第20話 「雷速の剣、顕現する悪意」
快晴。
富士山麓――。
渋谷第一魔導高専・第一野外演習場。
数万人規模の国家演習にも対応する広大なフィールド。
観覧席を埋めるのは、在校生や教官だけではない。
国家魔導技術局の官僚・関係者。
自衛隊SMAの精鋭たち。
日本の最高峰が集結し、演習場は異様な熱気に包まれていた。
学生同士の組手。
それにもかかわらず。
会場の警備は国家級だった。
「すごい人数だな……」
悠真は苦笑する。
隣に立つレイナが小さく首を振った。
「言ってあった通り、これはもう公式戦よ」
「SMAも観戦してる」
「あなたと虹野先輩は、日本の未来だから」
悠真は静かに、演習場中央へ歩き出す。
その反対側から現れる一人の青年――三年生首席、虹野龍之介。
両手には二本の短剣を模した模擬刀。
その姿に、割れんばかりの歓声が湧き上がる。
「虹野先輩ー!」
「学生最強!」
「負けるなー!」
龍之介は歓声に応えることなく。
悠真へ静かに頭を下げた。
「今日はよろしく」
「こちらこそ、お願いします」
互いに礼を交わす。
主審の教官が中央へ立った。
そして、生徒会からの副審が両脇を固める。
「勝敗は戦闘不能、または降参」
「真剣及び、真剣と同様の威力を持つ魔法は禁止」
「危険と判断した場合はこちらが止める」
「……始め!」
爆発音。
開始と同時に、二人の姿が消えた。
ガギィィィン!!
龍之介の模擬刀と、悠真の黒炎が正面から激突する。
「速い!」
観客席がどよめく。
だが、龍之介は一歩も止まらない。
「雷迅」
黄金の雷がその身体を包み込む。
次の瞬間には。
悠真の背後、さらに横、上空――。
完全なる、三方向同時高速近接戦闘。
「くっ!」
黒炎で受け流すが、追いつかない。
連撃。連撃。さらに連撃――。
防御するだけで精一杯だった。
『悠真! 右!』
『次は左後方!』
『あたしがナビするね!』
頭の中に響くサラの声を。
悠真は首を振って拒んだ。
(いや――今日は自分で戦う)
(サラに頼るんじゃない)
(一人でも戦える俺になりたいんだ)
一瞬だけ、サラが黙る。
そして、脳内で小さく微笑んだ。
『……分かった』
『見せて、六日間の成果を』
悠真は深く息を吸う。
「黒焔歩」
黒炎が足元へ集まる。
爆発ではない。
推進。
身体を黒炎で加速させる新たな移動術。
「何ぃ?」
龍之介の瞳が僅かに揺れた。
今度は悠真が消える。
一瞬で懐へ潜り込み、拳へ黒炎を収束させた。
「黒焔掌!」
轟音。
龍之介は両腕で直撃を受け止める。
――だが、その巨大な衝撃に。
数十メートルも後方へと吹き飛ばされた。
観客席が息を呑んだ。
「押し返した!」
「今の術式、初めて見たぞ!?」
悠真は攻撃を緩めない。
右手を掲げると、黒炎が空中へ古代文字文様を描き出す。
「黒星陣」
漆黒の魔法陣が六枚展開する。
龍之介の退路を、完全に封じた。
「なるほど」
龍之介は静かに笑った。
「ちゃんと成長してきたな」
その瞬間だった。
龍之介の胸元の端末が青白く輝き、警告の電子音が鳴り響く。
【ユーザ名:虹野龍之介――SMA入隊認証】
【SMA戦術魔法:限定解除、承認】
【第二段階:適正ユーザ】
会場が、そして教官席すらも騒然となった。
「まさか、学生にSMAの実戦魔法の許可が……」
レイナが思わず立ち上がる。
「SMA〇〇《ゼロゼロ》式術式――」
「『雷神装』」
龍之介がゆっくりと模擬刀を構え直す。
纏う雷が輝きを増し。
白金色へと変貌していく。
二色の雷が交わり。
新たな魔法陣が足元へ広がった。
「行くぞ、天城。ここから先は手加減なしだ」
「――俺もです」
次の瞬間、龍之介が消えた。
轟ッ!
空気が裂ける。
白金の雷光となった龍之介の、目にも留まらぬ速度の連撃。
右、左、頭上、足元。
四方八方から容赦のない雷刃が迫る。
「ぐっ……!」
悠真は黒炎で受け流すが。
防ぐたびに両腕が痺れ、足元の地面が沈む。
一撃ごとの重さが。
先ほどまでとは文字通り桁違いだった。
『悠真!』
サラの真剣な声が響く。
『もう一人じゃ受け切れない!』
「まだ……!」
『違う! 』
『一人じゃなくて“一緒”に戦うの!』
その言葉に、悠真の意識がハッとする。
六日間の訓練で、サラは何度も言っていた。
“この”精霊魔法は、“支配する力”ではない。
契約者と精霊が心を重ねた時、本当の力になるのだと――。
「……そうか」
悠真はゆっくりと目を閉じ。
静かに右手を差し出した。
「サラ」
『うん』
小さな手が重なった瞬間、世界が静止した。
漆黒の魔法陣が幾重にも展開され。
無数の輝く古代文字が再び空へ舞い上がる。
黒炎は炎の枠を超え。
すべての天体の輝きを内包したかのような。
漆黒を超えた黒の光が。
圧倒的な濁流へと姿を変えていく。
「な、何だあれは……」
「魔力の質が完全に変わったぞ……!」
「完全共鳴……」
教官たちが驚愕し、レイナが小さく呟く。
サラの姿が他者に視えるわけではない。
だが、悠真の纏う光の密度そのものが。
世界のルールを書き換え始めていた。
『悠真、今日だけじゃない』
『これから先も、ずっと一緒』
「ああ。よろしく、サラ」
二人の声が完全に重なる。
『「星焔共鳴」』
次の瞬間。
白金の雷光と、黒き星焔が真正面から激突した。
ドォォォォン!!
凄まじい衝撃波が演習場全体を駆け抜け。
観覧席を守る防御結界が。
激しく軋み、細かな亀裂が走る。
速度と技術の龍之介。
爆発力と魔力量の悠真。
一撃、二撃、三撃――。
互いに一歩も譲らない。
日本最高峰の学生による頂上決戦。
「はあぁぁぁっ!」
「おおおおっ!」
最後の一撃。
龍之介の白金。悠真の黒き星焔。
二つの魔法が、真っ向から衝突した。
眩い閃光が、視界を白一色に染め上げる。
演習場を飲み込む巨大な爆発。
あとに残されたのは、ただ濃い砂煙だけだった――。
果たして、その結末は――。
――
だが、その頃。
遠く中東の地下要塞では。
限界を超えた、悠真の魔力を感知した国際テロ組織が。
最後の妖精を狙う次なる作戦を、静かに開始していた。
――続く。
次話、「伝説の濫觴、略取」
<幕を下ろす伝説。幕を上げる伝説。そして――>
※本作はカクヨム様と同時投稿を行っております。




