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【完結】魔法はAIに管理されているはずだった  作者: (趣味で)ラノベ書くおじさん


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第56話 「オペレーション・天戸開き(ニュードーン)」

 東京湾海底――《メーティスJP》演算装置室サーバルーム


 四柱よにんの妖精から流れ込む魔力を受け、メーティスは新たな演算を終えた。


 世界で初めて、人類のAIが“妖精”という生命の存在を正式に認識した。


 その瞬間を見届けた高井首相は、小さく息を吐いた。


「……つまり」


 静かな声が部屋へ響く。


「日本だけが、一歩先へ進んだということですね」


 誰も否定しない。


 各技術局長も、ただ黙って頷く。


 世界中、どこの国にもない技術。


 まさに日本だけが手にした《《未来》》だった。


 高井は穏やかに微笑む。


「なら――」


「日本だけが持っていればいい」


 その言葉に、閣僚たちも自然と頷いた。


「当然です」


「国家安全保障上も理にかなっています」


「世界最大の切り札になります」


「他国へ渡す理由はありません」


 次々と賛同の声が上がる。


 その空気の中で。


 俺は、小さく首を振った。


「……それじゃ」


 みんなが俺を見る。


「意味がないです」


 高井さんが目を瞬かせる。


「え?」


 俺は頭を掻きながら、言葉を探した。


「俺、やっぱ難しいことは分からないです」


「外交とか、経済とか」


「そういう話じゃなくて」


 一度だけサラを見る。


 サラは静かに頷いた。


 俺は続ける。


「日本だけが持ってたら」


「また奪いに来ます」


 ――静寂。


「世界で一つしかないなら」


「欲しいって思う国は絶対に出ます」


「そうしたら……」


「守るために軍隊が増えて」

「奪うために軍隊が増えて」


「結局」


「また戦争になります」


 誰も口を開かなかった。


 さっきまで頷いていた閣僚たちも。


 歴戦の猛者である荒川も。


 言葉を失っていた。


 それは、あまりにも単純で。


 だからこそ否定できない論理だった。


 “世界で唯一無二の技術”。


 それは同時に、世界最大の争奪対象になる。


 俺はサラたちの過去、世界の記憶を見た。


 あの時も同じだった。


 魔力という資源を独占しようとして。


 世界は滅んだ。


 なら――同じことを繰り返すわけにはいかない。


 俺は高井首相を真っ直ぐ見つめた。


「年明けのあの時は……まだ早いって思ってました」


「でも……今なら……」


「お願いします」


「データを」


 一呼吸置く。


「世界へ公開してください」


 その一言で。


 部屋の空気が凍り付いた。


「……!」


 魔導技術局長が立ち上がる。


「天城君!」


「何を言っているのか分かっているのか!」


 科学技術局長も声を荒げる。


「国家最大の資産ですよ!」


 防衛大臣・大泉も険しい表情で腕を組む。


「この状況で公開した場合、各国が軍事転用する」


「日本が危険にさらされる」


 誰もが正しい。


 だから俺は少しだけ笑った。


「だからです」


「え?」


「切り札だから」


「みんなが欲しくなる」


「だったら」


「最初からみんなが持ってれば」


「奪う理由がなくなる」


 また静寂。


 今度は誰も反論できなかった。


 “世界の記憶(アーカーシャ)”が示した三つの答え。


 封印。統一。独占。


 そのどれもが、誰かを犠牲にする未来だった。


 だけど、俺たちにはこのメーティスがある。


 あの時、存在しなかった、新しい可能性。


 高井首相は目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。


「……国家としては」


「最も危険な選択です」


 その声は、どこか苦しげだった。


「ですが」


 静かに目を開く。


「人類としては」


「最も希望のある選択なのかもしれません」


 そして高井は、全員を見渡した。


「各国首脳へ連絡してください」


「世界緊急首脳会議を招集します」


「議題は一つ」


 一拍置いて、力強く告げる。


「『精霊魔法の国際共同管理構想』について」


 その宣言は、人類が繰り返してきた歴史を書き換えるための、最初の一歩だった。


――


 数刻後――世界緊急首脳会議が実施される。


 各国の首脳、軍や教主。そして契約者たちが魔法通信で一堂に会していた。


 ただ、そこにはやはりアーサー派の姿はなかった。


 議題はただ一つ。


『メーティスと精霊魔法の国際共同管理構想』


 静まり返る会場で、高井首相は静かに、天城悠真の言葉を代弁した。


「日本は、このデータを全世界へ無償公開します」


 ──世界が、絶句した。


 独占ではなく、全員に配る。争いの前提そのものを消滅させる狂気の逆転発想。


 最初に動いたのは、米国のノア・ハミルトンだった。


 軍帽を胸に抱え、悠真を見て不敵に笑う。


「奪い合うためではなく、守るための力か。……合衆国は、その未来に乗る」


 それを皮切りに――。


 画面の向こうで驚愕がドミノ倒しのように賛同へと変わっていく。


 レイナ、龍之介、そしてローマ法皇。


 誰もが悠真という規格外の存在に気圧され、己の覚悟を新たにしていく。


「妖精も賛成!」


 レヴィの無邪気な一言が背中を押し、最後に、


 一万二千年の時を見続けてきたサラが悠真の隣へ立った。


「ようやく……また()として同じ未来を歩ける」


 誰からともなく、拍手が始まった。


 人間と妖精が同じ未来を選んだ音は、いつまでも鳴り響いていた。


――


 ──だが、その祝福を切り裂くように、最悪の報せが世界を駆け巡る。


 ロンドン陥落。ロシア軍、クリミア制圧。


 データの公開と同時に、覇王アーサーの『力による秩序』が牙を剥いた。


 宣戦布告は、すでに成された。


――


 東京・首相官邸地下危機管理センター。


 大型スクリーンには世界地図が映し出され、その各地で青い光が灯っていく。


 米国。中国。イタリア。


 そして、世界各国。


 共同作戦への参加を示す光だった。


 高井首相は静かに立ち上がる。


「各国代表より正式回答」


「共同作戦を承認」


 続いて米国から通信が入る。


 画面の向こうには、すでに輸送機内からノアの姿。


『こちらCAGイーグル・ワン。米国は予定通り降下点ドロップゾーンへ侵入』

『……これ以上、世界を戦争へ進ませるなよ』


ローマ法皇庁からは、フェロが鋭い視線で応じる。


『法皇猊下の名において、武力による支配はここで終わらせます』

『……悠真さん、アジーを救ってください』


 さらに世界中の契約者たちが応じていく。


 サラ。


 スサノオ。


 バアル。


 画面の向こうでレヴィ。


 それぞれが静かに頷いた。


 妖精たちは、もう人類を見限ってはいなかった。


 悠真はその光景を見つめながら、小さく息を吐く。


「……いよいよか」


 隣でレイナが微笑む。


「ええ」


()()ここまで来たんだから」


「絶対に終わらせましょう」


 龍之介も装備を整えながら笑う。


「卒業前に世界大戦なんて」


「普通じゃ一生経験しないな」


 見送りにきてくれた廉太郎は苦笑いする。


「いや、俺は経験したくなかったんだけどな……」


「みんな帰ってきたら、絶対ラーメン食い行こ」


 張り詰めた空気の中で、その一言だけが皆を少し笑わせた。


 その時だった。


 メーティスが静かに告げる。


【全世界ネットワーク同期完了】


【妖精認識率、一〇〇%】


【共同指揮系統ヲ構築】


 青い光が世界中へ広がる。


 人類の叡智。


 妖精たちの魔力。


 二つは初めて完全に結びついた。


 高井首相は深く頷く。


「では」


「共同作戦を開始します」


 コードネーム。


 『オペレーション・天戸開き(ニュードーン)


 その名が世界へ発令された。


 誰一人として歓声を上げる者はいない。


 勝利を望んでいるのではない。


 戦争を終わらせたいだけだった。


 悠真はサラへ目を向ける。


「怖い?」


 サラは少しだけ考え、首を横に振った。


「ううん」


「怖いのは戦うことじゃない」


「また誰かを憎んじゃうこと」


 その答えに、悠真は優しく笑う。


「なら大丈夫」


「俺たちは」


「止めに行くんだから」


 サラも笑った。


「うん」


「今度こそ」


「終わらせよう」


 世界各国の軍師団が動き出す。


 航空機が飛び立つ。


 契約者たちは、それぞれの妖精と共に空を見上げた。


 一万二〇〇〇年前(あの時)


 ()()()()()は、互いを滅ぼすために剣を取った。


 そして二二〇六年。


 人類と妖精は、戦争そのものを終わらせるために立ち上がる。


 それは終末によく似た光景だった。


 だが、あの日と決定的に違うものがある。


 誰一人として覇権を求めていない。


 誰一人として支配を望んでいない。


 皆が願うのは、ただ一つ。


 戦争のない明日。


 その願いを胸に、人類と妖精による最後の共同作戦が、静かに幕を開けた。


 ――続く。

 次話、「一万二千年の憎しみを越えて真の契約、開戦の号砲」

※本作はカクヨム様と同時投稿を行っております。

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