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華麗なる、家令  作者: ねこまんまときみどりのことり


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その36 マーリンの異母姉、ソフトネール

 「ああっ、苦しい。誰か助けて!」


マーリンが、子猫のグレース(亜麻色)と5匹の猫、ミケーネ(三毛猫)、ラック(黒猫)、ミルキー(白猫)、オレンジ(茶トラ猫)、チョコ(キジトラ猫)と散歩をしていた時、道で踞る女性を目にした。

※グレースは大きさを自由に変えられますが、普段は目立たぬように子猫になっています。



「マーリン。あそこの人、邪悪な気配がするよ」

「ニャギャ」

「ギャニャ」

「シャー、シャ」

「ガルルッ」

「グオッ」


グレースの声を始めにして、他の猫も興奮している。


こんなことは始めてで、服をひっぱりマーリンを止める猫にどうしたの? と、おろおろと声をかけるうちに、近辺から男性が現れて踞る女性に声をかけた。


「大丈夫ですか?」

「す、すみません、お腹が痛くて………」



それを見て一先ず安心したマーリンは、猫に引きずられて別の道へと移動した。

「ああっ、待って待って、どうしたのみんな?」


そして先程の場所から、だいぶん離れた場所に移動してからグレースが言う。


「さっきの女、オレット男爵の娘ソフトネールだったわ。あんな所に一人でいるなんて怪しすぎる。それに向こうは明らかにマーリンだと気づいていたわ。危険よ。絶対に近づいちゃ駄目よ。貴女が近づいた所を待ち受けて、ならず者が拐う作戦だったのかも? きっと借金で逃げ回ってるだろうしね」


グレースがこんこんと話せば、猫達も「そうだ、そうだ」とばかりに、ニャーニャーと同意するように鳴いていた。どうやら心配をかけていたようだ。


「分かったわ。心配かけてごめんなさい。気を付けるわね」

「ニャーニャー」

屈むと途端に猫が飛び付いてきた。びっくりするけど、温かくてすべすべでモコモコだった。尊い。


そんな感じの楽しい散歩から、オレット男爵家に到着したのだ。



◇◇◇

その数日後。

レモングラスが、マーリンに不思議なことを聞いてきた。


「ねえ、マーリン。最近変わったことはなかった?」

少し眉根を寄せて困ったような顔を見て、マーリンは暫し思考した。


(こんな聞き方をするんだから、授業のことではないわよね? 何かあったかなあ? あっ、そう言えば!)


「えーとですね。道に座っていた女性がいたんですが、私が行く前に男性が声をかけていました。私は猫の散歩中で、猫に引っ張られながら違う道に移動したのです」


あくまでも異母姉であったことは伏せておく。男爵家のことはレモングラスさんも知っているから、心配させたくなかった。


「そうなのね。いえね、その女性を助けた人が、猫を連れたマーリンが、女性に気づいていたのに見捨てたと言っていたのよ。猫を連れていれば車にひかれたら困るから、置きざりになんて出来ないのにね。そう言うことなのね、分かったわ」


私の代わりに助けてくれた人がそう言ったのだろうか?

それとも異母姉の計画が上手くいかず、腹いせなのだろうか?

レモングラスさんが心配するくらいだから、社交界で面白可笑しく噂になっているのかもしれない。それでも私は構わないのだ。


身近な人は私のことをきちんと知ってくれているし、ソフトネールを知る人なら彼女の苛烈さも知っているだろうから、噂を信じないだろう。

レモングラスさんの伝手で、時々周辺の下位貴族の息女達とお茶会も開いていたが、今は自粛しようと思った。自分が行くことで要らぬ騒ぎになれば、相手の迷惑になるからだ。


男爵領はそれ程社交をしなくても困らない農産地だ。取り引き相手も平民が多いから、無理に貴族と付き合わなくても良いのだ。レモングラスさんは社交は結婚相手や貴族の友人を作る大事な場所だと勧めてくれるが、今の自分には苦手意識がある。

幸いなことに、以前のお茶会で友人になったロイザ・サラコナン伯爵令嬢が時々遊びに来てくれている。男爵家や男爵領地に行くと、体調がとても良くなるそう。きっとそれは世界樹のせいだと思う。



男爵領に移り住んで来たジュリアさんがロイザ様を見て、「あちゃあ、あの子毒盛られてるわね。人間も大変ね」なんて言ってたから、世界樹の世話をしているエルフの傍で恩恵を受けたのかもしれない。



◇◇◇

これとは別にナッカスが、マーリンに内緒でロイザを見かける度に解毒の魔法をかけていたのも効果があったのだろう。


それにマーリンの異母姉、大樹の精と王女グレースの娘グリードルらも、仲間と共に男爵領の森林にある世界樹を見に来ているので、良い空気にも触れられるのかも知れない。自宅にいながら森林浴的な効果が。


そんな感じで、表向き虐待されていないが暗殺を目論む家にいるロイザは、ここ(マーリン宅)にいることで相手の思惑を防いでいるのだった。



◇◇◇

貴族の友人も取りあえずいるから、もう良いかなとマーリンは思う。貴族が虚飾とプライドで作られていると肌で感じてきた彼女(マーリン)。そんな家族のプライドの恩恵を補う為に無休で働いていた彼女(マーリン)は、貴族の付き合いが大変だと何となく分かっていたから、深追いだけはしないことに決めていた。


だからマーリンはロイザから、自分の噂を聞いて驚愕していた。

「借金の為に父親と共に逃げ、はぐれて男爵家に戻った義姉に冷たい義妹になっていますわ。とんでもない噂ですわ」

そう言って怒ってくれていたロイザ。



マーリンは特に気にしていないが、レモングラスとバージル、グレースと猫達が夕食の時すごく怒っていた。


「逃亡中のソフトネールに手を貸す貴族家は殆どないはずだ。旨味がなく厄介なだけだからな。あるとすればマーリンに嫌がらせしたい貴族家か、ソフトネールを使って男爵家をかき回したい、この男爵家を欲しがっている貴族家かな?」


「そんなにいろいろあるの? バージル」

「そりゃあな。ナッカスやグリードル達が移り住んでるし、世界樹もあるから豊作で領地は潤っている。森林は更に大きくなり水路も整備され、空気や野菜・果物は旨いし料理も旨い。マーリンが継いでから、目に見えて発展してるからな」


「それはバージルが、適切に経営してくれているからじゃない」

「マーリンだって少しずつやってるだろ? それに領地民の話もよく聞いて問題を解決しているし。何よりみんなに好かれている。これはとても大切なことだぞ」



自信なさげなマーリンに、バージルが優しく伝えてくれる。感謝しかないと泣くマーリン。レモングラスはマーリンを抱きしめてハンカチで眦に当てた。



ここにはジュリアも、諸々を秘密にしていたレモングラスもいる。内緒に計画を進めていたバージル達だが、その怪しい動きにレモングラスが反応し、「まさか浮気? お母様に言ってやるんだから」と舌を出しながらバージルを脅して話を聞き出した。傍にいたマーリンも一緒に話を聞いたから、ジュリア奪還作戦を知ることになったのだ。レモングラスには、さらにマーリンがハーフエルフだと言うことなども洗いざらい説明した(させられた)。


「まあまあ! 本当に! すごいわね! うん分かった、内緒にするわ。お母様にもちゃんと誤魔化しておくから心配しないで。私も協力するわ!」

「あぁ、なんでこんなことに………」


レモングラスの荒業にバージルは撃沈したのだ。娘の『お母様に言うわよ攻撃』の尋問に即座に屈した。

(奧様のことが大好きみたい。こんなに慌ててるんだものね)

バージルは後にこう語る。「浮気ダメ、絶対!」と言われており、疑わしいだけで雷魔法が放たれるそう。雷魔法の研鑽で意気投合した恋愛結婚は、奥様の魔法の方が雷限定で上らしく、バージルは若い時死にかけたことがあるそう。ちなみに全部冤罪らしい。可哀想に。




「すまん、みんな………」

項垂れるバージルに、みんなが笑い出しそうなのを堪える。


「良いわよ、バージルの娘さんが味方なら心強いわ」

「本当よ。強い味方だわ」

「女傑。さすがバージルの娘さん!」

「なんか、格好いいわ。あのバージルが、くふふっ」


「コホン、私はレモングラス・フラナガンスの娘です。出戻りですがよろしくお願いいたしますね」

「「「こちらこそ、よろしくお願いします!」」」

和やかに自己紹介も終えた。



そんなこんなで、暫くマーリンにはグレース以外の護衛も付くことになった。


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