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【完結】魔法はAIに管理されているはずだった  作者: (趣味で)ラノベ書くおじさん


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第55話 「新時代の証明、崩壊する秩序」

 法皇庁・世界の記憶の間。


 悠真はレイナへ視線を送る。


「レイナ。高井首相に繋げる?」


「うん。少し待って」


 サラとフェロが魔力を重ね通信の出力を増幅させる。


 淡い翠の光が空中に魔法陣を描き、レイナの通信端末の画面が映しだされる。


 映像には日本・首相官邸の執務室。


 突然の魔法通信に驚く高井だったが、悠真の表情を見るなり真剣な顔へ戻った。


「天城君」


「何か分かったのですね」


 悠真は頷く。


「はい」


「レイナ――いえ、神代さんたちと“世界の記憶”を見ました」


「見て、一つだけ確信したことがあります」


「でも、僕たちだけでは決められません」


「政府の皆さんにも聞いてほしい話があります」


 高井は即答した。


「分かりました」


「十分ほどください」


「関係閣僚を集めます」


 通信はそこで一旦切れる。


――


 十数分後。


 再び魔法通信が開く。


 今度の向こう側には、


 高井首相。


 大泉防衛大臣。


 松木文科大臣。


 魔導技術局長。


 科学技術局長。


 SMA司令官。


 メーティス統括局長。


 さらに御園生を通じて外務省幹部まで揃っていた。


 高井が口を開く。


「これが現在、日本政府として意思決定できる最高メンバーです」


「天城君」


「話を聞かせてください」


 悠真は難しい言葉は使わない。


「俺、頭はそんな良くないんですけど」


「一つだけ変だと思ったんです」


「世界の記憶って、一万二千年前から積み重ねてきた未来ですよね?」


「だったらメーティスがある未来を、一回も計算してない」


 官邸側が静まり返る。


 画面の向こうで、大泉防衛大臣が鋭い視線を投げかけてくる。


「失敗すれば国家魔法網が停止する」


「安全保障上のリスクが高すぎるぞ」


 その重圧を置き去りにして、俺は本音を絞り出した。


「でも、見えないから怖いんです」

「俺たちがこうなれたように、もう戦わなくて済む人を増やしたい」


 数瞬の沈黙。


 高井首相が、ふっと笑った。


「……また、君に教えられましたね。日本政府として、この実験を承認します」


 俺たちはその日のうちに、法皇を伴い首相のチャーター便で帰国した。


 残る公務を担当する御園生さんを残して。


――


 翌日。


 首相たちとともに東京湾海底に鎮座する()()の元に向かった。


 世界の記憶が示した未来。


 そして、その未来を書き換える可能性。


 その中心にあったのは、一つの問いだった。


「……メーティス」


 悠真の呼び掛けに応えるように、青白い光が空間へ集束する。


【国家統合魔法演算管理人工知能(メーティス)、接続完了】


【用件ノ入力ヲ】


 いつもと変わらない無機質な声。


 しかし、その場にいる誰もが知っていた。


 今から人類史上初めての試みが始まることを。


 悠真は一歩前へ出る。


「メーティス」


「君は今まで、人間しか認識できなかった」


【是】


【人ヲ対象トシテ設計サレテイマス】


「でも」


「ここにいる妖精たちは?」


【――認識不能】


 悠真がプロンプトを数パターン試行する。


【観測:高密度魔力反応】


【判定不可:生命体反応】


 やっぱりか。


 悠真はゆっくり振り返る。


「サラ」


 サラは微笑み、小さく頷いた。


「うん」


「やろう」


 その声を合図に、一歩前へ出る。


 続いてスサノオ。


 フェロ。


 そしてバアル。


 四柱よにんの妖精が静かに円を描くように並んだ。


 わざわざ同席してくれた法皇と日本首脳陣が息を呑む。


「四柱が……」


「共鳴する」


 世界中でも、誰一人見たことのない光景だった。


 サラが右手を掲げる。


()たちは」


「人を裁くためじゃない」


 スサノオが続く。


「共に未来を創るために」


 フェロが優しく微笑む。


「だから」


「知ってもらおう」


 最後にバアルが目を閉じた。


「……今度こそ」


「同じ景色を見るために」


 次の瞬間。


 四色の魔力が天井へ駆け上がる。


 朱黒紫。


 純白。


 白金。


 翡翠。


 それぞれ異なる魔力はぶつかり合うことなく、

 一つの巨大な光の柱となってメーティスへ流れ込んでいく。


【受信:未定義魔力情報】


【解析開始】


【――】


【――】


【解析不能】


 沈黙。


 光が一瞬揺らぐ。


 失敗か。


 誰もがそう思った、その時だった。


 悠真が一歩踏み出す。


「メーティス」


「計算じゃない」


「感じろ」


「こいつらは敵じゃない」


「俺たちの仲間だ」


 短い言葉。


 理屈ではない。


 悠真らしい、まっすぐな一言だった。


 サラも微笑む。


「お願い」


()たちを知って」


 四柱の魔力がさらに重なる。


 その瞬間。


 メーティスの演算速度が爆発的に跳ね上がった。


【未知情報ヲ再定義】


【更新:未定義、魔力波長】


【定義成功】


【更新:生命判定アルゴリズム】


【作成:新カテゴリ】


 青白い光が世界中へ広がっていく。


【カテゴリ名称】


 一拍。


 そして。


【――妖精】


 世界が止まった。


【認識ヲ完了】

【生命体登録ヲ完了】


【──世界全域ヘノ更新待機ヲ完了】


 神話の壁を越え、メーティスは確かに『妖精』を生命として定義した。


 あとは、このシステムを世界へ一斉に『公開』するだけでいい。


 だが──。


 一万二千年の歴史を覆すボタンの重みは、あまりに巨大だった。


――


 数日後――ロンドン、バッキンガム宮殿地下。


 重厚な鉄扉が静かに閉ざされる。


 通信を終えたアーサーは、ゆっくりと古文書を閉じた。


 その瞳には迷いはない。


「秩序とは」


「力ある者が築くものだ」


「対話ではない」


「慈悲でもない」


「力だ」


 静まり返った地下施設に、その言葉だけが響く。


 やがて、一人の近衛士官が部屋へ入室した。


「殿下」


「準備が整いました」


「ああ」


「連れてきてくれ」


 数分後。


 両手を拘束された一人の青年が部屋へ連れて来られた。


 第三王子――アレクシス。


 日本公海上で悠真たちに敗れ、日本との監視協定を受け入れた青年だった。


「兄上……」


「これは何のつもりです」


 アレクシスの問いにも、アーサーは表情一つ変えない。


「国の未来のためだ」


「未来?」


「貴方は戦争を終わらせたいと言っていたはずです!」


「終わらせる」


 アーサーは静かに頷いた。


「だからこそ、一つにする」


「従わぬ国があるから争いが起きる」


「ならば従わせればいい」


 その言葉に、アレクシスは息を呑んだ。


「兄上……あなたは」


「アトランティスと同じことを」


「違う」


 アーサーは冷たく言い放つ。


「彼らは敗者だ」


「私は勝者になる」


 その瞬間。


 部屋の奥に、淡い黒銀の光が現れる。


 妖精アジー。


 アレクシスの契約妖精だった。


「アーサー」


「その考えは間違っている」


「精霊魔法を利用してはならない」


 アジーは静かに諭すように語りかける。


 しかし。


 アーサーは懐から一枚の魔導刻印を取り出した。


 古代文字が刻まれた拘束術式。


「選べ」


「アレクシスを生かすか」


「私に従うか」


「……!」


 アジーの表情が凍り付く。


 妖精は契約者を見捨てられない。


 それを理解した上での脅迫だった。


 長い沈黙。


 やがてアジーは静かに目を閉じた。


「……私は」


「アレクシスを守る」


 その言葉と同時に、蒼銀の光がアーサーの前へ降り立つ。


「賢明だ」


 アーサーは満足そうに微笑んだ。


 その笑みを見たアレクシスだけは悟る。


 兄は、もう戻れない場所まで来てしまったのだと。


――


 その夜。


 ロンドン各地で一斉に武装蜂起が始まった。


 近衛師団。


 親アーサー派部隊。


 情報局。


 主要放送局。


 通信施設。


 議会。


 王宮。


 すべてが、あらかじめ周到に準備された作戦によって制圧されていく。


 さらに北方からはロシア軍特殊部隊が秘密裏に上陸。


 この作戦を支援した。


 夜明け前。


 霧の都は完全にアーサー派の掌握下に置かれた。


 同日午前。


 世界へ向けた緊急声明が放送される。


『本日をもって、連合王国は欧州連合との安全保障体制を破棄』


『新たな国家秩序を樹立する』


 世界は騒然となった。


 しかし、それは始まりに過ぎない。


――


 同時刻。


 黒海北岸。


 ロシア軍機甲部隊が一斉に国境を越える。


 制空権を確保。


 兵站を掌握。


 わずか数時間で主要拠点を制圧した。


 そして――。


 クリミア半島。


 その全域が完全に軍事制圧される。


 国際社会が非難声明を発する中、ロシア政府は一切耳を貸さなかった。


 これもまた相互に、アーサー政権の全面的な支援があった。


 “あの国”が掲げた「力による秩序」。


 その亡霊は、悠久の時を超え、最悪の武力として顕現したのだ。


――


 その裏で、日本政府は米国、そしてバチカンとの緊急通信を繋いでいた。


 この“データ”を世界へ一斉公開か、それとも隠蔽か。


 三カ国が世界の命運を賭けた選択に揺れる中──。


 覇王アーサーの“冷徹”が、その『新たな共存の秩序』へと迫っていた。


――続く。

 次話、「オペレーション・天戸開き(ニュードーン)」

※本作はカクヨム様と同時投稿を行っております。

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