第14話 米中・同時襲撃 2「紅と蒼」
――閉会式、崩壊。
優勝旗を掲げたレイナの前で。
校庭上空の結界が砕け散った。
騒然となる生徒たち。
口々に。
「なんで、あんなバケモンたちが……」
「なんで、天城を……」
「天城って何者なんだ…」
レイナは監察官バッジを起動。
黄金の紋章が全身を包み。
《メーティス》との同期率が急上昇する。
校庭は一瞬で防衛陣形へ切り替わる。
(まずは、警察が駆けつけてくれるまで)
「廉太郎!先生と一緒にみんなを避難誘導!」
「任せろ!」
親指を立てながら、廉太郎が答える。
教師たちも即座に避難誘導を始める。
敵は八名。
対する戦力は、三人。
レイナと悠真、そしてサラ。
腕に黒炎を纏わせ、悠真も一歩前へ出るが。
その肩に手が置かれる。
「一年」
低く落ち着いた声。
振り返ると、一人の男子生徒が立っていた。
見るからに
鍛え上げられた筋肉
長身に黒髪。
切れ長の黒い瞳。
リストバンドには三年生の校章。
そして、校章には。
首席だけに与えられる銀のライン。
「三年主席」
「虹野龍之介だ」
校庭がざわめく。
「虹野先輩だ!」
「今年卒業したら特殊作戦群だろ?」
「対魔導技術特別強襲隊SMAに内定してるって」
龍之介は軽く笑う。
「体育祭くらい、最後まで楽しませてくれよ」
レイナも驚きを隠せない。
「虹野先輩……」
「神代……いや、監察官殿」
龍之介は静かに前を見る。
「この学校は俺の母校だ」
「守る理由は十分だろ」
レイナは一瞬だけ微笑み。
小さく頷いた。
「ありがとうございます」
その瞬間。
中国側の先頭・白狼が前へ出る。
「学生が二人」
「そして“対象者”」
「面白い」
龍之介が金色の魔法陣を展開する。
そして、その両手に二本の短剣を生成する。
続けて、魔法陣が十数枚展開される。
「日本の魔法を」
「見せてやる」
「排除しろ」
白狼が静かに指を鳴らした。
その合図で。
中国側の隊員、三名が同時に動く。
足元に展開されるのは。
紅い幾何学模様の魔法陣。
《メーティス》による超高速演算。
「同期率九〇%」
「戦闘術式、展開」
空気が震えた。
「紅蓮砲陣」
十数枚の魔法陣が空中へ並び、
灼熱の魔力弾が雨のように降り注ぐ。
だが。
「防御術式」
レイナが左手を掲げた。
黄金の魔法陣が幾重にも重なる。
「迎壁」
黄金の障壁が半球状に広がる。
爆炎。
衝撃。
轟音が響く。
しかし結界は一歩も揺るがない。
「今よ!」
「了解!」
レイナの合図と同時に、龍之介が地面を蹴った。
ドンッ!
校庭が陥没するほどの踏み込み。
「雷迅」
一瞬で姿が消える。
中国兵が振り返る。
しかし、そこには誰もいない。
次の瞬間。
背後。
キィンッ!
二本の魔導短剣が魔導障壁へ叩き込まれる。
火花が散る。
「ぐっ!」
隊員が吹き飛ぶ。
着地する暇も与えない。
龍之介は空中で身体をひねり、さらにもう一人へ斬りかかる。
「雷閃」
黄金の稲妻が短剣を包む。
一閃。
敵の魔法陣が真っ二つに裂けた。
「演算がっ!」
「追い付か――」
言い終える前に、蹴りが腹部へめり込む。
ドォン!
一人目が校庭を転がった。
その様子を見ていた生徒たちが息を呑む。
「虹野先輩……」
「速すぎる……」
「目で追えない」
だが――。
悠真だけは、その超高速の雷光を。
『完全に目で捉えて』
静かに見つめていた。
(なるほど。あれが国内最高峰の現代魔法――)
ふわりと、頭の上のサラが囁く。
『悠真なら、今の止められる?』
(……まあ、動線が見え見えだからな)
悠真は心の中で苦笑する。
国内最高峰の現代魔法。
その速度すら、今の悠真にとっては“その程度の領域”でしかなかった。
――
黄金と紅の魔力が激突する戦場から
ほど近い場所。
レイナ、龍之介同様。
悠真も静かに四人の男たちと向かい合っていた。
先頭に立つのは、ダニエル・クロス。
その背後には同隊隊員三名が整然と並ぶ。
誰一人として油断はない。
四人全員の胸元で《メーティス》が淡く青白い光を放ち。
高速演算音が重なり合う。
【Synchronization Complete】
【Combat Mode】
電子音が重なると同時に、校庭の空気が一気に張り詰めた。
ダニエルは、悠真を見据え。
小さく息をつく。
「天城悠真」
「君とは二度目だ」
「今日は前回のような挨拶では終わらない」
悠真は一歩前へ出る。
その瞳は驚くほど静かだった。
「できれば、穏便に済ませたいんですけどね」
「だったら」
「一緒に来てもらう」
ダニエルが右手を上げる。
それだけで三人の隊員が左右へ展開した。
見事な連携。
まるで一つの生命体のように動き、悠真を半円状に包囲する。
「逃がさない」
次の瞬間だった。
四人の足元へ、蒼白い魔法陣が一斉に展開される。
「身体強化」
身体強化術式。
筋力・反射速度・演算能力
これらを一時的に極限まで引き上げる。
各国軍隊が好んで使用する魔法。
ダンッ!!
地面が砕ける。
一人目が真正面から突っ込んだ。
拳に圧縮された魔力が集束し、空気を裂く。
続けざまに左右から二人。
さらに最後尾のダニエルが空中へ跳び。
十数枚の魔法陣を展開する。
「蒼い雨!」
無数の雷槍が暴風雨のように迫る。
逃げ場はない。
四方向からの同時攻撃。
軍隊ならではの完璧な連携だった。
しかし――。
悠真は動かなかった。
静かに右手を掲げる。
その掌に、小さな黒い炎が灯る。
ゆらり、と揺れる黒炎。
熱はない。
だが、その存在だけが空間を歪ませていた。
「星黒焔……」
ダニエルが目を細める。
次の瞬間。
悠真は黒炎を軽く横へ払った。
シュッ――。
それだけだった。
黒い炎が細い帯となって中空を走る。
雷槍へ触れた瞬間。
ボッ。
音もなく消えた。
一つ。
二つ。
三つ。
次々と雷槍が黒炎に飲み込まれ、魔力ごと消滅していく。
「何っ!?」
空中の隊員が息を呑む。
《メーティス》が警告音を鳴らした。
【Unknown Phenomenon】
【Magic Formula Collapse】
「術式が……燃えている?」
その驚きの隙を、悠真は見逃さない。
一歩踏み込む。
目前まで迫っていた一人目の拳を紙一重でかわし。
その手首を軽く掴んだ。
悠真は静かに告げる。
「悪いけど」
黒炎が腕を伝う。
隊員は咄嗟に手を引こうとするが、遅かった。
黒炎は肉体ではなく、拳を覆う魔力だけを焼き払う。
身体強化術式が解除される。
「しまっ――」
悠真の黒炎を纏った掌底が胸元へ沈んだ。
ドォンッ!!
隊員の身体が十数メートル吹き飛び、校庭を転がる。
息を合わせる暇すら与えず。
悠真は左右から肉薄した二人目、三人目の懐へ滑り込み。
――その胸元へ、流れるように掌底を叩き込んだ。
一瞬にして、三人が戦闘不能。
校庭に、冷ややかな静寂が訪れる。
残るダニエルだけが、小さく笑みを浮かべる。
「……やはり」
「君の精霊魔法は現代魔法そのものを無効化するようだ」
その青い瞳が、静かに細められた。
「ならば、こちらも作戦を変えよう」
――
再び、龍之介・レイナサイド。
中国側も然る者、特務機関直属の精鋭。
「第二隊」
白狼が静かに命じる。
「包囲」
残る二名が左右へ散開。
紅い魔法陣が何重にも展開される。
「磁界拘束術式」
地面へ無数の磁気線が走る。
バチバチッ!
紅い電磁結界が校庭全体を覆った。
龍之介の動きが一瞬鈍る。
「磁力場か」
「動きを読む気ね」
レイナが即座に解析する。
「虹野先輩!」
「三秒だけ止めます!」
右手に構えていた拳銃型端末の銃口に。
黄金の魔法陣が浮かぶ。
「クラティシ!」
数十本の黄金の鎖が銃口から撃たれる。
中国兵たちは即座に迎撃魔法を展開する。
「焔壁!」
炎の壁が立ち上がる。
しかし。
黄金の鎖は軌道を変えた。
炎を避けるように蛇行し、そのまま敵兵の両腕へ巻き付く。
「なっ!」
「拘束成功!」
「十分!」
龍之介が笑う。
「一秒あれば足りる」
黄金の魔法陣が足元で高速回転する。
「雷迅・弐式」
ズガァッ!
音が遅れて聞こえる。
龍之介の姿が一直線の雷光となり。
中国兵二人の間を駆け抜けた。
数瞬の静寂。
やがて。
パリン。
二人の《メーティス》端末が同時に砕け散る。
「ぐっ……!」
二人はその場へ崩れ落ちた。
校庭がどよめく。
「二人同時に……」
「あれが学生の領域なのか……」
白狼だけが静かに拍手を送る。
「見事だ」
だが、白狼の鋭い眼光は。
龍之介の身体を通り抜けて――
その後ろに佇む天城悠真だけをじっと見据えていた。
精鋭三人が瞬殺されたというのに。
警戒度は上がっていない。
彼にとっての真の脅威は。
最初から“天城悠真”でしかないからだ。
「これほど完成された連携は久しぶりに見た」
レイナが、拳銃型端末を両手で構えている。
「まだ終わっていません」
「ああ」
龍之介も短剣を構え直す。
「本命は、あんただろ」
白狼は静かに笑った。
胸元の《メーティス》へ指を添える。
「戦術権限、第二段階解除」
紅い魔法陣が倍以上へ増殖する。
「中国魔導軍制式戦術」
「天羅万象」
百枚近い魔法陣が空を埋め尽くした。
レイナと龍之介の《メーティス》が同時に警告音を鳴らす。
【警告】
【同時多重演算を確認】
【判定:九十九式術式に酷似】
龍之介が空を見上げ、不敵に笑う。
「ようやく本気か」
だが、その背中には微かに冷や汗が伝っていた。
(さすがに特務機関のトップ)
(まともに喰らえば、俺の障壁ごと消し飛ぶな……)
龍之介が、じりっと一歩下がった、その時。
いつのまにか、隣に佇んでいた一年生。
――天城悠真の腕から、じわりと「黒い炎」が爆ぜた。
ゾクッ――。
龍之介の全身の毛穴が、本能的な恐怖で総立ちになる。
白狼の『天羅万象』に、ではない。
目の前の一年生が放つ。
ただの魔力とは思えない「ナニカ」に。
「おい、一年……」
「お前、その炎……」
金色の若き雷刃が。
本当の意味で。
生まれて初めて。
恐怖に目を見開いた。
――
東京湾海底。
《メーティス》が記録を続ける。
【被害:極小】
【想定より被害少】
【対魔導技術特別強襲隊SMA、臨場待機】
――続く。
※本作はカクヨム様と同時投稿を行っております。




