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【完結】魔法はAIに管理されているはずだった  作者: (趣味で)ラノベ書くおじさん


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第44話 「響く“音”」

一月が過ぎ。


 二月も終わりを迎えた。


 七柱の妖精が現れて以降、日本は平和そのものだった。


 誰もが、平穏を噛み締めていた。


 もちろん、各国との情報戦や警戒態勢は続いている。


 それでも、俺たちは高校生の日常を謳歌できていた。


 そして季節は三月。


 春の足音が聞こえ始める頃。


 校庭では卒業式の準備が進み、どこか寂しさを感じさせる空気が漂っていた。


「あと二週間か」


 俺は体育館へ運び込まれていくパイプ椅子を眺めながら呟く。


 その隣では、龍之介“先輩”がいつものように木刀を振っていた。


 一振り。


 また一振り。


 卒業を目前に控えているというのに、その鍛錬は少しも変わらない。


「相変わらずですね」


 俺が声を掛けると、龍之介先輩は木刀を肩に担ぎ、小さく笑った。


「卒業するから鍛錬を休む理由にはならない」


「四月からはSMAだ」


「今まで以上に強くならなければ、生き残れない」


 その横では、スサノオが満足そうに頷いている。


『いい感じだね』


『最近は力の馴染みもかなり良くなったし』


「まだまだだ」


 龍之介はそう言いながらも、どこか吹っ切れたような表情をしていた。


 自分の進む道が、もう決まっているからだろう。


 その背中を見送りながら、俺はふと思った。


「……何か贈りたいな」


「え?」


 隣にいた廉太郎が首を傾げる。


「卒業祝い」


「これまで散々助けてもらっただろ」


「何か形にして渡したい」


「それ、いいじゃん!」


 廉太郎は勢いよく頷いた。


「先輩って物欲なさそうだけどな」


「だからこそ難しいんだよ」


 俺たちは翌日の昼休み、中庭に集まって作戦会議を始めた。


 レイナ、サラ、スサノオも加わり、それぞれ案を出し始める。


「高級万年筆とか?」


「いや、使わなさそう」


「木刀?」


「本人の方がいい物持ってる」


「腕時計は?」


「時間なら魔導端末で十分」


「筋トレ器具」


「学校にもジムにもある」


 ことごとく却下されていく案に、思わず全員で笑ってしまう。


「難しいな……」


 そんな時だった。


「あの」


 端末の画面ホログラムを操作していたレイナが少し遠慮がちに手を挙げた。


「一つ、相談があるんだけど」


 全員の視線が集まる。


「実は……」


「今月、卒業式の少し前なんだけど」


「監察局の視察外遊で、イタリアへ行くことになったの」


「イタリア?」


 廉太郎が目を輝かせる。


「本場じゃん!」


「うん」


「ローマとフィレンツェ、それからヴェネツィアを回る予定なの」


 レイナは少し照れくさそうに続けた。


「今、御園生筆頭にも相談したら……」


「もし皆の日程が合うなら、私用を兼ねても構わないと」


「え?」


「つまり」


「みんなで旅行に行かない?」


 一瞬、全員が固まる。


 次の瞬間。


「最高じゃん!」


 廉太郎が机を叩いた。


「卒業旅行も兼ねられる!」


 俺も思わず頷いていた。


「確かに」


「先輩への贈り物も思い出も、一緒に作れる」


 サラも嬉しそうに空を飛び回る。


『海外!』


『初めてだよ!』


『ピザ食べたい!』


「妖精も食べられるのか?」


『雰囲気だよ!』


「またそれか」


 思わず笑う。


――


 放課後。


 俺たちは早速、本人に突撃してみた。


 事情を聞いた龍之介先輩は、静かに木刀を止める。


「……いいのか」


「卒業前に、みんなで」


 その声は、どこか嬉しそうだった。


「もちろんです」


 レイナは柔らかく微笑む。


「これまで先輩には何度も助けてもらいました」


「だから今度は、皆で思い出を作りたいんです」


 龍之介先輩は少し照れたように頭をかいた。


「……そういうことなら」


「ありがたく同行させてもらう」


 歓声が上がる。


 その歓声に水を差さぬよう、

 先輩が、静かに右拳を握りしめていたことを俺は見逃さなかった。


 ──いつか訪れる、宿命の戦いに備えるように。


 そして。


 その時の俺たちは、まだ知らなかった。


 その華やかな異郷の地で──


 “あの日の怨念”が、自分たちを嵌める『最悪の檻』を用意して待っていることを。


――

 

 その数日前。


 イタリア・ローマ。


 世界中から観光客が訪れる永遠の都は、この日も穏やかな陽光に包まれていた。


 人々は歴史ある石畳を歩き、古代から続く建造物に歓声を上げる。


 だが、その喧騒から切り離された場所が一つだけあった。


 巨大な円形闘技場――コロッセオ。


 その内部には、今や人知れず幾重もの結界が張り巡らされていた。


 外界から完全に隔絶された空間。


 その中心で、一人の少女が静かに目を開く。


 劉美月リウ・メイユ


 ――否。


 今、この身体の主導権を握っているのは、七柱の一柱。


 妖精バアルだった。


 少女の瞳が、妖しく紫紺に染まる。


「……ようやく、安定した」


 小さく呟く。


 アリゾナでの戦闘から離脱。

 その後、幾度となく転移術を繰り返し、追跡を振り切って辿り着いた場所。


 それが、このローマだった。


 もちろん、単なる逃走ではない。


 ここへ来た理由がある。


 いや――最初から、この地を目指していた。


「さて……」


 バアルは静かにコロッセオの空を見上げた。


『返事くらい、してくれてもいいんじゃない?』


 言葉を発したわけではない。


 魔力だけを遠くへ伸ばす。


 精霊だけが交わせる念話の類。


 数秒後。


 静かな声が返ってきた。


『……ずいぶん派手に暴れたようですね』


 柔らかな青年の声。


 どこか神官を思わせる落ち着いた響きだった。


『七柱の一柱、バアル』


『ようこそ、ローマへ』


 バアルは口元を緩める。


「やっぱり気付いてた」


『当然です』


『ここは私の庭ですから』


 その言葉とともに、一つの魔力が姿を現す。


 純白。


 どこまでも澄み渡る神聖な光。


 その気配だけで空気が変わる。


 人知れず法皇に仕える妖精。


 名を――“フェロ”


 その姿は見えない。


 だが、確かにそこにいる。


 バアルは楽しそうに笑う。


「相変わらず慎重だね」


『慎重でなければ、生き残れません』


『“あの時”、それを学びました』


 短い沈黙。


 フェロは静かに問い掛ける。


『それで』


『何を望むのですか』


 バアルは即答した。


「共闘」


「今の世界を作り替える」


「アプサラスでも契約者ひとでもない」


「私たちが導く世界を」


 返事はすぐには返ってこなかった。


 やがてフェロは小さく笑う。


『面白い提案です』


『ですが、一つ聞きましょう』


『あなたは本当に、私を対等な協力者として見ていますか?』


 その問いに、バアルの笑みが僅かに止まる。


『あなたは利用するでしょう』


『必要がなくなれば切り捨てる』


『そういう妖精ひとだったはずです』


 猜疑心。


 いや、それは警戒だった。


 一万二〇〇〇年前の“あの国”を知る者だからこその評価。


 バアルは肩を竦める。


「信用ないなぁ」


『当然です』


『信用できる理由がありません』


 再び静寂。


 すると今度はフェロの方から口を開いた。


『それなら、逆に提案しましょう』


『共闘ではありません』


『私の傘下に入りなさい』


『法皇の保護下で動くのです』


『そうすれば、あなたの目的もある程度は果たせるでしょう』


 静かな声。


 だが、その裏には揺るがぬ自信があった。


 バアルは目を細める。


「……傘下に入れって?」


『ええ』


『あなた一柱ひとりでは限界があります』


『今の世界はあの時とは違う』


『人類は成長し、新たな技術も生んだ』


『単独では……勝てません』


 バアルは数秒考え――。


 ふっと笑った。


「それでいい」


『……』


「別に構わない」


「最初から、そのつもりでもあった」


 その返答に、今度はフェロが僅かに沈黙した。


『……意外ですね』


「目的は同じだから」


「形なんてどうでもいい」


 そう言って、バアルは不敵に笑う。


 ――もちろん、本心ではない。


 傘下に入ることも。


 従うことも。


 すべては計画の一部。


 より深く中枢へ入り込み、この地に眠る"何か"へ辿り着くための布石だった。


 フェロはまだ気付いていない。


 バアルが本当に狙っているそのものを。


 結界の中、別世界に在るコロッセオに、二柱の妖精の気配だけが静かに溶け合う。


 数日後にローマを訪れる悠真たちが、その事実を知る由もないまま──


 カチリ、と。


 数日後の彼らを閉じ込める『最悪の檻』の鍵が、静かに回った。


――続く。

 次話、「“長すぎた”一年、世界の記憶」

※本作はカクヨム様と同時投稿を行っております。

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