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魔法はAIに管理されているはずだった  作者: (趣味で)ラノベ書くおじさん


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第16話 「動き出す世界」

 体育祭襲撃事件、翌日――。


 夕暮れに染まる東京。


 地上では帰宅ラッシュが始まる一方。


 首相官邸の地下深くにある《危機管理センター》では。


 張り詰めた空気が場を支配していた。


 楕円形の会議卓。


 壁一面の大型モニターには。


 前日の戦闘映像が無音で繰り返し再生されている。


 黄金の魔法の数々。


 そして――黒い炎。


 議長席に座る日本国首相・高井紗奈子たかいさなこは。


 腕を組んだまま映像から目を離さなかった。


「報告を」


 短く告げる。


 防衛省大臣・大泉真司郎おおいずみしんじろうが立ち上がり。


 手元の端末を操作した。


「渋谷第一魔導高専体育祭襲撃事件」


「敵勢力は二組織」

「それぞれ対魔戦の特殊部隊」


「米国、四名」

「中国、四名」

 

 大泉はその操作を続ける。


「計八名による同時侵攻です」


 モニター映像が切り替わり。

 校庭の俯瞰映像が映しだされる。


 結界が破壊される瞬間。


 レイナと龍之介が迎撃する姿。


 そして最後に、黒い光が戦場全体を覆う。


「被害状況」

 

 自衛隊・SMA司令官「荒川拓あらかわひらく

 が静かに答えた。


「死者ゼロ」


「重軽傷者四十三名」

「うち、重傷者六名。全て敵方です」


「校舎の一割が損壊」


「敵勢力は全員掌握」

「身柄を確保しました」


「……死者ゼロ」


 高井は小さく息を吐く。


「奇跡ね」


「はい」


「神代レイナ、虹野龍之介」

「そして――」


 荒川は一瞬だけ言葉を区切った。


「天城悠真」


 会議室が静まり返る。


 悠真が黒い炎を纏う映像が映し出される。


 もはや、これは炎ではないかもしれない。

 まるで、新月の夜空そのものを切り取ったような黒い輝き。


「解析結果は」


 控えていた文科省・魔導科学研究所長が首を横に振った。


「不明です」


「《メーティス》でも解析不能」


「既存術式との一致率――」

「〇・〇〇〇〇〇〇〇〇一%未満」


 さらに別の資料が表示される。


 古い石碑。

 失われた文字。

 妖精を描いた壁画。


「過去文献では、唯一該当した記録があります」


「超古代精霊魔法」


「文字通り、()()の術式です」


 その言葉に、大泉が苦い表情を浮かべた。


「つまり」


「神話が現実になった、と」


「現時点では」

「その可能性が最も高いと考えています」


 首相は静かに目を閉じた。


「……最悪ね」


「最初から彼だけを狙っていた」


「つまり世界も、同じ結論へ辿り着く」


 誰も否定できなかった。


 高井は立ち上がる。


「外交回線を」


「ホワイトハウスへ」


 秘書官が驚く。


「直接ですか?」


「ええ」


 首相は窓の外を見つめる。


「昨日までは、日本わがくにの問題だった」


「でも、今日からは違う」


超古代精霊魔法これは、世界の均衡そのものを揺るがす」


 やがて“鷲”の紋章がモニターに浮かび上がる。


 知られたのなら、毟り取られる前に――。

 世界の勢力図を書き換えるまで。


「……さあ、命がけの化かし合いを始めましょう」


 通信が繋がる直前。


 高井は誰にも聞こえない声でそう呟き。

 冷徹な政治家の顔に戻った。


――


 一方、その頃。


 都立渋谷一高。


 昨日まで戦場だった校庭には、生徒たちの掛け声が響いていた。


「そっち支えて!」


「修復術式、展開!」


ドゴォン……!


 突然、校舎の二階部分から。

 現代魔法の制御を失った“壁面の一部”が激しい火花を散らして崩落する。


「ダメだ! 魔力密度の自重を固定できない!」

「まだ崩れるぞ!」


 最新の工学向け端末を構えた生徒たちが、悲鳴を上げて逃げ惑う。


 その鉄とコンクリートの塊が、完全に生徒たち目掛けて自由落下を始めた。


 その刹那。


 一人の少年が、静かにその真下へ滑り込んだ。


――ズゥゥゥンッ!


 耳を突き刺すような金属音が響く。

 だが、瓦礫は地面に激突していなかった。


 悠真が、ただ()()で、その数トンはある鉄塊を受け止めていた。


「……っと。これ、どこに置けばいい?」


「「「は……? 」」」


「魔法陣もなしに、素手で……!?」


 端末を握りしめた生徒たちが、呼吸を忘れて硬直する。


 黒炎の契約によって


 “身体能力のリミッタ”すら書き換わっている悠真にとっては。


 ただの重労働に過ぎない。


「じゃ、とりあえずあっちの更地に置いておくから」


 悠真はそれだけ言うと。


 巨大な鉄塊を肩に担ぎ直し。


 鼻歌混じりで所定の場所に片付ける。


――


「おい、悠真。それ……」


 廉太郎が言いかけるより早く。


 悠真は


「これ?」


 と、二本まとめて両脇に抱え上げた。


 みしり、と肉体が強固に噛み合う音がする。


 魔力ではない。純粋な質量。


「お前、何やって――」

「いや、なんで持ち上がってんだよ!?」


「え? 廉太郎おまえが今、頼もうとしたじゃん」

「実はちょい重いけど」


「ちょいの次元じゃねえよ!」

「 それ1本で大型トラック並みの重量だぞ!?」


 周囲で必死に魔力演算をしていた生徒たちが。


 持っていた端末をガラガラと地面に落とした。


「嘘だろ……身体強化魔法の断片すら感知できないぞ!?」


「アイツ、本当に人間か……?」


 そんな生徒たちの驚愕を他所に。

 

 廉太郎は額を押さえて深くため息をついた。


「お前なぁ……」

「昨日、あれだけのバケモノ魔法使っておいて」

「翌日にやることが『ただの怪力無双』かよ……」


「え、何か言った?」


「いんや、なんも?」

「 頼もしい()()を持って誇らしいよ、ほんと」


 廉太郎はわざとらしく。

 周囲の生徒たちに見せつけるように。


 肩をすくめ、悠真の背中を叩いた。


 戦いの翌日とは思えない、“いつも”の空気。


 そのはずだった。


――


「昨日見た?」


「神代先輩、一人で何人倒したんだ?」


「虹野先輩もヤバかったよな」


「やっぱ首席は別格だ」


 聞こえてくるのは英雄譚ばかり。


 レイナ。

 龍之介。


 二人は、一夜にして学園中の憧れになっていた。


「監察官ってあんなに強いのか」


「虹野先輩、本当に卒業したら特殊作戦群入りなんだろ?」


 悠真は資材を運びながら苦笑いする。


(当然だよな)


 そう思った矢先だった。


「……でもさ」


 遠巻きに悠真を見ながら、ヒソヒソと囁き合っている生徒。


「あの黒い炎」


 空気が変わる。


「あれって結局何だったんだ?」


「普通の魔法じゃない」


「危険なんじゃ……」


 一人が口にした疑問は、瞬く間に周囲へ広がっていく。


「敵は天城を狙ってた」


「また襲われるかも」


「近くにいたら巻き込まれるぞ」


 悪意と、恐怖。いや畏怖なのか。

 

 あまりに身勝手な拒絶。


 悠真はその視線に気付いていた。


 だが、悠真はそんな視線に一瞥もくれず。


 何も言わない。


 そして、黙々と作業を進める。


 最新の土木用ドローンが持ち上げられずにいた崩落壁を。


()()素手で掴んで軽々と退かしていく。


 彼にとって、今の“状況”全てが。

 等しく“どうでもいい羽虫の羽音”に過ぎないのだ。


 だが、その背中はどこか孤高で、少し寂しそうに見えた。


 悠真たちがその資材を運んだ直後。


 包帯を巻いた龍之介が()()の背後にぬっと現れる。


「おい、そこのお前ら」


 ひそひそと話しをしていた生徒たちが、一瞬で凍りつく。


 今や“英雄”、龍之介だ。


「天城が危険だって? 逆だよ」

「わかってねぇなぁ――いいや、めんどくせえが全部説明してやる!」


 龍之介は一歩踏み込み。

 冷え切った視線をモブたちに落とした。

 

「米中の特務機関が」

「『本気で同時侵攻』してきたんだぞ?」


「あいつらの目的が天城だったとしてさ」

「その作戦がどうなろうが」


「目撃してる俺らみたいなチンケな学生を」

「そのまま生かして帰すわけねぇだろ」


「証拠隠滅の口封じ」

「全員、“肉塊”にされて終わりだよ」


 龍之介は吐き捨てるように言い。

 ふっ――と、酷く冷たい笑みを浮かべた。


 その冷酷な口ぶりから。

 

 生徒たちの目は泳ぎ。

 ガタガタと戦慄が走り始める。


「あいつらを天城がボコボコにして自衛隊に引き渡した」

「だからこそ、米中もこれ以上派手に動けなくなったんだよ」


「つまり、俺たちの安全が保障されたんだ」


「天城は自分の敵を倒しただけじゃねぇ」

「結果的に、お前らの命を大国の口封じから救ったんだよ」


「……二度と、勘違いすんな」


「あ、そういや」


「一年坊、来週、体育で組手実技あったよな?」

「俺が相手役な」


「覚悟しとけ?」


 龍之介が放つ凄まじい威圧感と正論の弾丸に。

 “あの”生徒たちが顔を真っ青にして逃げ出す。


 逃げ出す、彼らの視線の先。

 

 悠真はやはり、そんな雑音すら耳に入っていないかのように

 黙々と次の瓦礫を持ち上げていた。


「あーあ、なんか虹野先輩めっちゃ怒ってんじゃん」

 

 それを遠くから見た廉太郎が、にんまり笑っていた。


――


 校舎の三階。


 復旧作業を指揮していた神代レイナは。


 その絶対的な孤高の背中を。

 胸が締め付けられるような想いで見つめていた。


(……誰も、あの領域には追いつける訳がない)

(だからあなたは、一人で背負おうとするのね)


 レイナはバッジ型端末を強く握りしめる。


(彼を刺激する不確定要素は、私がすべて裏で排除する)


 世界が彼を恐れ、遠ざけるというのなら。

 自分だけは――。

 監察官としての特権のすべてを、彼のために使い潰すと決めた。


 ()()は、監察官としてではない。


 一人の()()として。

 ただ、もはや()()が、ただの()()ではなかった。


――

 

 その頃、中東のある国。

 

 “昔ながら”の小銃を構えた覆面の男。


『やっと《メーティス》に侵入はいれたな』


――


 天城悠真。


 世界は今、その存在を中心に、新たな時代へと動き出そうとしていた。


――続く。

 次話、「人とは。魔法とは」

 <人、魔法、その在り方――>

※本作はカクヨム様と同時投稿を行っております。


ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!


これにて、物語の大きな節目となる『米中・体育祭襲撃編』が幕を閉じました。


悠真の規格外の古代精霊魔法、そして翌日のまさかの脳筋物理無双(笑)

楽しんでいただけたなら幸いです。


龍之介先輩、包帯姿でモブを黙らせる正論パンチ無双…。

かっこいい相棒ムーブをしてくれましたが……彼が言った通り、ここからは日本国内だけの問題ではなく、世界の大国たちが本格的に悠真の力を巡って動き出すことになります。


そしてレイナの胸中にも、監察官としてではない、一人の少女としての『変化』が芽生え始め――?


次話からは、新章・新話題『動き出す世界』へと突入します!

さらにスケールアップしていく現代魔導サスペンスと、少しずつ変化していく彼らの関係性を、ぜひ見守っていただけると嬉しいです。


次回の更新は【7/5(日)8:30】を予定しております。


もし「新章も気になる!」「龍之介先輩ナイスザマァ!」「レイナ健気かわいい」と思ってくださった方は、ページ下部の【☆☆☆☆☆】→【★★★★★】やブクマで応援していただけると、執筆の精霊が降臨して更新スピードが爆速になります……!


それでは、新章でまたお会いしましょう!


ラ書くおじ

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