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魔法はAIに管理されているはずだった  作者: (趣味で)ラノベ書くおじさん


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第29話 「終わる世界。再起動する物語」

 目の前には泣きそうな顔で俺を見上げるサラ。


 熱い。

 全身を焼くような熱が、俺の意識を包み込んだ。


――違う。

 

 焼けているのは身体じゃない。


――魂だ。


 右手には黒き星焔。

 身体は……俺のものじゃない。

 

 だけど、確かに俺の肉体だった。


 石碑から立ち昇っていた黒き星焔は静かに収まる。

 代わりに空がゆっくりと赤黒く染まっていく。


 冷たい風が草原を吹き抜けた。

 俺は無意識に息を呑む。


 さっきまで穏やかだった景色が、まるで終末を迎える世界へ姿を変えていく。


「始まる……」


 隣で、新たな精霊女王となったサラが呟いた。

 その声には、少女らしい幼さはもう残っていない。


 覚悟を背負った王の声だった。


 先代女王は静かに石碑へ手を添える。

 その瞳は遥か南方を見つめていた。


「決戦の地は、あそこです」


 彼女が示した先。

 現在でいうなら、インド南部。

 

 その南端へ、無数の軍勢が一点へ集結していた。


――


 決戦の地。


 巨大な神殿群を囲む、圧倒的な鉄の塊。


「アトランティスを盟主とする連合軍」


 先代女王が静かに告げる。


「世界最大の魔導国家」


 俺はその規模に、静かに拳を握りしめた。


「こんなの……世界大戦なんて言葉じゃ足りない」


 先代女王は小さく頷いた。


「ええ……これは文明を掛けた戦争」


「世界そのものの未来を決める最後の戦です」


 俺は尋ねた。


「どうして、ここまで戦う?」


「ここまで世界を壊してまで」


 彼女は少しだけ目を伏せる。


「アトランティスは、自らのみを正義と定めました」

「彼らは信じています」

「世界は一つの思想だけで統一されるべきだと」


 静かな声が胸へ刺さる。


「異なる文化、民族、国家」

「そのすべては争いの種」


「ならば消してしまえばよい」


 俺は思わず顔をしかめた。


「そんな……それじゃ独裁じゃないか」


 先代女王は悲しそうに笑う。


「彼らに悪意はありません」

「本気で世界平和を願っていました」


「だからこそ止まれなかった」

「自ら以外の正義を認めない」


「それがアトランティスという国家なのです」


 俺はさらに強く拳を握りしめた。


 正義だから、譲れない。

 正義だから、終わらない。


 その最悪な構図は、一万二千年前も何一つ変わっていなかった。


 俺は何も言わず、ただ南の空を見つめる。


 胸の中には迷いがない。

 すべてを受け入れる覚悟が、魂の奥から湧き上がっていた。


 その時だった。


ゴォォォォォォォッ!!


 世界が震えた。

 大地が裂ける。


 空を覆う数千もの巨大魔法陣。


 その中心から、一斉に飛空戦艦が姿を現す。


「総攻撃……!」


 サラが叫んだ。


 同時に、対峙する連合軍も巨大魔法陣を展開する。


 数百万、いや、それ以上。

 世界中の軍勢が一斉に激突した。


 爆発、閃光、轟音。

 空が砕け、海が割れ、山が崩れ落ちる。


 俺の足は、もう震えていなかった。


「こんなの……人間の戦いじゃない」


 だが、本当の絶望は、その直後だった。


 アトランティス軍中央。


 巨大な黄金戦艦の甲板。

 七人の男女が静かに前へ歩み出る。


 誰もが王族を思わせる豪奢な装束をまとう。


 その瞳には圧倒的な自信が宿っていた。


「王家直属七将」


 先代女王の声が低くなる。


「アトランティス最強」


 七人は同時に両手を天へ掲げた。


「王よ」

「我らに御力を」


 瞬間、天空が黄金に染まる。

 七つの巨大な魔法陣が空を覆った。


 その中心から現れたのは、人ではなかった。


 王、王妃、王子、王女。

 王族の魂とも神とも呼ぶべき巨大な存在。


 極彩色の光が七人へ降り注ぐ。


 俺は目を見開いた。


「まさか……」


 七人の身体が光へ溶けていく。

 骨が、血が、肉体が、すべて魔力へ変換される。


 その背中から眩い光の羽が広がった。


 人ではない、神でもない、新たな生命。


「妖精……精霊……」


 サラが絶望したように呟いた。


「そんな……私だけじゃ……なかった」


 先代女王が静かに話す。


「彼らは自らが信奉する王祖の魂を依り代とし、自らの存在を書き換えました」

「肉体を捨て、魂だけの存在へ」


「私たちは彼らを『妖精』と呼びます」


 七柱、七色の光。

 それぞれが天災にも等しい魔力を放ちながら空へ舞い上がる。


 俺は全身の血が激しく滾った。


 イブリス、サラ、そしてあの時聞かされた“残る六人”。


 そのすべての起源が、今、目の前で繋がっていく。


「これが……妖精の始まりか」


 俺はゆっくりと前へ歩み出した。

 黒き星焔が、この肉体を静かに包み始める。


 サラが慌てて俺の腕を掴んだ。


「待って!」

「相手は七人よ!」

「一人で戦う気なの!?」


 俺は振り返った。

 その瞳は、自分でも驚くほど穏やかだった。


「違う」


 静かな声が響く。


「戦わない」


 サラが息を呑んだ。

 俺は七柱の精霊を真っ直ぐ見据え、ゆっくりと右手を掲げる。


「殺さない」


「封じる」


 その瞬間、石碑が再び脈動を始めた。

 黒き星焔が天を貫き、世界中の精霊魔力が契約の碑へと収束していく。


 終焉の始まりを告げるように。


――


 不思議なことに戸惑いはなかった。


 この肉体の記憶が、感情が、覚悟が。

 すべて俺自身のものとして完全に融合していた。


 “この争いを終わらせたい”


 俺の願いは、ただそれだけだった。


「お願い」


 サラが俺の腕を掴む。


「死なないで」


 その手は震えていた。


 俺は微笑み、そっとその手を握る。


「約束する」

「必ず帰る」


 本当は帰れないことを、俺は知っていた。

 それでも、そう言わずにはいられなかった。


 俺は契約の碑へ右手をかざす。

 黒き星焔が天へ駆け上がった。


 轟音とともに七柱の精霊が舞い降りる。


 この世の森羅万象を司るその全て。そして時空すらも。


 七柱が放つ神威だけで世界そのものが軋む。


「異端なる契約者」

「我らへ刃向かうか」


 七人の声が重なる。


 俺は静かに首を振った。


「違う」

「終わらせに来た」


 瞬間、七柱が一斉に襲いかかる。

 天地を裂く雷光、海を蒸発させる炎、山脈を切り裂く真空の刃。


 世界が砕ける。


 それでも俺は動かなかった。


 黒き星焔は破壊の炎ではない。

 世界を焼くための炎でもない。


 契約を結び、終焉を与える炎。


「――《星焔契約》」


 黒い光が世界を包む。


 七柱が初めて表情を変えた。


「何だ、この術式は!」

「魔力が……!」


 違う、奪っているんじゃない。

 還している。世界へ、在るべき場所へ。


 七柱の身体がゆっくりと光へ溶けていく。


「やめろ!」


「我らこそが正義アトランティスだ!」


「世界を導く存在だ!」


 俺は静かに答えた。


「だから封じる」


 契約の碑が脈動する。


 七つの光が吸い込まれていく。

 その七柱の欲望を内包する存在となって、世界に散らばる碑へ封じられた。


 静寂が訪れる。


 けれど、もう遅かった。


 世界は止まらない。

 精霊を失っても、人は争いをやめない。

 憎しみは連鎖し続ける。


 俺は空を見上げた。


「これじゃ終わらない」


 先代女王が静かに頷いた。


「ええ」

「もう文明そのものが、争いを生み出す器になってしまいました」


 俺はすべてを理解した。

 

 だから、この選択しか残されていない。


 黒き星焔が再び燃え上がる。

 今度は優しく、静かに。

 世界中の都市を包み込んでいく。


 人を焼かない、命を奪わない。

 ただ、争いを生み続ける文明だけを終わらせる。


 巨大都市が光となり消え、魔導兵器が砂となる。


 塔が、城が、戦艦が、静かに歴史から姿を消していく。


 俺は最後に東の海を見つめた。


 小さな島国、日本列島。

 そこだけには星焔を向けなかった。


 サラが問いかける。


「どうして……?」


 俺はゆっくりと答えた。


「ゼロにはできない」

「文明は、いつかまた必要になる」


「何も持たない場所からなら……」


「人はもう一度やり直せるかもしれない」


 それが現在の日本と呼ばれる場所だった。

 勝者でもなく、敗者でもなく、未来へ託す最後の種火。


 サラは涙を流しながら頷いた。


「だから……あなたは」


 俺は笑った。


「次の時代は、お前が守る」


 景色が白く染まる。


 契約の碑だけが残り、黒き星焔は静かに眠りにつく。

 サラが最後に俺へ手を伸ばした。


「何千年先になろうと……」

「私は、あなたを探す」


「あなたの魂が何度生まれ変わっても、必ず見つける」


「そして、もう一度契約する」


 その約束だけが永遠となった。


――


――はっと目を覚ました。


 眩しい病室の天井。

 頬を温かいものが伝っている。――涙だった。


 胸の奥が締めつけられる。


 ふと見下ろした俺の右腕。


 そこには、過去世界で暴走していたあの漆黒の古代文字があった。


 まるで俺の涙をなだめるように静かに。


 だけど今までより深く、皮膚の奥へ刻まれていた。


 俺は思わず隣を見る。


 小さな妖精の姿のサラが、静かにこちらを見つめていた。


 何も言わない。


 ただ、少しだけ寂しそうに笑っている。


 俺は震える手を伸ばし、その小さなサラを包むように抱き寄せた。


「……ずっと、一人だったんだな」


 その一言で、サラの瞳から大粒の涙があふれた。


「うん……」

「ずっと……ずっと待ってた」


 その言葉を聞いた瞬間、すべてを理解した。


 彼女が俺を契約者に選んだ理由。


 それは力ではない、才能でもない。


 かつて、世界を終わらせた俺。

 誰にも背負えない罪を背負い、それでも未来を信じた。


 俺の魂が、あの時の俺と完全に同じだったからだ。


 そして今、その約束は。

 数千年以上の時を超えて、再びこの手の中で結ばれた。


 待たせたな、サラ。


 もう二度と、お前を一人にはしない。


――続く。

 次話、「雪待ちの日常。霧の都の策謀」

※本作はカクヨム様と同時投稿を行っております。


ここまでお読みいただきありがとうございます!!


サラ過去編はこれにて終幕!!


「もう二度と、お前を一人にはしない」


一万年以上の孤独を抱えて待っていたサラを、ようやく悠真が抱きしめることができました。

この二人の新たな契約を描くことができて、作者としても感無量です。


さて、過去のすべての因縁をその右腕に刻み込んだ悠真は、目を覚まして次なるステージへと向かいます。


次回、第30話「雪待ちの日常。霧の都の策謀」

少しの休息(日常)の裏で、世界を揺るがす新たな影が動き出します。


「この2人の行く末をこれからも見守りたい」

「今回の過去編、鳥肌が立った!」

「サラを抱きしめるシーンで泣けた……!」


と思ってくださった方は、

ぜひ【ブックマーク】や下の【★★★★★】で評価を応援していただけると、

執筆の最大級の魔力になります!


ラ書くおじ

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