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【完結】魔法はAIに管理されているはずだった  作者: (趣味で)ラノベ書くおじさん


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第46話 「永遠の都」

バアルとフェロが“世界の記憶(アーカーシャ)”へアクセスしてから、二日後。


 ローマ・「ダ・ヴィンチ国際空港」。


 長いフライトを終えた俺たちは、ようやくイタリアの地へ降り立った。


「……着いたぁ」


 思わず大きく背伸びをする。


 機内ではそれなりに眠れたはずなのに、身体はどこか重い。


 やっぱり時差というやつは侮れない。


「大丈夫?」


 隣を歩くレイナが少し心配そうに覗き込んできた。


「うん。少し頭がぼーっとするくらい」


「時差ボケね」


 そう言って小さく笑うレイナも、どこか眠そうだった。


「俺は全然平気だけどな!」


 廉太郎だけは相変わらず元気いっぱいだ。


「海外旅行、初めてだし、テンションで眠気なんか吹き飛んだ!」


「羨ましいよ……」


 俺が肩を落とすと、その後ろから龍之介“先輩”が静かに苦笑いした。


「今日は無理をしない方がいい」


「体調管理も実力のうちだ」


「はい、先輩」


 その肩には、小さな白金色の妖精――スサノオが腰掛けている。


 もちろん、周囲の人には見えていない。


 俺の肩ではサラがローマの街並みを見渡しながら、小さく息を呑んでいた。


『久しぶり……』


 その一言だけが、妙に重く聞こえた。


 俺はそっと尋ねる。


(知ってる場所なのか?)


『うん』


『でも……今は楽しもう』


『今日は旅行なんだから』


 その笑顔には、ほんの少しだけ無理が混じっている気がした。


――


 ロビーでは、日伊両国の関係者が俺たちを歓迎してくれた。


 今回の旅行は、あくまでレイナたちの視察に同行する形だ。


 だから正式には「私的旅行」ではない。


 とはいえ、俺たち高校生にそんな堅苦しい空気は似合わない。


 バスへ乗り込むと、窓の外には異国の街並みが流れていく。


「石造りの建物ばっかりだ……」


「日本と全然違う」


「二千年以上残ってる建物もあるからね」


 筆頭監察官・御園生が微笑みながら説明する。


「ローマは"永遠の都"とも呼ばれているね」


「歴史そのものが街になっているような場所」


 レイナも窓へ顔を近づける。


「本当に映画みたい……」


 その横顔を見ていると、なんだか俺まで嬉しくなってしまう。


――


 ホテルへ向かう途中。


 御園生が時計を確認した。


「予定通りだな」


「私はレイナと一緒にローマ市警本部へ向かいます」


「魔導犯罪対策について意見交換会があるから」


 レイナは少しだけ名残惜しそうに俺たちを見る。


「一時間半ほどで終わる予定だから」


「ごめんね」

「すぐ戻るから」


「気にしなくていいよ」


 俺が笑うと、廉太郎が親指を立てた。


「チェックインくらい任せろ!」


「荷物番は俺たちの仕事だ!」


「いや、仕事って……」


 思わず笑ってしまう。


 結局、レイナと御園生は公用車へ乗り込み、市警本部へ向かっていった。


――


 俺たちは一足先にホテルへ到着した。


 ロビーは大理石で統一され、天井には巨大なシャンデリア。


「……すごっ」


 思わず声が漏れる。


「修学旅行ってレベルじゃないな」


「政府案件だからな」


 龍之介が苦笑いする。


 チェックインを済ませ、全員分の荷物を部屋へ運ぶ。


 カーテンを開け、窓を開ける。


 赤茶色の屋根が幾重にも連なり、その向こうに巨大なドーム屋根が見えた。


「サン・ピエトロ大聖堂だ」


 龍之介が静かに呟く。


「本物かぁ……」


 思わず見入ってしまう。


『綺麗……』


 サラも窓辺に腰掛け、小さく微笑んでいた。


 だが、その瞳の奥には、どこか懐かしさのような感情も浮かんでいる。


――


 約二時間後。


 コンコン、と部屋の扉がノックされた。


「ただいまー!」


 レイナの元気な声だった。


 扉を開ける。


 そこには、疲れ切った御園生と、どこか緊張した面持ちのレイナが立っていた。


 普段の制服とは違う、大人びたスーツ姿のレイナ。


 綺麗にまとめられた髪に、思わずドキッとしてしまう。


「……どう、かな。変じゃない?」


 レイナは少しだけ照れくさそうに、上目遣いに俺の反応を窺ってくる。


「あ、いや……すごく綺麗だし、似合ってる」


 俺の言葉に、レイナは『……っ!』と顔を真っ赤にする。


 レイナは誤魔化す様に。


「無事、終わりました!」


 と、弾んだ声で報告を続けた。


「市警との連携も問題なし」


 御園生が肩の力を抜く。


「さあ。ここからは仕事を忘れましょう」

「せっかくのイタリアですからね」


「はい! じゃあ、私、急いで着替えてきますね!」


 レイナはそう言うと、俺をチラリと意識するように見つめ、


「悠真くん、待っててね。すぐ……すぐ着替えるから!」


 嬉しさを隠しきれない様子で自分の部屋へと駆けていった。

 

 その微笑ましい後ろ姿を見送り、全員の表情が一気に明るくなる。


「じゃあ!」


 廉太郎が勢いよく拳を突き上げる。


「午後はローマ観光だー!」


「賛成!」


 レイナも笑顔で応じる。


 俺も自然と笑みがこぼれる。


 仲間と一緒に異国の街を歩く。


 そんな何気ない時間が、今は何よりも幸せだった。


 ――しかし。


 ホテル最上階の一室から、その様子を静かに見下ろす二つの影があった。


『来ましたね』


 白い翼を持つ妖精・フェロが、穏やかに微笑む。


 その隣では、メイユの身体を借りたバアルが窓越しに悠真たちを見つめていた。


『契約者』


『そして……“現”精霊女王』


 その瞳に宿るのは、敵意か、それとも別の感情か。


『歓迎しましょう』


『一万年越しの、再会を』


 ローマの、どこまでも青い空の下。


 俺たちの束の間の平穏は──。


 静かに、しかし確実に、終わりへと向かい始めていた。


 ──時計の針は、午後へと進む。


――


 ホテルを出た俺たちは、石畳の道を歩きながら、有名な観光名所を巡っていく。


 真実の口。


 トレビの泉。


 スペイン広場。


 どこを歩いても日本とは違った歴史が息づいている。


 ……そして今日は、もう一つ違う意味で目を奪われるものがあった。


「…………」


 思わず言葉を失う。


 レイナだった。


 淡い空色のワンピースに、春物のロングコート。


 髪は普段より少しだけ丁寧に整えられ、

 小さな髪飾りが陽光を受けてきらりと輝く。


 いつもの監察官としての凛々しさとは違う。


 年相応の、一人の女の子としての可愛らしさと美しさ。


「……あ」


 俺の視線に気付いたレイナが首を傾げる。


「な、なんでもない」


「そ、そう?」


 少し照れたように笑うその姿に、心臓が一拍遅れた。


「悠真」


 隣の廉太郎が小声で肘をつつく。


「お前、今完全に見惚れてたぞ」


「うるさい」


「いやいや、俺でも分かった」


 龍之介まで苦笑する。


「今日は本当に綺麗だ」


 その一言に、レイナの頬が一気に赤く染まった。


「先輩まで……」


 すると。


「本当に素敵だよ」


 御園生までもが微笑みながら頷く。


「不覚ながら一瞬、私まで見惚れてしまった」


「ひ、筆頭まで!?」


 耳まで真っ赤になったレイナを見て、一同から自然と笑みがこぼれた。


 重苦しい戦いばかりの日々。


 だからこそ、こういう時間がたまらなく愛おしい。


――


 昼過ぎ。


 一行はジェラートを片手にローマ市街を歩く。


「うまっ!」


「本場は違うな!」


 廉太郎が幸せそうに頬張る。


「食べ過ぎるなよ」


「夕飯入らなくなるぞ」


「旅行中はゼロカロリー!」


「そんな理屈あるか」


 他愛ない会話。


 サラも肩の上で楽しそうに笑っている。


『平和だね』


(ああ)

(ずっとこうであって欲しい)


 そう思った。本気で。


――


 そして。


 午後最後の目的地。


 巨大な円形闘技場――コロッセオ。


「……」


 その姿が見えた瞬間だった。


 サラの笑顔が消えた。


『……悠真』


 同時に。


 龍之介の肩のスサノオも険しい表情になる。


『嫌な気配だ』


『すごく古い……』


『一万年前に近い魔力だ』


 龍之介も小さく頷く。


「俺も感じる」


「メーティス」


【周辺を捜査中】

【異常反応……検出なし】


「検出できない?」


 御園生も表情を引き締める。


「私も何も掴めない」


 サラは静かに首を振った。


『違う』


『これはメーティスじゃ見つけられない』


『一度離れよう』


『ここは危ない』


 俺も、同意しかけた。


「みんな、一旦──」


 ──その瞬間だった。


ズォォォォォッ!!


 世界が、激しく反転する。


 視界が白く染まり、重力が反転した。


「なっ──!?」


 衝撃。


 俺たちは、石造りの床へと容赦なく叩きつけられていた。


ドォンッ!!


「痛っ……!」


「ここは……?」


 見上げる。


 そこは。


 さっきまで見学していたコロッセオ。


 ……ではない。


 壁という壁に、黒い古代文字が刻まれている。


 空は見える。


 しかし出口だけが存在しない。


 巨大な半透明の結界が、円形闘技場全体を覆っていた。


「閉じ込められた……!」


 レイナと御園生が即座に監察官バッジを起動する。


「メーティス!」


《……》


「メーティス!」


 返事がない。


 龍之介も眉をひそめる。


「通信不能だ」


「俺の権限でも外に繋がらない」


 御園生が顔色を変える。


「そんな……」


 サラがゆっくり呟く。


『……完全遮断空間クリーンルーム


『精霊魔法で作られた擬似的な完全閉鎖空間』


『外界と魔力も情報も完全遮断する檻』


 スサノオも静かに続ける。


『王たちを封じるためにも使われた術式だ』


 俺は息を呑む。


「じゃあ俺たちは……」


『最初から誘い込まれていた』


 その声と同時だった。


 パチン。


 乾いた指の音が響く。


 闘技場中央。


 空間がゆっくり裂けていく。


 漆黒の魔法陣。


 その中から、一人の少女が歩み出た。


 ――劉美月。


 ……いや。


 その身体を支配する妖精。


 バアル。


「ようこそ」


 少女がゆっくり笑う。


「契約者」


 さらに、その隣。


 純白の光が揺らめき、一人の妖精が静かに姿を現した。


 純白の翼。


 どこか神々しさすら感じさせる穏やかな微笑。


「初めまして」


 その妖精は優雅に一礼する。


「私はフェロ」

「“今”は法皇庁におります」


 その瞬間。


 サラとスサノオが同時に前へ出た。


『フェロ……』


 フェロは悲しげに目を細める。


「あなたとも久しぶりですね」


「精霊女王アプサラス」


「そして……“今”は『スサノオ』ですか」


 その穏やかな声とは裏腹に。


 闘技場全体を覆う結界が、さらに強く脈動した。


 ここは観光地ではない。


 逃げ場のない――


 妖精たちが用意した──最悪の『檻』だった。


――続く。

 次話、「“アプサラス”の残響。反撃の狼煙」

※本作はカクヨム様と同時投稿を行っております。

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