その39 テルマスの失敗?
「マーリンは、俺のことを愛しているはずなんだ。お父様達と逃げた時は、お父様の言うことに従ってあいつを置いていったけれど、金が貯まれば迎えに行こうと思ってたんだよ。あいつがもし娼館にいたとしてもね」
娼婦になっても迎えに行こうなんて愛だろ? と宣うテルマスは、マーリンがいる男爵家に迎え入れて貰えると思っていた。
マーリンだけを置いて逃げ、売ったお金を借金返済の一部に当てようとした、彼女の人権無視の人間がだ。片腹痛いとはこのことである。
ラブセブンには、マーリンのいる男爵家まで送って貰い、テルマスの秘書的な感じで付いて来て貰うことになった。ラブセブンへの報酬はマーリンに会った時に、彼女から貰うことにしていた。
男爵家に門の前でラブセブンがベルを鳴らし、マーリンが出てきたらテルマスが代わる予定でいた。もしかしたらいくら自分に惚れているマーリンでも、置いていったことを怒っていると考えたからだ。
でも会えばきっと、愛しい気持ちが勝って受け入れてくれると思った。
でも………。
出てきたのは当然の如く、黒いタキシードのモノクルを掛けた初老の家令バージルである。子猫のグレースと5頭の猫達も一緒だ。
バージルは慇懃無礼にテルマスに用件を聞く。勿論全てを分かった上で。
「お嬢様に何かご用ですか?」
その強気な態度に一瞬怯むが、後には引けないので勇気をかき集めて言葉にする。
「えーと、俺はマーリンの兄だ。マーリンに会いに来たんだ」
マーリンを捨てて逃げた癖に、悪気もないその態度にイラッとするバージル。辛うじて平静を装い、彼は答えた。
「ご存じないようですので、お伝えします。オレット男爵家の領地、邸、爵位全ては売却されております。それを購入したのはマーリン様の母方の親族の方で、私もマーリン様の親戚筋に当たります。この事はこの国のリンデン国王様、宰相コンフリー様も認めていらっしゃいます。……………大変失礼ですが、貴方様方が夜逃げした際、マーリン様を置いて逃げられましたよね。そして人買いのタラゴンとやらに売り渡す予定だったとか。マーリン様はその際、大変心細い思いを致しました。またタラゴンは再度マーリン様を拐いに現れ、護衛の魔導師に股間を雷で焼かれ警らに逮捕されております。もしマーリン様に何かあれば、護衛達が黙っておりません。特に妾の子だと言って、使用人以下の扱いをした元男爵家の方には嫌悪しかないようです。家族の中には、血の繋がりがあるのに、マーリン様を犯そうとした者もいたようです。もしその方と会ったなら、私は忠実な家令ですので是非訴えたいと思っております。
再度、お聞きします。ご用件はございますか?」
睥睨したバージルに、言葉を無くすテルマス。
「い、いや。今日はいいや。帰ります」
「そうですか? それでは失礼致します」
バージルは軽く令をして踵を返した。
それを見ていたラブセブンは、バージルを見て微笑んだ。
(渋いわね、あの爺。物腰は丁寧だけど、威圧のオーラをビンビン出していたわね。よくまあ、テルマスも話しかけられたもんだわ。一瞬でも攻撃しようものなら、返り討ちにする気マンマンだったわね。テルマスは………気づいてないわよね。ポンコツだもの。そこがまあ可愛いのだけど)
バージルはテルマスと話ながら、ラブセブンを常に警戒していた。仕掛けてくるなら、ラブセブンだと思っていたからだ。
呆然としているテルマスを、ラブセブンは抱えて馬車に乗せた。そしてお抱えの医師の元へ運び、体を隈無く検査させた。
テルマスは娼婦に入れあげていたから、病気がないか心配していたのだ。医師から病気はないと診断されたテルマスは、何が何だか分からないが取り合えず安心した。
「俺は悪いところがないんだな。良かったよ」
「そうよねえ。良かったわ♡ 今日は労働のお礼を体で払って貰わなきゃね」
そう言ってラブセブンは、近隣の如何わしい宿へテルマスを抱えて飛び込んだ。
「え、えっ! そんな良いの? ラブセブンさん」
「勿論よ。でっもぉ、主導権は私が貰うわよ。良いかしら?」
「良いよ、良いよ。マーリンからお金も貰えなかったしね。今日はサービスするよ」
「あらっ、嬉しいこと言ってくれるのね。でもきっと、そんな余裕ないからリラックスしてて良いわよ」
そう言ってテルマスは服を全て脱がされ、ベッドに寝かされた。いつも女性を抱く時のようにリラックスしていた。ラブセブンは服のまま彼を下にして股がり、唇をむしゃぶる。それに応じるテルマスだが違和感があった。
(なんか、髭が濃い? ちょっとチクチクするぞ)
何て思う間に、あれよあれよと体にもキスが落とされていく。
いつもと同じ行為のはずだった。
けれど………。
触られたことのない場所に、ローションのようなものが塗りたくられる。
「な、なんで。そんなところ触らないでよ」
「まあ、何てことを言うの! 初めてならきちんと解さなければ裂けちゃうわよ」
「さ、裂けるって、何? や、やだよ。やめて!」
四つん這いになり、泣きながら逃げようとするテルマスを優しく抱きしめてベッドの上へ引き戻した。
「これは私の報酬なのよ、テルマス。だから大人しく俺に抱かれろ!」
「ヒィ! もしかして、あんた男なのか?」
「男じゃないわ。オネエさんと呼んで。よいしょっと」
「や、うそ、嘘、わ、わ、止めて、…あっ、あ~~!!
ラメぇ~~~♡♡♡」
悲痛な叫び声と艶声が重なりながらも、テルマスは報酬を支払った。ベテランのオネエさんは傷も付けず、大事にいろいろと頂いたようだ。
「アホで顔の良い子は大好物よ♡ 久々の初物だったわ。もう艶々しちゃう♡」
事が終わり気を失ったテルマスは、ラブセブンに体を拭かれ服を着せられ、馬車で送られて豚小屋横の宿舎に戻った。
さんざん女性達を馬鹿にし、マーリンにも無体を働こうとしたクズ男は、オネエさんによりある意味成敗されたのだった。
「テルマスのお願いなら、できる限り答えるわよ。彼の顔って私の好みなのよ♡」
優しげな風情で美しいラブセブンだが、夜はスイッチが切り替わるようだ。宿舎に着いても、テルマスはまだ目覚めなかった。
ソフトネールは思った。
起きても何も言うまいと。
彼女はまた一つ、悟りを得たのだった。




