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【完結】魔法はAIに管理されているはずだった  作者: (趣味で)ラノベ書くおじさん


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第49話 「ただ、守りたいだけ」

 龍之介が後方へ退いた瞬間、戦場の均衡は大きく崩れた。


 前線に立つのは、俺一人。


 黒炎を纏い、サラと共鳴した俺に対するは、バアルとフェロ。


 二対一。


 数だけ見れば圧倒的不利。


 それでも――。


「悠真、右!」


「オッケ!」


 サラの声と同時に身体を沈める。


 フェロの純白の光刃が頭上を掠める。


 その隙を狙ってバアルの黒紫の魔力波が襲い掛かる。


「っ!」


 黒炎の盾を展開。


 轟音とともに衝撃が全身へ伝わる。


 重い。


 だが、押し切られない。


「ここだ!」


 踏み込みと同時に黒炎が爆ぜる。


 俺の拳がバアルの結界を打ち砕き、そのまま腹部へ叩き込まれた。


「ぐっ……!」


 初めてバアルの表情が歪む。


「馬鹿な……」


「まだ出力が上がるのか!」


 俺自身も驚いていた。


 戦えば戦うほど、身体が軽くなる。


 精霊魔法が、今まで身体に馴染んでいる。


「悠真!」


「今なら押し切れる!」


「ああ!」


 黒炎がさらに膨れ上がる。


 右手に漆黒の光剣が生成される。


 一歩。


 また一歩。


 俺は二人を押し返し始めていた。


 再びフェロの光刃を弾き飛ばし、返す刀でバアルを吹き飛ばす。


 瓦礫を砕きながら転がる二人。


 勝てる。


 そう確信した、その瞬間だった。


「……クソがっ」


 フェロが低く呟く。


 次の瞬間。


 白い光が一閃した。


「きゃっ!」


「レイナ!」


 振り向いた時には遅かった。


 白い鎖がレイナの身体へ幾重にも巻き付き、その自由を奪っていた。


 フェロはレイナの背後へ回り込み、喉元へ光の刃を突き付ける。


「動かないでください」


 冷たい声だった。


「一歩でも近付けば、この女性の今後は保証しません」


「フェロ!」


 俺は思わず踏み出しかける。


 しかし、レイナの首筋から一筋の血が流れた。


「悠真……!」


 御園生が叫ぶ。


 廉太郎も動けない。


 龍之介も歯を食いしばるしかなかった。


「卑怯だぞ!」


 龍之介が怒鳴る。


 フェロは静かに首を振った。


「勝者だけが正義です」


「それが“あの時”から変わらぬ現実」


 バアルもゆっくり立ち上がる。


 息は荒い。


 明らかに消耗している。


 それでも笑みだけは消えなかった。


「契約者」


「選びなさい」


「女を取るか」


「勝利を取るか」


 拳が震える。


 あと一撃。


 あと一撃あれば終わる。


 だが、レイナを巻き込む。


『悠真』


 小さな声だった。


 サラだった。


『……もういい』


「え?」


『ここは、背に腹は代えられない』


『降参しよ……』


「サラ……」


 サラは苦しそうに微笑む。


「レイナちゃんは仲間だよ」


「仲間を見捨てて得る勝利なんて……」


「あたしは要らない……」


 その言葉が胸へ突き刺さる。


 俺はゆっくり目を閉じた。


 そして。


 黒炎を消す。


 戦闘態勢を解いた。

 

 レイナの瞳から、ボロリと涙がこぼれ落ちる。


 自分のために、拳を収めた。


 その悔しさと愛おしさが、喉を締め付ける。


「……俺の負けだ」


「レイナを放してくれ」


 静寂が訪れる。


 フェロが、満足そうに笑った。


「賢明な判断──」


 ──その瞬間だった。


 轟ッッッ!!!


 隔離されたはずの結界が、強引にブチ破られる。


 凄まじい衝撃。


 フェロの身体が、背後から容赦なく吹き飛ばされた。


「なっ──!?」


 バアルが、そして悠真たちが同時に目を見開く。


 レイナを拘束していた光の鎖が砕け散る。


 フェロは石壁へ激突し、地面を転がった。


 その背後に、一人の男が立っていた。


 気取らないデニム。


 純白のシャツには星条旗のワッペン。


 そして、その肩に腰掛ける蒼い妖精。


「……ったく」


「間一髪だったな」


 低く落ち着いた声。


 誰だ……。


「ノア・ハミルトン……!」


「この『檻』を……」


「外から強引に、こじ開けて入ってきたのか……!?」


 龍之介が思わず声を上げた。


 ノア・ハミルトン。


 米国・CAGの少佐。


 龍之介が過去、参加した日米合同演習で少し面識があった。


 その肩でレヴィが苦笑する。


「やっと結界が弱くなった」


「二人とも、よく持ちこたえたね」


 ノアはフェロへ銃口を向けながら静かに言う。


「悪い」


「軍人ってのは、少し遅れて来るくらいが様になるらしい」


 フェロとバアルの表情から初めて余裕が消えた。


 結界維持と激戦による消耗。


 その綻びを、レヴィは見逃さなかったのだ。


 戦場は再び、激しく動き出す。


 戦局は──再びの二対二。


 ──いや、違う。


 主導権は、完全にこちら側へロックされている。


 バアルは肩で息をし、魔力も先ほどまでの勢いはない。


 フェロもノアの一撃を受け、純白の法衣は更に土埃にまみれていた。


「……予定外ですね」


 フェロが静かに呟く。


「まさか米国の契約者まで現れるとは」


 ノアは肩をすくめた。


「軍人はね」


「困ってる人がいたら助けるもんだ」


 その飄々とした口調とは裏腹に、突きつけた銃口は一切ぶれない。


 レヴィも静かに前へ出る。


 蒼銀の魔力が周囲へ広がった。


 その瞳は真っ直ぐ、バアルだけを見据えている。


「……やっぱり」


「君だったんだね」


 レヴィの呟きに、バアルが鼻で笑う。


「今さら説得でもするつもりか?」


「違うよ」


「助けに来た」


 その一言だけだった。


 バアルの表情が一瞬だけ揺れる。


 だが、すぐに冷たい笑みへ戻った。


「笑わせる」


 そんな二柱ふたりを見つめながら、ノアはゆっくり俺の隣へ歩いてきた。


 この状況でも優しく、聞き取りやすい(英語)だった。


「天城悠真君……だっけ?」


「……はい」


「黒炎の契約者で間違いないかな?」


「はい」


 俺が頷くと、ノアは安心したように笑った。


「話はレヴィから聞いてる」


「あの時のアリゾナ」


「あの子を助けられなかったことが心残りだった」


 ノアの視線が、メイユ――いや、バアルへ向く。


「あの少女」


「メイユっていう中国人なんだ」


「まだ助けられる」


 俺は思わず目を見開いた。


「助けられる……?」


「うちのレヴィ君ならね」


 ノアは迷いなく答えた。


「乗っ取られた精神を元へ戻せる可能性がある」


「完全な保証はできないけど、得意なんだ。ああいうの」


 レヴィも静かに頷く。


「まだ本人の心は消えてない」


「奥の方で必死に抵抗してる」


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなった。


 助けられる。


 まだ間に合う。


 ノアは俺へ真っ直ぐ視線を向ける。


「だから……あの子は俺に任せてくれないかな」


「その代わり──白いの(フェロ)は君が止めてくれ」


「事後の判断は、すべて君に一任する」


 俺は息を呑んだ。


 そこまで信じてくれるのか。


 初めて会ったばかりの俺を。


「どうだろう?」


 ノアは穏やかに微笑む。


 その笑顔に打算は感じなかった。


 俺はレイナを見る。


 拘束から解放されたばかりのレイナが、小さく頷いた。


 サラも優しく笑う。


「悠真」


「あたしはいいと思う」


「レヴィなら……きっと」


 迷う理由なんて、もうどこにもなかった。


 俺は一歩前へ出る。


「お願いします」


「メイユさんを……助けてください」


 一秒も迷わず、そう答えた。


 ノアは満足そうに笑う。


「了解!交渉成立だ」


 俺も拳を握る。


「その代わり」


「フェロは俺が止めます」


「あなたはメイユさんだけに集中してください」


 ノアが、不敵に笑って拳を差し出す。


「頼もしいな」


 俺も拳を合わせた。


「必ず守ります」


 コツン、と拳が触れ合う。


 国籍も。


 立場も。


 背負う使命も違う。


 それでも、この瞬間、同じ目的をもった。


 “一人の少女を救う”こと。


「レヴィ」


「行くぞ」


「うん!」


 蒼銀の魔力が一気に膨れ上がる。


 それを見たバアルが、忌々しげに舌打ちする。


「余計なことを……!」


 だが、その前へ俺が立ちはだかる純白。


 フェロだった。


 黒炎が再び静かに燃え上がった。


「悪いけど」


「ここから先には行かせない」


 すると、俺の言葉を遮るようにその光が輝きを取り戻す。


「ならば、あなたを倒してからです」


 純白の神威と漆黒の星焔。


 二つの規格外な魔力が、再び激突する。


 ──その爆炎の背後。ノアの蒼銀の光が、少女を救うために地を蹴った。


――続く。

 次話、「蹂躙する星焔。戻ってきた純真」

※本作はカクヨム様と同時投稿を行っております。

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