表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】魔法はAIに管理されているはずだった  作者: (趣味で)ラノベ書くおじさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
52/63

第51話 「決着のコロッセオ。誘われる世界の記憶」

 崩れ落ちたコロッセオ。


 激戦の余韻だけが静かに漂っていた。


 メイユはノアに抱き留められ、静かな寝息を立てている。


 フェロは片膝をつき、純白の衣は裂け、息も絶え絶えだった。


 その隣では、契約者を失ったバアルが黒い霧を纏いながらなお睨みつけてくる。


 勝負は決していた。


 誰の目にも明らかだった。


 俺は二人の前まで歩み寄る。


 黒炎はまだ拳に宿っている。


 だが、その熱はさっきまでとは違っていた。


「……終わりだ」


 静かに告げる。


 バアルが苦しげに笑った。


「殺せ」


「それがお前たち人間の流儀だろう」


 フェロも静かに目を閉じる。


「好きになさい」


「敗者に語る資格はありません」


 俺は首を横に振った。


「違う」


「聞きたいことがある」


 二柱がゆっくり顔を上げる。


「降伏する気はあるか」


 しばらく沈黙が続いた。


 そして。


「断る」


 バアルは即答した。


「我らは誇りを捨てぬ」


 フェロも小さく頷く。


「理念を曲げて生きるくらいなら」


「ここで終わる方がいい」


 その答えを聞いた瞬間、俺は小さく息を吐いた。


「……そうか」


 黒炎が再び燃え上がる。


 轟、と空気が震えた。


 バアルが低く唸った。


 その全身から、黒紫の魔力が再び噴き上がる。


 フェロも残された魔力を振り絞るように、純白の魔法陣を幾重にも展開した。


「ならば――」


「最後まで抗わせてもらう」


 轟ッ!!


 黒と白。


 二柱の魔力が共鳴する。


 崩壊しかけていたコロッセオ全体を包み込む巨大な結界。


 フェロの純白の魔力が制御を担い、


 バアルの暴虐な魔力が破壊を担う。


 まるで“あの時の続き”が蘇ったかのような圧力だった。


「まだ、これだけの力が……!」


 レイナが思わず息を呑む。


 龍之介もスサノオと共に身構えた。


「悠真!」


 サラが叫ぶ。


 しかし俺は一歩も動かない。


「……まだ諦めないんだな」


 黒炎が静かに揺れる。


 次の瞬間。


 バアルが咆哮した。


「滅びろォォォ!!」


 黒紫の奔流。


 そこへフェロが純白の魔法陣を幾重にも重ねる。


 収束。


 増幅。


 そして放たれる神話級の一撃。


 空間そのものが裂ける。


 だが――。


「終わりだ」


 俺は黒炎を右手へ集める。


 サラも静かに俺の肩へ降り立った。


「悠真……」


 黒炎が星のように収束する。


「《星焔》」


 漆黒の光が一直線に走った。


 衝突。


 轟音。


 一瞬だけ世界が白く染まる。


 そして。


 バキッ。


 フェロの魔法陣が一枚、また一枚と砕けていく。


 黒炎は勢いを失わない。


 そのまま黒紫の奔流を飲み込み。


 二柱を正面から押し返した。


「馬鹿な……!」


「我ら二柱ふたりが……!」


 衝撃波とともに二柱の身体が地面へ叩き付けられる。


 立ち上がろうとする。


 だが。


 黒炎の威圧だけで再び膝をついた。


 完全に勝負は決した。


「最後に、一つだけ答えて」


 フェロがゆっくり顔を上げる。


「……何でしょう」


 サラは静かに問い掛けた。


「貴方たちの本当の望みは何?」


 その問いに、二柱は黙り込む。


 サラは続けた。


「人類を滅ぼすこと?」


「支配すること?」


「違うよね」


 優しい声だった。


「一万二〇〇〇年前」


「みんなが願っていたのは――」


「争いが終わることだった」


「穏やかな世界を作ることだった」


 フェロの瞳が揺れる。


 サラはさらに一歩近付いた。


「方法は違った」


「だから私たちは戦った」


「でも……願いだけは同じだったはず」


 沈黙。


 長い沈黙。


 サラは微笑んだ。


「百パーセント……貴方たちの望み通りにはできないかもしれない」


「でも」


「今度こそ」


「一緒に世界を守ってくれない?」


「力を貸して」


 その一言だった。


 フェロがゆっくり目を閉じる。


「……皮肉ですね」


 小さく笑う。


一万二〇〇〇年前(あのとき)


「その言葉を聞いていれば」


「違う未来があったのかもしれません」


 バアルも空を見上げた。


「我は……」


 しばらく黙り込み。


 やがて、小さく呟いた。


「疲れた」


 それは初めて見せる、本音だった。


「一万二〇〇〇年も」


「憎み続けるのは……もう十分だ」


 サラは静かに頷いた。


「ありがとう」


 フェロがゆっくり膝をつく。


 バアルも続く。


 二柱は深く頭を垂れた。


「貴女の御意のままに」


「精霊女王アプサラス」


「あなたの導きに従いましょう」


 その瞬間。


 俺の胸を締め付けていた怒りが、少しだけほどけていくのを感じた。


 すべてを許せたわけじゃない。


 レイナを傷つけたことも。


 多くの人を巻き込んだことも。


 忘れることはできない。


 それでも。


 憎しみだけで終わらなくてよかった。


 俺は静かに黒炎を消した。


 その様子を見たサラは、小さく笑う。


「やっぱり」


「悠真は、悠真だね」


 その言葉に、俺も少しだけ笑みを返した。


――


 コロッセオを覆っていた漆黒と純白の結界が、静かに揺らいだ。


 俺の目の前で、バアルとフェロは顔を見合わせ、小さく頷く。


「――」


 フェロが無言で右手を掲げる。


 天へ昇る白銀の光とともに、巨大な結界が解け始める。


 続いて、バアルも黒紫の魔力を解放する。


 二柱の力が拮抗をやめた瞬間、世界がゆっくりと色を取り戻していく。


 ひび割れていた空間が、修復され。


 崩壊していた石壁が、元の姿へと戻り。


 砕け散っていた観客席さえも──。


 まるで、時間を巻き戻すように再生されていく。


 俺たちは思わず息を呑んだ。


「……すごい」


 レイナも言葉を失っている。


「これも……妖精たちの力……」


 御園生ですら感嘆の息を漏らした。


「精霊魔法は破壊だけではない……」


「世界そのものを修復する力でもあるのですね」


 数分後。


 何事もなかったかのように、美しいコロッセオが姿を現した。


 外の観光客たちは結界に阻まれ、誰一人として異変に気づいていない。


 世界遺産は、静かにその歴史を刻み続けていた。


 俺はノアへ歩み寄る。


「ありがとうございました」


「レイナを助けてもらって、本当に助かりました」


 隣では龍之介も深く頭を下げた。


「俺からも」


「もし来てくれなかったら、どう転んでいたか分からなかった」


 ノアは照れくさそうに頭を掻く。


「礼ならレヴィに言ってやってくれ」


「俺は少し身体を動かしただけだからな」


 その肩で小さな妖精が得意そうに胸を張る。


「えへへ……僕は頑張ったでしょ?」


 その言葉にサラが笑顔で近付いた。


「うん」


「ありがとう、レヴィ」


「メイユさんを救ってくれて」


 スサノオも静かに頭を下げる。


「君のおかげで、一つ悲劇を止められた」


 レヴィは少し照れながら笑う。


「日本人がよく言う“困った時はお互いさま”だよ」


 その光景を見つめていたフェロが、一歩前へ出た。


「女王様」


 サラが振り返る。


「サラでいいよ」


「で、……何?」


 フェロは先ほどまでの敵意を完全に消し去った穏やかな表情で続けた。


「法皇猊下へ、お会いになりませんか」


「……え?」


「法皇庁の地下には、『世界の記憶』が眠っています」


 その言葉に、サラの瞳が揺れた。


「世界の……記憶」


「ええ」


「そして今のあなたなら――」


「あの日の続きを見た上で、これから世界が歩むべき道を導けるかもしれません」


 静寂が流れる。


 サラは俺を見る。


「……悠真」


「あたしは……」


 迷っているのが伝わってきた。


 過去を見ることは、決して楽しいことではない。


 それでも俺は静かに頷いた。


「行こう」


「未来を決めるためなら、過去から目を背けちゃ駄目だ」


 龍之介も腕を組んで笑う。


「せっかくローマまで来たんだ」


「観光だけじゃ終われないだろ」


 レイナも苦笑しながら肩をすくめた。


「また厄介事に巻き込まれそうだけど……」


「私は賛成」


 御園生も穏やかに頷く。


「ここまで来た以上、最後まで見届けましょう」


 サラはゆっくりと息を吸い込み、小さく微笑んだ。


「……分かった」


「行く」


「世界の記憶を見てみたい」


 話がまとまったところで、俺はノアへ向き直る。


「ノアさんは?」


「一緒に来ますか?」


 ノアは少しだけ考え、苦笑した。


「気にはなる。ものすごくな」


「だけど、ここまでだ」


 レヴィが首を傾げる。


「いいの?」


 ノアは空を見上げる。


「結界が消えて、通信も復旧した」


「これ以上海外の件に首を突っ込むのは、軍人としてアウトだ」


 ノアは、おどけたように肩をすくめて笑う。


「せっかくのバカンスを、報告書の山で潰されたくないしな」


 その一言に場の空気が少しだけ和らいだ。


 俺も笑う。


「それもそうですね」


 ノアは右手を差し出した。


「また会おう、天城」


「次に会う時も敵じゃないと嬉しい」


 俺はその手をしっかり握る。


「もちろんです」


「その時は日本を案内します」


「観光なら任せてください」


「はは、それは楽しみだ」


 レヴィも大きく手を振った。


「サラ!スサノオ!」


「またねー!」


「次は戦いじゃなくて遊ぼう!」


「うん!」


 サラも満面の笑みで応える。


「約束だよ!」


 眩い転移光が二人を包む。


 次の瞬間、ノアとレヴィの姿は地中海の彼方へと消えていった。


 静寂を取り戻したコロッセオ。


 俺はゆっくりと法皇庁の方角を見上げる。


 コロッセオに吹き抜ける春の風が、激戦の終わりを静かに告げる。


“世界の記憶”


 その先に、サラすら知らない『あの日までの真実』が待ち受けていることを。


 この時の俺たちは、まだ知る由もなかった。


――続く。

 次話、「世界の記憶。一万二千年越しの謁見」

※本作はカクヨム様と同時投稿を行っております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ