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【完結】魔法はAIに管理されているはずだった  作者: (趣味で)ラノベ書くおじさん


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第47話 「“アプサラス”の残響。反撃の狼煙」

 コロッセオを覆う結界の中。


 フェロが静かに口にした一言は、その場の空気を一変させた。


「お久しぶりです――精霊女王アプサラス」


 その名が響いた瞬間だった。


「……え?」


 最初に声を漏らしたのはレイナだった。


「ア……プサラス?」


 廉太郎も思わず目を見開く。


「ちょ、ちょっと待て……」


「それって……神話の?」


 御園生も息を呑む。


「まさか……」


 三人の視線が一斉にサラへ向く。


 当の本人は困ったように苦笑した。


『えっと……』


『うん』


『昔は、その名前で呼ばれてた』


 一瞬、沈黙が流れる。


「…………」


「…………」


「…………」


 次の瞬間。


「えぇぇぇぇぇぇっ!?」


 三人の叫びが、石造りの闘技場に響き渡った。


「神話の本人!?」


「本人って何!?」


「いやいやいや、そんな話聞いてませんけど!?」


 廉太郎が頭を抱え、レイナは口元を押さえたまま固まる。


 御園生でさえ、冷静さを失っていた。


「精霊女王……」


「古代文明の守護神……」


「その存在が、ずっと私たちの隣に……?」


 そんな三人とは対照的に、一人だけ静かに頷く男がいた。


 龍之介だ。


「……やっぱり」


 スサノオと出会ったあの日。


 サラとスサノオが交わした視線。


 あの時の空気。

 あの時の涙。


 すべてが一本の線として繋がった。


「だから、あの時……」


 龍之介は納得したように笑う。


「スサノオも、あんな表情をしていたんだな」


 サラは少し照れくさそうに頭を掻く。


『隠してたわけじゃないんだよ?』


『ただ……』


『言う機会がなかっただけ』


 そこで全員の視線が俺へ集まる。


「悠真」


 レイナが半ば呆れたように尋ねる。


「知ってたの?」


「ああ」


「……いつから?」


「サラが過去を見せてくれた時から」


 再び沈黙。


「だったら教えてよ!」


 廉太郎が思わず叫ぶ。


 俺は首を傾げた。


「必要あるか?」


「あるだろ普通!」


「いや」


 俺はサラを見た。


 翡翠色の髪。


 小さな身体。


 いつも肩の上で笑っている相棒。


「俺にとってサラはサラだ」


「精霊女王だろうが――神様だろうが――」


「そんなの関係ない」


 サラが驚いたように俺を見る。


「俺にとっては」


「いつも一緒に笑って」


「一緒に飯食って」


「たまに説教してきて」


「困った時は助けてくれる」


「唯一無二の相棒ともだちだ」


 一呼吸置く。


「……いや」


「うるさい妹みたいに思ってるくらいだ」


 サラの瞳がみるみる潤んでいく。


『……もう』


『そういうこと、さらっと言うんだから』


 涙を堪えるように笑うサラを見て、レイナたちも思わず微笑んだ。


「……悠真らしい」


 その光景を、フェロは静かに見つめていた。


 そして、ゆっくりと口を開く。


「だからこそ」


「あなたは、あの少年によく似ています」


 その声色には敵意ではなく、深い哀しみが滲んでいた。


「一万二〇〇〇年前」


「少なくとも私は、あなた方を信じました」


「神たる精霊だけでは世界を導けない」


「だから精霊と人が共に歩む未来を望みました」


 フェロの黄金色の瞳が静かに揺れる。


「その結果──」


 フェロは、どこか遠くを見るように目を細めた。


「私たちは自らの王と、その血族を依り代とし、肉体を捨てました」


「すべては、永遠に人類を導く『妖精』となるために」


 その言葉にサラは目を伏せる。


 フェロは続けた。


「ですが、それは正しい選択ではありませんでした」


「人類の叡智は、神と並び立つ力を得た」


「その瞬間から、世界には矛盾が生まれたのです」


 静かな口調が、逆に胸へ突き刺さる。


「神は神であるが故に完全ではない」

「人は人であるが故に過ちを犯す」


「力を手にした瞬間、人は神気取りを始めた」


「そして、神までもが──」


「人間の醜い争いに、巻き込まれていったのです」


 バアルが不敵に笑う。


「今の世界も同じだ」


「メーティス」


「国家」


「魔法」


「科学」


「人類は、自ら神になろうとしている」


 結界が低く唸り始める。


 ゴォォォォ……。


 レイナが端末を握り締める。


「……通信、復旧しない」


 御園生も歯を食いしばる。


現代魔法わたしたちだけでは、この結界を破れない」


 廉太郎も拳を握るしかなかった。


「俺たちは……」


「戦えないのか」


 この空間では、現代魔法は著しく制限されている。


 まともに戦えるのは、精霊魔法を持つ俺と龍之介だけ。


 現代魔法が封じられた三人を守りながら、この二柱ふたりを相手にする。


 圧倒的かつ、絶望的な戦力差。


 コロッセオに、刺すような沈黙が落ちた。


 フェロは悲しげに目を閉じ、小さく呟いた。


「さあ、女王様」


「“あの時”の続きを始めましょう」


 その言葉と同時に、バアルの強大すぎる魔力がコロッセオ全体を飲み込み始めた。


――


 精霊魔法によって築かれた完全隔離空間――。


 メーティスとの通信すら遮断する、擬似的な"クリーンルーム"。


 外界から切り離されたその檻の中で、空気そのものが重く沈んでいた。


 悠真は無意識に息を呑む。


「……来る」


 サラの声が震える。


 その視線の先。


 メイユの身体を依代としたバアルが、ゆっくりと両手を広げた。


「さあ……」


「人とは実に愚かな生き物だ」


 その声は、少女のものではない。


 悠久の歳月を生きたもはや神霊と呼べる声音だった。


「争い、嫉妬、憎悪、裏切り、絶望──」


「この数ヶ月、人類は実によく私を育ててくれた」


 黒紫色の魔力が渦を巻く。


 それは通常の魔力ではない。


 どろりと粘つくような、見る者の心を蝕む負の感情そのもの。


「人が生み出した欲望」


「我が糧として、返そう」


 瞬間。


 轟音とともに漆黒の奔流が放たれた。


「――っ!」


 魔力というより津波だった。


 押し寄せる負の奔流。


 見ただけで心が沈みそうになるほど濃密な悪意。


 その横でフェロも静かに右手を掲げる。


「これに共鳴」


 白銀の光が黒い奔流へ溶け込んだ。


「さらなる神威を」


「人の欲だけでは弱い」


「“力”を添えましょう」


 赤黒い紫と白。


 二つの精霊魔法が絡み合い、一つの巨大な破壊の津波となる。


「悠真!」


「ああ!」


 俺は一歩前へ踏み出した。


 黒炎が全身を包み込む。


「精霊魔法――」


「星焔障壁!」


 漆黒の炎が巨大な壁となって立ち上がる。


 その隣。


「任せろ!」


 龍之介も二刀の短刀ダガーを両手に形成する。


 白金の雷光が一気に噴き上がる。


神雷壁タケミナカタ!」


 雷が幾重もの壁となり、俺の黒炎へ重なっていく。


 漆黒と白金。


 二色の防壁。


 次の瞬間。


 激突。


 轟ッッッ!!


 衝撃だけでコロッセオ全体が震えた。


 石柱が軋み、壁から砂塵が降り注ぐ。


 俺は歯を食いしばる。


「ぐっ……!」


 重い。


 とてつもなく重い。


 魔力だけじゃない。


 世界中の負の感情を押し付けられているような圧迫感。


 龍之介も叫ぶ。


「押されるな!」


「踏ん張れ!」


「もちろんです!」


 さらに黒炎を流し込む。


 白金の雷が黒炎を補強し、防壁はぎりぎりのところで崩れない。


 数秒。


 いや、永遠にも思える時間。


 やがて――。


 轟音とともに奔流が霧散した。


「……耐えた」


 誰かが呟く。


 レイナたちも安堵の息を漏らす。


 だが、休む暇はない。


「ここからだ」


 俺は龍之介を見る。


 龍之介も頷いた。


「攻守交代でいこう」


「一人が防ぐ」


「もう一人が攻める」


「了解」


 そこからは文字通り、一進一退の攻防。


 バアルとフェロが放つ、怒濤の精霊魔法。


 俺が攻めれば、龍之介が守る。


 龍之介が斬り込めば、俺が黒炎で援護する。


 呼吸を合わせ、役割を刹那で切り替えながら迎え撃つ。


 雷鳴。


 黒炎。


 神たる“傲慢な力”。


 “感情そのもの”の衝撃波。


 古代闘技場は完全に神話の戦場へと姿を変えていた。


「まだまだ!」


 龍之介の雷刃が大地を裂く。


 その隙を狙って俺は跳んだ。


「今だ!」


 サラが叫ぶ。


「悠真!」


「一点突破!」


「任せろ!」


 全魔力を右腕へ集中する。


 黒炎が圧縮され、小さな星のように輝き始めた。


「星焔―穿ターラ・イッセ!」


 漆黒の穿つような一閃。


 一直線にバアルへ突き抜ける。


「――!」


 バアルとフェロは同時にその一撃を紙一重で回避した。


 しかし。


 直撃こそ免れたものの、黒炎はそのまま空間そのものへ突き刺さる。


 ピシッ――。


 乾いた音が響いた。


 俺は目を見開く。


「……割れた?」


 目の前の空間に、蜘蛛の巣のような亀裂が走る。


 擬似クリーンルーム。


 精霊魔法で構築された"檻"。


 その壁が、一瞬だけ崩れたのだ。


 外の景色が、ほんの刹那だけ見えた。


 ローマの青空。


 そして現実世界の空気。


 だが、それも一瞬。


 亀裂はすぐに修復され、再び檻は閉じる。


「……惜しかった」


 フェロが静かに呟く。


 しかし、その表情から余裕が消えていた。


 バアルも初めて眉をひそめる。


「この檻を……傷つけただと」


 俺は黒炎を構え直す。


 龍之介も刀を握り直した。


 互いの視線が交わる。


 言葉はいらない。


 今の一撃で分かった。


 壊せるかもしれない。


 この『最悪の檻』は、決して無敵ではない。


 その小さな亀裂こそが、絶望を切り裂く最初の一太刀。


 ──反撃の狼煙は、確かに上がった。


――続く。

 次話、「星条の誇り。神雷を纏う龍」

※本作はカクヨム様と同時投稿を行っております。

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