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【完結】魔法はAIに管理されているはずだった  作者: (趣味で)ラノベ書くおじさん


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第53話 「真実と、突きつけられた『最悪の未来』」

 「そんな……」


 思わず息を呑んだ。


 隣ではサラも、呆然と立ち尽くしている。


 世界の記憶が映し出した光景は、俺たちが知る歴史とはまるで違っていた。


 いや――。


 サラですら知らない過去だった。


「ルウ様が……」


 小さく漏れたその声は震えていた。


「私は……知らない……」


 精霊女王だったサラでさえ、すべてを知っていたわけではない。


 一万年を超える悠久の時は、多くの真実を埋もれさせてしまったのだ。


 世界の記憶は止まらない。


 再び景色が変わる。


――


 夜。王宮。


 静まり返った中庭を、一人の青年が歩いていた。


 ルウだった。


 昼間の会議で皇帝と激しく対立した彼は、一人考え込んでいるようだった。


 そこへ数人の側近が近づく。


「殿下」


「このままでは世界は滅びます」


 ルウは足を止める。


「兄上にも事情がある」


「軽々しく否定するな」


 しかし側近たちは引かなかった。


「皇帝陛下は道を誤りました」


「ならば――殿下が立つしかありません」


 ルウの瞳が揺れる。


「……何を言う」


「皇位を――。お奪いください」


 その一言で空気が凍った。


「殿下こそ世界を導く器」


「各国も必ず従います」


「今なら血を流さずに済みます」


 ルウは長い沈黙の末、小さく首を横へ振った。


「違う」


 その声は静かだった。


 だが、揺るがない意志を宿していた。


「私は兄を討つために国を護ろうとしているのではない」


「兄上もまた、この国を想っている」


「方法が違うだけだ」


 側近はなお食い下がる。


「しかし!」


「もう二度と言うな」


 ルウの声が初めて強く響いた。


「内から争えば」


「それこそ世界は終わる」


「私はその道だけは選ばない」


 側近たちは悔しげに拳を握り締めながらも、静かに頭を下げた。


 その背中を見送りながら、ルウは一人空を見上げる。


「どうすれば……」


「争わずに済んだのだ……」


 その答えは、誰にも分からなかった。


――


 再び景色が変わる。


 巨大な演説台。


 皇帝が世界へ向けて宣言していた。


「本日をもって」


「魔力資源の国外輸出を制限する」


「管理権は皇帝家が保持する」


「世界の安定のためである」


 沈黙。


 そして。


 怒号。


 各国の使節たちが一斉に立ち上がる。


「暴挙だ!」


「独裁だ!」


「世界を支配するつもりか!」


 アトランティス諸国は即座に席を立ち、その場で反転の同盟が結ばれる。


 港には艦隊が集結し、一人の王が静かに剣を抜いた。


「我らはこの暴政を認めない。本日をもって──宣戦を布告する」


 その瞬間、世界は後戻りの世界線を失い、神話最大の大戦が始まった。


――


 さらに世界の記憶は続く。


 燃え盛る王都。


 瓦礫。


 避難する民。


 兵士たちが絶え間なく行き交う。


 戦火は、もう目前まで迫っていた。


 その混乱の中。


 ルウは王宮を離れていた。


 付き従うのは、数名の近衛兵。


 そして。


 長い銀髪を揺らす、一人の女性。


 先代アプサラス。


 さらに、その後ろには、少女が必死についていく。


 サラだった。


 まだ精霊女王ではない。


 ただ、一人の少女。


「ルウ様!」


 先代アプサラスが叫ぶ。


「こちらへ!」


 ルウは一度だけ燃え上がる王都を振り返る。


 苦しげに目を閉じた。


「……兄上」


 その呟きだけが風に消えていく。


 幼いサラは何も理解できないまま、その背中を見つめていた。


「姫様……」


 不安そうにアプサラスの手を握る。


 先代アプサラスは微笑み、小さく頷いた。


「大丈夫」


「必ず、未来へ繋げます」


 その言葉を最後に。


 世界の記憶は、不意に暗転した。


 映像は、そこで途切れた。


 静寂だけが、その場を支配していた。


――


  世界の記憶が静かに閉じた。


 光が消え、意識は再び法王庁地下――。


 “世界の記憶”が安置されたレンガ作りの部屋へと戻ってくる。


 誰一人、すぐには言葉を発せなかった。


 スサノオだけが、部屋の中央に俯き力なく浮遊する。


 いや。


 今この瞬間、そこにいるのは妖精スサノオではなかった。


 一万二〇〇〇年前――ムー帝国皇弟、ルウ。


 その記憶を掘り起こした者の顔だった。


 喜びでもない。


 悲しみでもない。


 悔恨。


 自責。


 諦め。


 その全てが入り混じったような、言葉では到底表せない表情だった。


 サラも声を掛けられない。


 フェロは静かに目を閉じる。


 法皇も胸元で十字を切り、祈るように目を伏せていた。


 部屋を支配する沈黙。


 その静寂を破ったのは、法皇だった。


「……皆さん」


 穏やかな声が石壁へ反響する。


「今ご覧いただいたものは過去」


「では次に」


「世界の記憶が示す"最悪の未来"をご覧いただく」


 誰も反対しない。


 法皇が静かに頷くと、世界の記憶が今度は青白い輝きを放った。


 光は部屋全体を包み込み――


 視界が白く染まる。


――


 次に見えたのは。


 燃え盛る都市だった。


 しかし。


「あ……」


 レイナが息を呑む。


 どこかで見た景色。


 いや。


 俺たちは知っている。


 一万二〇〇〇年前。


 ムーとアトランティス(世界)が滅びた、あの日と同じだった。


 違うのは――


 旗の色。軍服。兵器。


 それだけだった。


 黒煙を上げる超高層ビル。


 崩れ落ちる高速道路。


 空を覆うのは、現代の戦闘機と精霊の光を纏った契約者たち。


 世界中の国家AIが暴走し、都市の防衛結界が次々と消滅していく。


 大地は裂け。


 海は黒く染まり。


 空には七色の魔力が幾重にも衝突していた。


 その中心で戦うのは。


 各国の契約者たち。そしてエース級の魔導師。


 北米。


 欧州。


 日本。


 そして、小国と呼ばれる国々までも。


 誰もが傷付き。


 誰もが怒り。


 誰もが正義を叫びながら殺し合っていた。


 その背後で。


 妖精たちは悲しそうに戦場を見つめている。


 誰一人、喜んではいなかった。


「違う……」


 サラが震える。


「こんなの……」


「あたしたちが望んだ世界じゃない……」


 スサノオも。


 フェロも。


 そしてバアルでさえ。


 静かに俯いていた。


 人類へ力を貸した結果。


 再び人類同士が神たる精霊の力で滅ぼし合う。


 それは“あの時”と寸分違わぬ結末だった。


 場面が変わる。


 地下指揮所。


 世界各国の首脳が巨大スクリーンを見つめている。


 その表情にあるのは勝利ではない。


 絶望だった。


「どうして……」


「こんなはずでは……」


 誰もがそう呟く。


 判断を誤った。


 気付いた時にはもう遅い。


 取り返しはつかない。


 その後悔だけが残されていた。


 そして。


 最後に映ったのは。


 焼け野原となった地球。


 誰もいない都市。


 静かに吹く風。


 終焉。


 “あの時”と同じ結末だった。


――


 光が消える。


 意識が現実へ戻った。


 法皇庁地下。


 誰も言葉を発せない。


 部屋を支配するのは、先ほどまでとは比較にならない重苦しい静寂だ。


 ──だが。


「……へぇ」


 自らの口から、冷徹な一言が漏れた。


 恐怖? 絶望?


 そんなものは微塵もない。


 その代わり、瞳の奥で黒い闘志が獰猛に狂い咲いているのを感じた。


 この絶望を突きつけられてなお、滾るものを抑えられない。


 俺はゆっくりと息を吐き、静寂を切り裂くように一歩前へ踏み出した。


「……法皇猊下」


 部屋中の視線が俺へ集まる。


「今の未来」


「本当に避けられない未来なんですか」


 法皇は静かに首を横へ振った。


「いいえ」


「世界の記憶は未来を決定するものではありません」


「“今”、最も高い確率を示すもの」


「それだけです」


 俺はもう一歩踏み出す。


「なら、この未来を変えるための選択肢とは何ですか」


 悠真のその問いに、法皇は静かに目を細めた。


 ただの高校生。


 だが、その瞳に宿る意志の質量は。


 一国の首脳──いや、神の座にある精霊すら凌駕している。


 バチカンが守り続けてきた『世界の記憶』が。


 今、天城悠真という存在に、怯えるように脈動している。


 それを、法皇は肌で感じていた。


(神が遣わした、真の変革者か──)


 法皇は穏やかに、だが畏怖を込めて首を横に振った。


 ──その瞬間。


 法皇の言葉を待たず、世界の記憶(アーカーシャ)が激しく明滅する。


 光の中に浮かび上がったのは──。


 未来を書き換えるために必要な。


 あまりにも残酷な『選択』だった。


――続く。

 次話、「新しい未来、動き出す覇権」

※本作はカクヨム様と同時投稿を行っております。

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