


 その悍ましい魔圧の一触を受け。


 会場に並んでいた最新鋭の魔法ドローンたちが。


 火花を散らして一斉に墜落していく。


 平穏な夏を焼き尽くすように。


 俺たちの“本番”が、幕を開けようとしていた。


――


 同時刻。東京湾海底。

 

 《メーティス》も同様にその異形を感知。


 そして――


 その中心へ向かう、ひとつの“黒い魔力反応”を捉え。


 静かに“それ”を記録していく。


【事案名:第二次接触】


――続く。


 次話、「臨海副都心騒乱 1「超古代の残滓」」

 <お台場、臨海副都心。超古代魔法の残滓が迫る>

※本作はカクヨム様と同時投稿を行っております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ