第21話 「伝説の濫觴、略取」
黒き星焔。
黄金の雷光。
二つの魔力が、富士山麓の第一野外演習場を埋め尽くしていた。
防御結界が軋みを上げ、土煙が天高く舞い上がる。
観客席から悲鳴とも歓声ともつかない声が漏れた。
「見えない……!」
「どっちが勝ったんだ!」
砂煙だけが漂う、数秒。
いや、永遠にも思える静寂のあと、風が吹き抜ける。
ゆっくりと視界が開けていく。
演習場の中央。二人は、背中合わせに立っていた。
誰も動かない。誰も息をしない。
そして――。
カラン、と。龍之介の模擬刀が地面へ落ちた。
「……参った」
その一言と同時に、龍之介の膝が静かに崩れる。
悠真も限界だった。膝をつき、肩で大きく息をする。
だが、最後まで倒れなかった。
教官が二人の間へ歩み寄る。
会場中が固さに呑んで見守る中、右手を高く掲げた。
「勝者――天城悠真!」
再び――一瞬の静寂。
次の瞬間、演習場が割れんばかりの歓声に包まれた。
「うおおおおおっ!」
「すげぇぇぇ!」
「本当に勝った! 学生最強を超えたぞ!」
拍手が鳴り止まない。
教官たちでさえ、惜しみない拍手を送っていた。
レイナは安堵したように胸へ手を当て、小さく笑う。
「本当に……勝ったのね」
廉太郎は興奮のあまり涙目になっていた。
「悠真のやつ……やりやがった!」
サラは悠真の肩へ舞い降りると、そっと頬へ触れた。
『約束、守ったね』
「うん。鬼教官のおかげだ」
『ふふっ。少しくらい褒めてもいいかな』
「百二十点?」
『今日は……百五十点』
悠真は思わず吹き出した。
その頃、龍之介は静かに立ち上がると、悠真の前まで歩み寄る。
「完敗だ」
「いや、紙一重でした」
「だからだ。紙一重だからこそ価値がある」
龍之介は笑い、右手を差し出した。
「今日から、お前が日本学生魔導師の先頭を歩け」
三年生首席、現代魔法最高峰の使い手のその手が、僅かに震えている。
完敗の衝撃と、目の前の少年の規格外な器への武者震いだった。
悠真もその手を力強く握り返した。
「まだまだです。でも、追いつけるよう努力します」
「違う」
龍之介は首を振った。
「俺を追う必要はない。お前は、お前の道を進め」
その握手に、再び大きな拍手が湧き起こる。
――
後に、この一戦は『富士決闘』と呼ばれ。
渋谷第一魔導高専の歴史に語り継がれることとなる。
互いの誇りを懸け、真正面からぶつかり合う一対一の真剣勝負。
やがてそれは――。
在校生たちが最強を証明するための伝統行事へと昇華されていく。
しかし、それは、もう少し先の……別の物語。
――
熱狂の組手から数日後。
首相官邸。会議室。
「警視庁が《アズライル》の構成員一名を拘束しました」
「身元は偽装、現在は黙秘を続けています」
捜査官が差し出した報告書を睨み、大泉真司郎が苦々しい表情で呟いた。
「……一人は囮か」
「ええ」
高井紗奈は静かに窓の外を見つめた。
「彼らはもう動いているわ」
――
その日の夕方。
学校帰りの悠真は、廉太郎と別れ、一人で住宅街を歩いていた。
秋風が心地よい。
死闘を終えた解放感もあり、自然と足取りは軽かった。
『今日は静かだね』
サラが肩の上で、いつもの愛らしい笑顔で微笑む。
「ああ。たまにはこんな日も悪くないな」
その時だった。
ブツン――。
住宅街一帯の街灯が、一斉に消えた。
世界からすべての音が消え、魔力探知も、通信も、すべてが完全に遮断される。
「……結界?」
『悠真!』
サラの表情が凍り付く。
『違う! これは――ただの結界じゃない!』
黒いコートを纏った人影が、闇の中から次々と姿を現した。
――四人。包囲は一瞬だった。
「見つけたぞ。契約者・天城悠真」
低い男の声が響く。
悠真が黒炎を展開しようとした、その瞬間。
足元の路面に刻まれていた最上位クラスの巨大な封印術式が、一斉に起動した。
黒い鎖が四方から伸び、強固な質量を持って悠真の身体を絡め取る。
「なっ……くそがっ!」
悠真の体内から、本能的に『黒炎』の熱が爆発的に吹き荒れた。
その絶対的な出力は。
彼らが用意した最上級の封印術式をメリメリと内側から引き裂き。
あと一秒もあれば、力づくで破壊できるところまで迫っていた。
「バカな……この封印を内側から破りかけるだと……!?」
黒コートの男が戦慄する。
手元の計測端末。
その数値が、悠真の黒炎に触れた瞬間からゼロへ逆流していく。
エラー表示が、激しく画面を埋め尽くした
封印しているのではなく。
自分たちが「呑み込まれかけている」のだと、本能が警鐘を鳴らしていた。
術式を維持する男たちの腕が。
黒炎の圧力に負けてメリメリと不気味な音を立てて軋む。
「早く転移させろ! 術式がもたない!」
「 この小僧、世界の枠に収まっていない!!」
破壊が完了するよりも僅かに早く。
足元に二重に組まれていた空間転移術式が強制発動する。
眩い光が二人を完全に飲み込む。
数秒後。
光が霧散したそこには、もう誰もいなかった。
静まり返った住宅街に、一枚の黒い羽だけが、ゆっくりと舞い落ちていた。
――続く。
次話、「悪意の妖精」
<連れ去られた悠真、容赦ない事実がそこに>
※本作はカクヨム様と同時投稿を行っております。
引き続きここまでお読みいただき、ありがとうございました!
これにて第4章「vs龍之介タイマン組手編」、完結です!!
龍之介との『富士決闘』に完全勝利し、名実ともに学生最強の座に就いた悠真。サラとの「150点」のやり取りも書けて楽しかったです。
……が、その余韻に浸る間もなく、まさかの強襲と略取。
システムすら逆流させる悠真の規格外な出力には敵も戦慄していましたが…
あと一秒あれば…!という非常に悔しい幕引きとなりました。
消えた悠真とサラはどこへ連れ去られたのか?
そして、動き出すレイナやSMAの面々。
物語はここから、さらにスケールを広げて新章へと突入します!
もし「富士決闘熱かった!」「ここからの展開が気になる!」と思っていただけましたら、ページ下部の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】に染めていただけると、新章の執筆スピードが限界突破します!
ブックマークや感想もモチベーションの塊です。
明日から始まる新章も、どうぞよろしくお願いいたします!
ラ書くおじ




