その40 懲りないオレット家
「うわーん、お父様。酷い目にあったよー!!! マーリンのところに行ったら、使用人が意地悪でお金も貰えなくて。そしてラブセブンが、あいつが。わ~ん!!」
先日大事?なものを失くした、テルマス。
ソフトネールは嘆息した。
(あのオネエさんだからこんなもんで済んだけれど、もっと悪い奴に関わってたら売られてたでしょうね。このボンクラなお兄様は)
なんだかんだと、ランナーズとラブセブンのことを買っていたのだ。
(本当にお世話になっているわよ。悪どい金貸しなら、私達なんか奴隷として売って終わりだったわ。ちゃんと生活出来て、ご飯を食べてお風呂にも入れるんだもの。感謝するべきよ)
そうソフトネールは兄の残念な言動を見て、自分を振り返った。そしてもう真面目に働こうと、ちょびっとだけ更生していた。
(本当はあの甘っちょろくて、言いなりだったマーリンなら邸に入れてくれると思っていたけど、今はもう無理そうだもん。なんかあの愛人だった母親は、やんごとなきお嬢様らしいしさ。どうせ世間知らずの家出娘かなんかだったんでしょ? 私達がどうこう出来ないわよ、きっと。どうせなら大事にしてあげていれば、今頃おこぼれでも貰えたかもしれないけど。その逆やってたからね)
すっかり、マーリンに関わるのを諦めたソフトネール。
真面目に働き出した彼女に、ランナーズは少し残念そうだった。完全に騒がしくて面白い、玩具扱いだったから。
けれど意外と素朴なその本性に、「あっ、なんか楽かも?」と、安らぎを覚えていた。
ソフトネールがランナーズに会ったのは、没落して逃亡後のボロボロの時だったから、猫を被る暇もなかった。もうドロドロで、ぐちゃぐちゃの最低な出会いだった。
面白味には欠けるが、彼女は美しくて実は頭の回転も良い。水色の髪にミモザの花の色の瞳は、黙っていれば大人しく見える美少女だ。実際はかなりの毒舌だけど。
そんな彼女は今、豚小屋掃除から、在庫発注作業を担当する事務仕事に昇格したのだ。
派遣された先の雇い主は、ランナーズの頼みと言えども少し渋い顔をした。初日の印象が抜けなかったからだ。
けれどランナーズが責任を持つと言われ、同意した。
すると滅茶苦茶頑張るものだから、雇い主は感動ものだった。
「やればできるじゃないの。計算なんてすごく早いしさ。これからもどんどん頼むから、よろしくね!」
「はい! よろしくお願いします!」
即座に頭を下げるソフトネールだ。
もう気取ったカーテシーを、職場で披露することはない。それも好感を与える材料となっていた。
臨機応変力。
彼女にはこれが備わっていたらしい。
余計な矜持を捨てたから見えた世界だった。
ちなみにオレット家の借金は、4人で平等に割っている。先に返し終えた者からシャバに戻れる仕組みになっている。
今のところ給金が上がった、ソフトネールが一歩リードかもしれない。
◇◇◇
そんなソフトネールとは反対に、ジュレネはまだ諦めていなかった。
「マーリンが男爵家にいて、面倒を見てあげた期間は養育費を貰いたいわよね。しっかり躾てあげたんだし。やんごとなき貴族なら、揉めないように支払うんじゃないの?」
それはソフトネールとランナーズが実行済だった(悪い噂を流すとかした)けど、ノーダメージだった。けれど豚小屋と馬小屋にいないソフトネールは、何も言えない。そこにいないからね。
ブルラベリも「そうだな、良いかもな」と楽をしたい気満々だった。テルマスはラブセブンからのショックから抜け出せていないが、食事の為に頑張って働いていた。意外に打たれ強いのか?
ジュレネはマーリン宛に手紙を認めた。
貴族的に婉曲に書くも、内容としては男爵家にいた時の食費払え的なやつである。
面の皮が厚すぎるこの行為は、彼らの首を絞めていくのだった。




