表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】魔法はAIに管理されているはずだった  作者: (趣味で)ラノベ書くおじさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
51/63

第50話 「蹂躙する星焔。戻ってきた純真」

 フェロがバアルのもとへ駆け出そうとした、その瞬間だった。


「――行かせない」


 低く響いた俺の声とともに、漆黒の炎が一直線に走る。


 轟ッ――!!


 黒炎はフェロの目前で爆ぜ、その進路を完全に断ち切った。


 フェロは咄嗟に後方へ跳ぶ。


「……天城悠真」


 俺は何も答えない。


 静かに一歩、前へ出るだけだった。


 その背後では、ノアとレヴィがバアル。


 ――そしてメイユの救出へ向かっている。


 ならば。


 ここは俺の役目だ。


 フェロを、一歩たりとも先へ行かせない。


「退いてください」


 フェロはいつもの穏やかな口調で言った。


「私の目的は彼女の援護です」


「退く気はない」


「……そうですか」


 白い魔力が膨れ上がる。


 だが、不思議だった。


 俺は目の前の男に、恐怖も焦りも感じていなかった。


 代わりに胸の奥から湧き上がってくるものがある。


 怒り。


 今まで感じたことがないほどの、静かで重い怒りだった。


(そうだ……)


 思い出していた。


 この男が、さっき静かに語った言葉を。


 人と精霊が共に歩む未来を望んだと。


 自らを、永遠に人類を導く『妖精』と呼んだ。


 どこか悲しげに、綺麗事を並べておいて──。


「レイナを人質に取った」


 思わず声が漏れる。


「戦場だから?」


「勝つためなら何でもありだから?」


 黒炎が揺らめく。


「違うだろ」


 フェロは静かに目を伏せた。


「勝つためには必要な選択でした」


「必要?」


 俺は笑ってしまった。


 乾いた笑いだった。


「必要なら」


「何をしてもいいのか」


「もうこの場では戦えない人を巻き込んでも」


「仲間を傷つけても」


「それがお前の正義なのか」


 フェロは答えない。


 ただ静かに、その純白の魔力を高めていく。


「残念です。あなたとは、理解し合えると思っていました」


「俺もだよ──ッ!」


 その一言と同時に、黒炎が爆発した。


 爆発した黒炎は収束し、漆黒の光へと変質する。


 ――ドンッ!!


 一瞬で間合いを詰める。


「速――」


 フェロの言葉は最後まで続かなかった。


 拳が腹部へ突き刺さる。


「がっ……!」


 身体が宙を舞う。


 着地する暇も与えない。


 黒い光を纏った蹴り。


 肘打ち。


 拳。


 連撃。


 轟音だけがコロッセオへ響き渡る。


 フェロは防戦一方だった。


「ぐっ!」


「くっ……!」


 白い障壁を張る。


 だが、黒炎と光がそれごと砕く。


 粉々に。


 一瞬で。


「こんな……!」


 フェロの瞳に初めて焦りが宿る。


 俺は止まらない。


 本気を出せば。


 一撃で終わる。


 それくらいの実力差は、もう誰の目にも明らかだった。


 それでも終わらせない。


 一発。


 また一発。


 確実に戦意だけを削り取る。


 逃げ道も。


 反撃の隙も。


 一切与えない。


 圧倒的な力でねじ伏せ続ける。


 まるで。


 自分でも知らなかった怒りを、ぶつけるかのように。


「どうした」


 俺は低く問い掛ける。


「さっきまでの余裕は」


「人質を取るくらいしか」


「勝つ方法がなかったのか」


 フェロは血を吐きながら、それでも俺を睨み返した。


「……あなたは、甘い」


「そうかもしれない。」


 黒炎が再び拳へ宿る。


「でも」


「仲間を傷つける奴だけは」


「絶対に許せない」


 漆黒の炎が、かつてないほど激しく燃え上がる。


 その怒りは、戦うためのものではない。


 守るために抱いた、悠真自身の覚悟だった。


 拳に凝縮された漆黒の星焔が、臨界点へと向かう──。


――


 悠真の背後。


 フェロを圧倒する悠真と背中で感じながら、ノアは息を整えていた。


「レヴィ」


「うん。もう少し」


 目の前に立つのは、メイユの身体を完全に支配したバアル。


 紫黒の魔力が少女の全身から噴き出し、大地を侵食していく。


 その瞳には、もうメイユの意思は見えない。


 あるのは、底知れない憎悪だけだった。


「遅い」


 バアルが手を振る。


 紫黒の魔力が無数の槍となり、ノアへ降り注ぐ。


 ノアは地面を蹴った。


 一歩──二歩──三歩。


 人間離れした速度で、黒紫の槍の隙間を縫う。


 避けきれない一撃だけを蒼銀の魔導で受け流し、一気にその間合いへ飛び込んだ。


「はあっ!」


 右拳。


 続けて肘。


 さらに回し蹴り。


 軍で叩き込まれた近接格闘術が淀みなく繋がる。


 だが、バアルは少女の身体とは思えない柔軟さで受け流した。


 指先が軽く触れただけで、ノアの身体が数メートル弾き飛ばされる。


「……っ!」


 地面を滑りながら体勢を立て直す。


 やはり純粋な魔力量では敵わない。


 それでも。


 ノアは再び前へ出た。


 目的は倒すことではない。


 救うこと。


 その一点だけだった。


 バアルの放つ一撃一撃は重い。


 まともに受ければ少女の身体ごと破壊してしまう。


 だからこそ、ノアは攻撃を急所からわずかに外し、拳圧だけで体勢を崩す。


 肩。


 腕。


 脚。


 最小限の衝撃だけを積み重ね、少しずつバアルの自由を奪っていく。


 その姿を見ていたレヴィが小さく頷いた。


「ノア……もう少し」


「まだ時間がいる」


「大丈夫だ!」


 再び激突。


 蒼銀と紫黒の魔力が真正面からぶつかり合う。


 轟音。


 衝撃波。


 崩れ落ちる石柱。


 ノアは押されながらも、一歩も退かない。


 バアルも苛立ち始めていた。


「人間風情が……!」


 魔力がさらに膨れ上がる。


 その瞬間だった。


 ノアは僅かな隙を見逃さない。


 左手でバアルの腕を払い、右腕を背後へ回して動きを封じる。


 完全には抑え込めない。


 だが、一瞬だけなら十分だった。


 ノアが叫ぶ。


「レヴィ――今だ!」


 肩に乗っていた小さな妖精が静かに頷く。


「うん」


 レヴィが両手を合わせる。


 蒼白い光。


 それは鏡のような魔法陣となって空中へ浮かび上がった。


映心鏡界リフレクト――」


 世界が静まり返る。


 光のスクリーンに、一人の少女が映った。


 小さく膝を抱え。


 泣きながら座り込む少女。


 劉美月リウ・メイユ


 本当の彼女だった。


「いや……」


「帰りたい……」


「もう……戦いたくない……」


 その声は弱々しかった。


 けれど確かに生きていた。


 レヴィは優しく微笑む。


「見つけた」


「まだ、ちゃんといる」


 バアルの表情が初めて歪む。


「やめろ……!」


「触れるな!」


 レヴィはゆっくりと鏡へ手を伸ばした。


「メイユちゃん」


「聞こえる?」


 少女が顔を上げる。


 涙で濡れた瞳。


「あなたはどうしたい?」


 沈黙。


 長い沈黙の末。


 少女は震える声で答えた。


「……生きたい」


 その一言だった。


 スクリーンが光を映す鏡の様に眩く輝く。


「だったら」


 レヴィが笑う。


「帰ろう」


 その手が鏡を越えて少女へ届く。


 メイユも震えながら手を伸ばした。


 二つの手が重なる。


 その瞬間だった。


 轟ッ――!!


 眩い光がバアルの身体を包み込む。


「なっ……!」


「馬鹿な!」


「契約者の意思だと!?」


 バアルが苦しげな声を上げる。


 黒い霧となった魔力が次々と少女の身体から引き剥がされていく。


「離れろぉぉぉ!!」


 それは、永き時を生きた神霊の断末魔。


 次の瞬間。


 メイユの身体から、黒紫の霧が強引に引き剥がされた。


 赤黒い紫の翼。


 禍々しい魔力。


 七柱の一柱ひとり――バアル。


 その姿が久方ぶりに放り出される。


 力を失ったメイユは、その場へ崩れ落ちた。


「メイユ!」


 ノアが駆け寄り、彼女を抱き止める。


 呼吸はある。


 脈も正常。


 意識こそ失っているが、命に別状はない。


 ノアは安堵の息を漏らした。


「間に合った……」


 レヴィも優しく微笑む。


「おかえり」


 その言葉に応えるように。


 気を失ったメイユの頬を、一筋の涙が静かに伝った。


 一方、バアルは、怒りに満ちた瞳でノアたちを睨みつける。


「人間風情が……!」


「このような形で引き剥がすとは……!」


 しかし、その退路を塞ぐように、一つの黒炎が静かに燃え上がる。


 俺はフェロから視線を外さぬまま、背後のバアルへ静かに告げた。


「――これで、ようやく本当の勝負ができるな」


 そして、ノアに確認する。


「ノアさん、後は俺の好きにしていいんですよね」


 黒炎が再び漆黒の光となり、さらに激しく揺らめいた。

 

 ノアがにっこりと笑いながら答える。


「無論だ――」


 その言葉を合図に、“神話の檻”さえ焼き尽くす黒き星焔が、狂暴に爆ぜた。


――続く。

 次話、「決着のコロッセオ。誘われる世界の記憶」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ