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【完結】魔法はAIに管理されているはずだった  作者: (趣味で)ラノベ書くおじさん


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第52話 「世界の記憶。一万二千年越しの謁見」

 フェロの申し出を受け入れ、俺たちは翌日の予定を組み替えた。


 目的地は――バチカン市国。


 法皇庁。


 そして、その頂点に立つ法皇への謁見。


 教科書の向こう側へ、自分が足を運ぶとは思いもしなかった。


 もっとも、一つだけ問題があった。


「……あ」


 レイナが小さく声を漏らす。


「正装」


 俺たちは思わず顔を見合わせた。


 今回の旅行は、あくまで卒業前のイタリア観光が目的だ。


 俺も廉太郎も龍之介も、持ってきたのは動きやすい私服ばかり。


 まともな礼装など、一着も持ってきていない。


 一方のレイナと御園生は、視察任務のためにスーツを用意していた。


「どうしようか……」


 レイナが困ったように呟くと、フェロは穏やかに微笑んだ。


「お気になさらず」


「法皇猊下は、そのような形式で人を判断されるお方ではありません」


「皆様は私どもの客人です」


「そのままお越しいただければ十分です」


 その言葉に、場の空気が少しだけ和らぐ。


「助かった……」


 思わず本音が漏れた。


 龍之介が肩を叩きながら笑う。


「お前、スーツなんて持ってきてたら逆に驚くわ」


「それもそうか」


 苦笑いすると、廉太郎も吹き出した。


「俺たち、高校生だぞ?」


「海外旅行に礼服持参なんて聞いたことない」


 レイナもようやく笑顔を取り戻した。


「そうね」


「少し考えすぎちゃったかも――やっぱり疲れてる」


一同は大きな笑い声を上げ、場は一気に和んだ。


――


 その日の夕方。


 一行は宿へ戻り、それぞれ荷物を整理しながら束の間の休息を楽しんでいた。


 さすがに今日の出来事で疲れも溜まっている。


 それでも、部屋にはどこか穏やかな空気が流れていた。


「明日は法皇様かぁ」


 廉太郎がベッドへ寝転がる。


「なんか、実感わかねぇ」


「俺も」


 龍之介が笑う。


「卒業旅行のはずが、いつの間にか世界の歴史に関わる話になってる」


「それ、今さら?」


 レイナが呆れたように笑う。


「悠真と一緒にいると、大体こうなるじゃない」


 レイナの言葉に、全員が一斉に笑い出す。


 俺は頭をかきながら苦笑するしかなかった。


「まあ……否定はできないな」


 そのやり取りを眺めながら、サラとスサノオも小さく笑っていた。


「やっぱりこういう時間……一番好き」


「戦わなくていい時間」


 その一言に、誰も何も返せなかった。


 だからこそ。


 今、この平穏がどれほど尊いものなのか、全員が知っている。


 俺は窓の外へ目を向ける。


 夕焼けに染まるローマの街並み。


 歴史ある建物の向こうに、バチカンの尖塔が静かにそびえていた。


 明日、あの場所で俺たちは何を見るのか。


 世界の記憶。


 そして、三千年前から続く真実。


 その答えは、もうすぐ目の前にあった。


――


 一方、バチカン市国。


 夕暮れが近づく法皇庁へ、二つの影がふわふわと向かっていた。


 フェロと、バアル。


 先ほどの死闘が嘘のように、二柱ふたりは静かだった。


 特にバアルは、終始無言のままフェロの後ろをついてくる。


 その瞳からは、これまで燃え続けていた敵意が嘘のように消えていた。


 法皇庁最奥部。


 法皇の私室。


 祈りを捧げていた法皇は二柱の帰還を迎える。


「……戻りましたか」


 穏やかな声が響く。


 フェロは静かに跪いた。


「猊下」


「ご報告がございます」


 法皇は静かに頷く。


「聞きましょう」


 フェロは今日起きた出来事を、一つひとつ丁寧に語り始めた。


 悠真たちとの戦い。


 敗北。


 そして、サラの言葉。


 ――『貴方たちの本当の望みは何?』


 その問い掛けが、自分たちの一万年以上に及ぶ執念を揺るがしたこと。


「私はようやく理解しました」


 フェロは静かに目を伏せる。


「私が本当に願っていたものは、人類を裁くことではありませんでした」


「争いのない世界」


「誰もが穏やかに生きられる未来」


「その願いだけは、今も変わっておりません」


 法皇は何も口を挟まず、最後まで耳を傾けていた。


 フェロは続ける。


「そして、猊下」


「私は希望を見ました」


「希望……ですか」


「はい」


「『世界の記憶』が示し続ける、最悪の未来──」


「あの絶望を、書き換えられる可能性です」


 法皇の表情がわずかに変わる。


「精霊女王アプサラス」


「そして、契約者・天城悠真」


「あの二人ならば」


「歴史そのものを正しい未来へ導けるかもしれません」


 静かな沈黙が流れた。


 やがて法皇はゆっくりと立ち上がる。


 窓の外には、月明かりに照らされ始めたサン・ピエトロ大聖堂。


「……フェロ」


「はい」


「私も」


「願いは同じです」


「世界が平和であること」


「それだけを、神へ祈り続けてきました」


 法皇は穏やかに微笑んだ。


「あなたがそこまで信じる方々ならば」


「私も、一度信じてみましょう」


 フェロは深く頭を下げる。


「ありがとうございます」


 法皇は扉の外に控えていた側近へ声を掛けた。


「明日、お迎えする日本の皆様は、最高の賓客としてお迎えしなさい」


「決して粗相のないように」


「承知いたしました」


 側近は深々と一礼し、その場を後にした。


 法皇もまた静かに踵を返す。


「今日は休みなさい」


「明日は長い一日になります」


「はい、猊下」


 フェロは安堵の息を漏らした。


 その隣で、沈黙を貫いていたバアルが小さく空を見上げる。


「……未来、か」


 その呟きは誰にも聞こえないほど小さかった。


 初めて妖精が口にした“未来”の響きは、新時代の幕開けだった。


 ――だが。


 明日、法皇庁の地下で明かされるのは――。


 サラすらも知らない、一万二千年前の『冷徹な真実』だった。


――


 翌朝。


 俺たちはフェロの案内を受け、バチカン法皇庁へ足を踏み入れていた。


 壮麗な回廊。


 幾重にも積み重ねられた歴史。


 世界中の信仰を受け止め続けてきた建造物は、人を圧倒する重みを放っている。


「……さすがに緊張するな」


 思わず本音が漏れた。


 隣を歩くレイナも珍しく真剣な表情を浮かべている。


「要人には何度もお会いしてきたけど……法皇猊下は別格ね」


 龍之介も静かに息を吐いた。


「俺、自衛隊入隊前に法皇へ会うことになるとは思わなかった」


 その空気を吹き飛ばしたのは、やはり廉太郎だった。


「いやいや、大丈夫だって!」


「俺なんて昨日、『法皇様って写真撮ってくれるかな』とか考えてたし!」


「お前、それ絶対言うなよ」


「言わねぇって!」


「……多分」


「『多分』が一番怖いんだよ」


 御園生さんが苦笑する。


 張り詰めていた空気が少しだけ緩み、全員の肩から力が抜けた。


「ありがとうございます、廉太郎君」


 御園生さんが微笑む。


「そのくらい肩の力を抜いていた方が、きっと良いでしょう」


――


 やがて、大扉が静かに開かれた。


 広間の奥。


 一人の老人が穏やかな笑みを浮かべて立っていた。


 法皇――。


 その佇まいに威圧感はない。


 むしろ、どこか包み込むような優しさがあった。


 御園生さんが一歩前へ出る。


「本日はお時間をいただき、誠にありがとうございます」


「日本政府並びに魔導技術局を代表し、御礼申し上げます」


 法皇は静かに頷いた。


「ようこそ、日本の皆様」


「遠路はるばる、お疲れさまでした」


 御園生さんは俺たちへ視線を向ける。


「こちらが天城悠真君」


「そして――」


 サラが一歩前へ出る。


「精霊女王アプサラス」


 フェロも静かに頭を垂れた。


 法皇は驚く様子もなく、柔らかな笑みを浮かべる。


「ようやく、お会いできました」


「一万二〇〇〇年越しに」


 その一言だけで、俺たちは言葉を失った。


 法皇はすべてを知っている。


 少なくとも、俺たちが想像する以上に。


 形式的な挨拶を終えると、法皇は静かに踵を返した。


「百聞は一見に如かず」


「まずは"世界の記憶"をご覧いただきましょう」


――


 地下深く。


 幾重もの結界を抜けた先。


 巨大な石碑が、深い翠色の光を放ちながら静かに佇んでいた。


「これが……」


世界の記憶(アーカーシャ)


 サラとフェロ、そしてスサノオが同時に魔力を重ねる。


 次の瞬間。


 光が俺たち全員を包み込んだ。


 ――流れ込む。


 膨大な記録。歴史。記憶。


 歓喜と、それを焼き尽くすほどの絶望──。


 世界そのものが語りかけてくるような奔流の先。


 俺たちの意識は、一万二千年前の『あの場所』へと繋がれていった。


――


 その中心に立つ巨大な王宮。


 豪奢な玉座に座る一人の皇帝。


 周囲には各国の王たち。


 しかし、その会議は激しい口論へ発展していた。


「力は囲うものではない」


「分かち合うものです。独占は、必ず争いを生みます」


 神主風の白い衣をまとった青年──《ルウ》が、毅然と告げる。


 だが、玉座の皇帝は冷酷にそれを吐き捨てた。


「愚民に力を分け与えれば、新たな戦を生むだけだ」


「管理と統制。それこそが、世界を永らえさせる唯一の正解だ」


 皇帝が机を激しく叩きつける。


「理想論だ! 世界はそのような甘いものではない!」


 しかし、ルウは一歩も引かなかった。


「ならば──力による支配こそが、世界を滅ぼします」


 その瞬間。


 俺の鼓動が大きく跳ねた。


「……あ」


 思わず声が漏れる。


 あの青年の顔。


 忘れるはずがない。


 サラが見せてくれた"あの日"。


 最後まで少年たちを導いていた――。


「ルウ様……」


 サラの震える声に、俺の鼓動が激しく跳ねる。


 あの時、夢で少年たちを導いていた神主風の男──あれが、ルウだったのか。


「……嘘、だろ……」


 隣で、龍之介が相棒スサノオを見つめたまま、愕然と息を呑んだ。


 だが、衝撃に震える俺たちを置き去りにして、記憶はさらなる深淵を開いていく。


 あの日、ルウがサラに決して語らなかった──


 もう一つの『冷徹な決断』が、今、白日の下にさらされようとしていた。


――続く。

 次話、「真実と、突きつけられた『最悪の未来』」

※本作はカクヨム様と同時投稿を行っております。

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