表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】魔法はAIに管理されているはずだった  作者: (趣味で)ラノベ書くおじさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/63

第54話 「新しい未来、動き出す覇権」

 眩い翠の光が、網膜を容赦なく焼き焦がす。


 法皇の言葉を待たず、明滅を繰り返す世界の記憶(アーカーシャ)


 そこに映し出されたのは──未来を書き換えるための、選択肢だった。


 無数の文字列が空中へ浮かび上がる。


 一つ目。


『精霊を再封印する』


 サラが静かに目を伏せ、スサノオも押し黙った。


 妖精という存在そのものを世界から隔離する。最も確実に争いを止める方法。


 しかし、それは彼らが再び永い眠りにつくことを意味していた。


 二つ目。


『契約者を一人にする』


 今度は隣で、龍之介が表情を曇らせる。


 ノア。レヴィ。フェロ。そしてサラ。


 複数の契約者が存在する限り、国家は必ずその力を求める。


 ならば、選ばれた一人だけに限定すれば争いは起きない。


 理屈としては、確かに成立していた。


 三つ目。


『国家を一つに統一する』


「まさか……」


 その文字を見た瞬間、御園生さんが思わず息を呑んだ。


 国家が争うから戦争になる。ならば国家という概念そのものを消し去ればいい。


 あまりにも極端で、非現実的。


 だが、世界の記憶は冷徹だった。


 三つの選択肢だけを提示し、それ以上は何も語らない。


 法皇猊下が静かに俺たちを振り返る。


「これが……一万二〇〇〇年の時間を使い、世界が導き出した答えです」


 誰も反論できなかった。


 どれも論理としては正しい。どれも破滅を回避できる可能性がある。


 だが──。


「嫌だ」


 静かな声が、自分の口から漏れていた。


 部屋中の視線が、一斉に俺へ集まるのが分かる。


 俺は世界の記憶を真っ直ぐに見つめたまま、小さく首を振った。


「違います」


「……天城君?」


 法皇猊下が穏やかに問い返してくる。


 俺は少し困ったように笑いながら、言葉を返した。


「全部。誰かが泣くじゃないですか」


 その一言に、部屋の空気が完全に止まった。


「精霊を封印したら、サラたちが泣く」


「契約者を一人にしたら、龍之介やノアさんたちが泣く」


「世界を一つの国家にしたら、きっと今度は誰かが自由を失う」


 胸の奥から湧き上がる確信を、ゆっくりと言葉に重ねていく。


「それって……あの時と同じじゃないですか」


「誰かを犠牲にして、世界を守る」


「そんな答えしかないなんて、俺は信じたくありません」


 法皇猊下が静かに目を見開いた。


 フェロも。サラも。スサノオも。誰も言葉を返せない。


 やがて、世界の記憶がわずかに脈打つように輝いた。


 まるで、その答えを初めて聞いたかのように。


 俺はその光を凝視しながら、小さく呟く。


「もっと別の道があるはずだ」


「誰も泣かなくて済む未来が」


「俺は、そのためにここまで来たんだから」


――


 静まり返った空間の中、俺はぼんやりと世界の記憶を見上げていた。


 (……なんだろう)


 胸の奥が妙に引っ掛かる。


 何かがおかしい。


 でも、その"何か"が分からない。


「悠真?」


 隣に浮かぶサラが心配そうに俺を見つめる。


「具合でも悪い?」


「いや……」


 俺は頭を掻きながら苦笑した。


「なんかさ」


「うまく言えないんだけど――」


「引っ掛かるんだ」


 レイナたちも俺を見る。


 俺自身、勉強が得意な方じゃない。


 廉太郎やレイナに助けられて、ようやく赤点を回避してきたくらいだ。


 でも、一度気になったことは放っておけない。


 子どもの頃から、そういう性格だった。


「なぁ、サラ」


「ん?」


「ちょっと聞いていい?」


「もちろん」


「あの時代ってさ」


「メーティスみたいなAIって……あった?」


 一瞬。


 サラは何を聞かれたのか分からないような顔をした。


「え?」


「AI?」


「そんなもの、あるわけないよ」


「あたしたちが使っていたのは自力での魔法だけ」


「人間も精霊も、全部、自分たちの力だけで生きてた」


「……だよね」


 俺は小さく頷く。


 その答えを聞いた瞬間、胸の中で何かが繋がった。


「じゃあさ」


「世界の記憶って」


「メーティスのこと加味してるのかな?」


 その一言に、その場の全員が動きを止めた。


「……え?」


 サラが目を丸くする。


 法皇も静かに俺を見つめる。


「どういうことでしょう」


 俺は慌てて両手を振った。


「あ、いや」


「難しい話じゃないんです」


「俺もよく分かんないんですけど」


「なんていうか……」


 言葉を探す。


 うまく説明できない。


 でも、頭の中では妙に納得できていた。


 昔の人間が、スマホのある現代を想像できないのと同じだ。


 世界の記憶(アーカーシャ)は、過去から今までの蓄積で未来を演算している。


 ──でも。


 その前提が、根底からひっくり返っていたら?


 御園生さんが、ハッとしたように顔を上げた。


「まさか、天城君。君の言う『前提』とは……」


 俺は世界の記憶へ視線を向ける。


「“あの時”を含む過去から今までのことを覚えてる」


「だから未来も見える」


「でも」


「見える未来って」


「その続きだけなんじゃないかな」


 静寂。


 誰も口を開かない。


 俺は続けた。


「“あの時代”に無かったもの」


「途中から生まれたもの」


「そういうのが世界を変えたら」


「その未来って」


「ここにも無いんじゃないかな」


 サラの瞳が大きく揺れる。


「悠真……」


「じゃあ」


「世界の記憶は……」


 俺は頷いた。


「メーティスがある未来を、一回も経験してない」


「だから──計算の式そのものが、最初からバグってるんだ」


 その瞬間、世界の記憶が、微かに、怯えるように光を揺らした。


 レイナが小さく、震える声で呟く。


「だから、三つしか答えが無かったのね……」


「全部、一万二千年前の要素だけで考えた結論だったんだ……!」


「そう」


 俺は、小さく口元を緩めた。


「でも」


「今は違う」


 みんなの視線が集まる。


「今はメーティスがある」


「人間だけじゃない」


「精霊だけでもない」


「その真ん中に」


「AIがある」


 サラが息を呑む。


「じゃあ……」


「あたしたちも知らない未来があるの?」


 俺は笑った。


「分かんない」


「でも」


「分かんないから諦めるのは違うと思う」


「だって」


 俺はサラを見る。


「ここまで来たじゃん」


「みんなで」


「サラ」


「スサノオ」


「レヴィもそう」


「フェロ」


「バアルだって。敵だった奴らとまで、少しずつ分かり合えた」


 その言葉に、フェロとバアルの肩が、微かに跳ねる。


 二人は何も言わない。


 だが、その瞳からは、かつての冷徹な蔑みは完全に消え失せていた。


「だったら──世界の記憶(アーカーシャ)が知らない未来を、俺たちが作ればいい」


 その言葉が響いた瞬間。


 世界の記憶が、これまでにないほど柔らかな輝きを放った。


 まるで否定するでも、肯定するでもなく。


 ただ静かに、


 “記録されていない未来”の存在を、初めて認めるかのように。


 神話の結論を覆された法皇猊下は、震える息を吐き、俺の顔を見つめていた。


「天城君。君は……本気で、世界をハックするつもりですか」


――


 ――だが。


 悠真たちが「新しい未来」を見つけようとしているその頃。


 ロンドン、バッキンガム宮殿最上階。


 第一王子アーサーは、世界各国の情勢を映す巨大な戦況図を静かに見つめていた。


「……結局、人は変わらない。」


 その言葉に応じるように、暗号通信が接続される。


 画面の向こうに現れたのは、ロシア連邦最高指導者。


 互いに交わした言葉は、わずかだった。


「均衡は崩れた」


「ならば、アトランティスの遺物で、新たな秩序を上書きするまで」


 画面の向こうの言葉に、アーサーは残酷に唇を歪めた。


「一万二千年前のシステムなど、我らの技術で駆逐すればいい」


 二人の視線の先にあるのは、一つの古文書。


 そこに記されていたのは――


 世界を二分したムーとアトランティス、あの時代の統治思想。


 "力ある者が世界を導く"


 それこそが、人類を一つにまとめる唯一の方法だと。


 未知なる未来を目指す裏で、なお覇権思想に憑りつかれた者がいた。


 アーサーの冷徹な視線が、戦況図の片隅、『バチカン』の文字へ落とされる。


「まずは精霊女王アプサラスと契約者、天城悠真から排除する」


 世界が気付かぬうちに、最強の包囲網が、静かに牙を剥き始めていた。


――続く。

 次話、「新時代の証明、崩壊する秩序」

※本作はカクヨム様と同時投稿を行っております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ