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【完結】魔法はAIに管理されているはずだった  作者: (趣味で)ラノベ書くおじさん


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第36話 「終幕の光。理を灼く星焔」

 漆黒の炎と黒銀の魔力が、日本近海の夜空を二分していた。


 衝撃がぶつかるたび、海面が大きく波打つ。


 観測装置の演算は限界を突破。


 中空に浮かぶ魔力グラフが、警告表示を連打していた。


「出力、なお上昇!」


「これ以上は演習区域の結界が――」


 SMA隊員の報告を遮るように、龍之介が静かに呟く。


「……いえ」


「あいつらは、まだ本気じゃありません」


 その言葉通りだった。


 アレクシスは静かに息を整え、肩のアジーへ視線を送る。


「まだ終われません」


『ええ』


『見せましょう』


 アジーが両手を重ねる。


 黒銀の羽根が光となって砕け、無数の魔力粒子が空間へ溶け込んでいく。


『精霊魔法――』


鏡界万華カレイド・ミラージュ


 パリン――。


 乾いた音が響いた。


 まるで巨大な鏡へ亀裂が走るように、空間そのものへ無数のひびが刻まれていく。


 その一枚一枚の"鏡"の向こうには、それぞれ違う景色が映っていた。


 昼。


 夜。


 草原。


 都市。


 燃え盛る戦場。


 すべてが同時に存在している。


「……空間を書き換えた?」


 悠真が息を呑む。


 次の瞬間だった。


 パリンッ!


 一枚目の鏡が砕け散る。


 飛び散った破片が光刃となり、悠真へ殺到した。


 さらに二枚、三枚。


 十、百、――数千の破片。


 万華鏡が砕けるように、無数の黒銀の破片が四方八方から襲い掛かる。


「悠真!」


 レイナが叫ぶ。


 だが悠真は逃げなかった。


「サラ!」


『うん!』


 右腕へ黒炎が集束する。


 黒き星焔ひかりが幾重もの光球へ変化した。


「精霊魔法」


星焔弾ターラ・バレット!」


 ゴォォォォッ!!


 黒い光球が一斉に撃ち放たれる。


 光弾は黒銀の鏡片と正面から激突した。


 爆発――爆発――爆発――。


 夜空を埋め尽くすほどの閃光が連続し、海面を白く照らす。


 しかし。


 アレクシスが静かに笑う。


「数では勝てません」


 残った鏡片が一気に悠真へ迫る。


 黒い光を突き破り、一枚の破片が肩をかすめた。


 鮮血が舞う。


「っ!」


 続けて二枚、三枚。


 悠真が押される。


 アジーが静かに告げる。


『幻は惑わせるためではありません』


『未来をずらすための魔法です』


『あなたが選ぶはずだった回避を、一瞬だけ狂わせる』


『それが私の力』


 だが。


 悠真はゆっくりと笑った。


「……なるほど」


「だから見えなかったのか」


 再び黒炎が静かに揺れる。


「でも」


「サラの炎は」


「未来じゃない」


「今を燃やす」


 その瞬間だった。


 黒炎が“光条”となり爆発的に膨れ上がる。


 ゴォォォォォッ!!


 黒条は鏡へ触れた瞬間、幻そのものを焼き尽くしていく。


 一枚。


 二枚。


 三枚。


 次々と万華鏡世界が崩壊していった。


 アレクシスが目を見開く。


「幻惑が……」


『焼かれている……』


 アジーも息を呑む。


 サラが静かに呟いた。


『星焔は術式じゃない』


『世界の"理"そのものへ干渉する炎だから』


 悠真は一歩踏み出した。


 その一歩だけで、距離が消える。


 ドンッ!!


「速――」


 アレクシスが言い終える前に、悠真の拳が腹部へ突き刺さる。


 衝撃で、海面が陥没する。


 アレクシスの身体が、数百メートル後方へと吹き飛んだ。


 しかし倒れない。


「まだだ!」


 彼も最後の力を振り絞る。


「アジー!」


『ええ』


 二人の魔力が完全に重なる。


 黒銀の光柱が天へ伸びた。


 それを見たサラも静かに目を閉じる。


『悠真』


『ここからは、全部預ける』


「ああ」


 悠真も頷く。


 二人の魔力が完全に重なった。


 黒き星焔が夜空を覆う。


 アジーとアレクシスが唱える。


永劫鏡界ザ・ワールド


 同時に。


 悠真とサラも声を重ねた。


星焔終幕ターラ・アンティ


 黒銀と漆黒。


 二つの極大魔法が正面から激突する。


 世界から音が消えた。


 一瞬の静寂。


 そして。


 ズォォォォォォォンッ!!


 海が割れた。


 夜空が震えた。


 巨大な衝撃波が数キロ先まで押し広がり、演習場の結界が悲鳴を上げる。


――


 やがて――。


 黒炎だけが残った。


 黒銀の光は静かに飲み込まれていく。


 アレクシスの身体がゆっくりと力を失い、地面へ崩れ落ちた。


 その肩で、アジーも羽を震わせながら静かに倒れ込む。


 悠真はゆっくり二人へ歩み寄る。


 黒炎はもう消えていた。


「終わりだ」


 アジーは苦笑いした。


『……強く、なりましたね』


 その時。


 サラが前へ出る。


『アジー』


『また封印するしかない』


『あなたたちを自由にはできない』


 アジーは静かに目を閉じた。


『……それでも構いません』


 しかし悠真は首を横に振る。


「違う」


「“あの時”と同じことはしたくない」


 悠真は、あの世界で見たこと、感じたことに想いを馳せる。


「敵だから封じる。消す。そんな終わらせ方は、もう選ばない」


『悠真……』


「なら」


 レイナが静かに歩み出る。


 少し困ったように苦笑いしていた。


「あなたのその甘さに、今回は監察局が乗ってあげるわ」


「……表向きは、日本政府による『極秘保護』ってことにしてね」


 龍之介も肩をすくめて笑う。


「二人が大人しくお茶でも飲んでる限り、俺たちは手を出さないさ」


「その代わり、逃げたら俺が止めに行くからな」


「そして、対話の機会までは奪わない」


 悠真は静かに息を吐いた。


 サラも葛藤の末、小さく頷く。


『……分かった』


『それが、今の時代の答えなら』


 夜明け前の静かな海――。


 一万年前(あの時)、存在しなかった。


 「処断ではなく共存を模索する選択」


 この新しい世界(れきし)の在り方として、第一歩が刻まれた。


――


 この衝突から数日後。


 東シナ海の遙か彼方。


 各国の《メーティス》が、突如として激しいエラー音を響かせた。


 画面を赤く染める、見たこともない規模の魔力観測アラート。


 誰もがただの「誤報」だと信じようとしたその異常な光点は。


 不気味なほど静かに、明滅を繰り返していた。


 ――それは、日本、欧州、米国に続く、五番目の『特異点』の胎動。


――続く。

 次話、「新たな約束。音を立てて軋む世界」

※本作はカクヨム様と同時投稿を行っております。

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