第13話 米中・同時襲撃 1「体育祭」
雲一つない青空。
残暑は厳しいものの。
九月の爽やかな風が。
都立渋谷一高の校庭を吹き抜ける。
観客席はすでに満席だった。
保護者。
卒業生。
魔導技術系企業関係者。
さらに魔導技術局関係者や。
各国からの留学生まで集まり。
校内には、百機を超える撮影ドローンが浮かんでいる。
大型モニターには、本日のタイトルが映し出された。
【第××回】
【都立渋谷一高 体育祭】
司会のアナウンスが響く。
「それでは選手入場です!」
大歓声。
各部活動が次々とグラウンドへ姿を現す。
そして――。
「M-tube映画制作委員会!」
レイナを先頭に、悠真、廉太郎。
そして、部員たちが堂々と入場する。
学年首席、神代レイナの入場に。
更に拍手が沸き起こった。
――
順調に各競技が消化されていく。
“M-tube映画制作委員会”は健闘を重ねる。
「次の競技は!」
「障害走!」
実況の声とともに、巨大な魔法陣が校庭へ展開される。
炎の壁。
浮遊足場。
高速移動する障害物。
魔力を吸収する雲梯なんて代物まで。
さらに、上空には自律型ドローンが旋回している。
全国でも有名な、高難度競技だった。
「位置について!」
スタートライン。
悠真の隣にはレイナ。
二人は静かに視線を交わす。
「負けないわよ」
「俺も」
パァァァン!
号砲が鳴る。開始。
二人は同時に飛び出した。
いや、すでに悠真が一歩リード。
悠真は驚異的な身体能力に魔力を乗せ、障害物を駆け抜ける。
壁を蹴り、空中で体勢を変え、浮遊足場を最短距離で踏み抜く。
一方。
レイナは《メーティス》と高密度連携。
精緻な魔力制御で最適解を導き出す。
悠真に劣らず、無駄のない動きでコースを攻略していく。
最後の直線。
悠真がさらに前へ。
レイナも食らいつく。
ゴール!!
「一位、天城悠真!」
「二位、神代レイナ!」
観客席が大歓声に包まれた。
「速すぎる!」
「二人とも全国レベルだ!」
レイナは悔しそうに笑う。
「また負けた」
「まだまだ、だな!」
悠真も笑い返した。
――
競技はどんどん進む。
続いて棒倒し。
「頼んだぞ!」
廉太郎が拳を握る。
「今度は折らない!」
「そこが最低条件だから」
「試合開始!」
廉太郎が即座に突っ込む。
敵の攻撃を防御魔法で受け止め、そのまま突破。
悠真が援護。
後方から拘束魔法を展開する。
さらに、味方に筋力増強術式を展開。
ここでは、現代魔法で事足りた。
二人の連携は見事だった。
「今!」
廉太郎が棒へ飛びつく。
今度は力加減も完璧。
ドォン!
敵陣の棒が倒れる。
「勝者!」
「M-tube映画制作委員会!」
この競技に参加した味方部員たちも歓声を上げる。
「やったぁ!」
廉太郎がガッツポーズ。
「今回は折ってない!」
「そこ誇るところ?」
会場中が笑い声で包まれる。
――
参加予定の最終競技。
大玉転がし。
「ここを勝てば」
「優勝が見える」
レイナが静かに言う。
三人は頷いた。
開始!
巨大な魔導球がゆっくり転がり始める。
「せーの!」
三人の息がぴったり合う。
練習通り。
しかし。
他チームも速い。
「抜かれた!」
「まだよ!」
レイナが叫ぶ。
「悠真くん!」
「今!」
「了解!」
悠真が最後だけ魔力も込め、全力で押し込む。
巨大な球が一気に加速。
ゴールラインを越えた。
ほんの十数センチ差。
判定を待つ校庭。
数秒後。
「1位!」
「M-tube映画制作委員会!」
校庭が揺れるほどの歓声。
部員たちは抱き合って喜ぶ。
「やったぜぇ!」
廉太郎は悠真へ飛びつく。
「お前すげぇ!」
「いや、みんなのおかげだよ」
レイナも小さく笑う。
その笑顔は監察官ではなく、一人の高校生そのものだった。
――
夕刻。
その他、全ての競技が終了。
閉会式。
司会のマイクにも力がこもる。
「優勝!!!!」
「M-tube映画制作委員会!!!!」
巨大な優勝旗がレイナへ手渡される。
嵐のような拍手。
割れんばかりの大歓声。
校長がマイクを握る。
「今年の体育祭は――」
その時だった。
ビィィィィィッ!!
ビィィィィィッ!!
校内全域へ警報が鳴り響く。
【警告】
【校内結界へ不正アクセスを感知】
《メーティス》の機械音声。
空気が一変する。
次の瞬間。
校庭上空の結界へ亀裂が走った。
バリンッ!!
巨大な穴。
そこから輸送機ヘリが二機。
ゆっくりと降下してくる。
一機には“鷲”を誂えた“蒼い”紋章。
【Orpheus】
もう一機には“紅い”“龍”の紋章。
【円卓】
観客席が騒然となる。
「何だあれ!」
「訓練じゃない!」
レイナの表情が一瞬で変わる。
巻かれたリストバンドに、掌を当てる。
その裏に仕込んであった監察官バッジ型端末が黄金に輝いた。
「全員、避難!」
「これは実戦よ!」
輸送機のハッチが開く。
黒い戦闘服の男女が次々と飛び降りる。
アメリカ・中国ともに、四名ずつ。
奇しくも同じ数のようだ。
どちらも、現代魔法の最高峰と分かる。
圧倒的な魔力を纏っていた。
その先頭の一人。
ダニエル・クロスが、己の恐怖をねじ伏せるように悠真を見つめる。
「約束通りだ」
「我々、アメリカは」
「世界中の国を敵に回してでも」
「君を連れて行く」
「今日は、穏やかには済まない」
一方。
中国側の先頭に立つ、白狼も静かに口を開く。
「契約者」
「迎えに来た」
「ともに来い」
観客席に悲鳴が広がる。
体育祭は、一瞬で戦場へ変わった。
優勝旗を握るレイナは一歩前へ出る。
黄金の魔法陣が静かに展開される。
「魔導技術局特別監察官」
「神代レイナです」
「ここから先は、一歩たりとも通さない」
悠真もサラを伴い、自ずと前に出る。
その腕に、星を孕んだ黒炎を纏って。
黄金と黒。
蒼、そして紅。
四つの魔力が校庭で激突しようとしていた。
学生たちの青春を彩った魔導体育祭は、
その幕を閉じると同時に――
海をまたいだ“超古代魔法”争奪戦の火蓋を切って落とした。
――
東京湾海底。
《メーティス(JP)》が、静かに極秘通信を開始する。
【ここまで想定内】
【対象の撃退確率――二十%】
【自衛隊、特殊作戦群“SMA”】
【出動を要請】
【繰り返す――】
――続く。
次話、「紅と蒼」
<正面衝突。威信をかけて。>
※本作はカクヨム様と同時投稿を行っております。




