その32 マーリンの日常
「もうすっかりレディになったわね」
「テヘヘ、レモングラスさんのお陰ですよ」
何も教育を受けていなかったマーリンは、日々学習を積み少しずつ成長していた。身のこなしも洗練され、立ち姿も背筋が伸び凛としている。
料理人も侯爵家から呼び寄せ、今はバージルの負担も減っている。身に付いた家事スキルは健在なので、料理人が休日の時だけバージルが担当している状態だ。
猫達も大きくなり、外出時はバージルの後ろをついて歩いている。猫は普段自由に行動しているが、外に行くのには不安があるようだ。バージルの傍は安心なのだろう。
マーリンの傍にはいつもグレースがいる。
グレースには母の残留思念が残るだけで、主に子猫がその体の主人格だと分かっているけれど、まだ母のように頼っている時があるマーリン。
グレースは頼ってくれるのは嬉しいと言うが、代わりのように扱うのにマーリンには抵抗があった。矛盾だと自分で気づいてはいるけれど、まだどうにも出来ないでいる。
最近バージルは外出が多い。今まで自分に付きっきりで申し訳なかったが、余裕が出来て嬉しく思う反面寂しさも感じていた。本当の家族のように思っているからだ。
「私は男爵家の臨時当主だけど、このまま当主になれるのかな? 今でさえバージルに領地経営をして貰っているのに。でも出来るようになったらお別れなのかな? 離れたくないなぁ」
呟く私にグレースが言う。
「大丈夫よ、マーリン。たとえ離れてたって、困った時はバージルが一瞬で駆けつけるわ。バージルだって、貴女のことを大事にしているもの」
「そうかな?」
「そうよ!」
グレースはうーと、背伸びして外に出かけて行った。おいてけぼりである。
「今はたくさんの人が味方になってくれて、心強いはずなのに贅沢に。すっかりなってしまったわ」
両手で頬っぺたをパンと叩いて、気合いを入れる。出来ることを頑張らないとね。
そして領地の主要な産業の収穫量と売り上げを確認し、陳情書に目を通す。
「今は天候のせいか、短期間で栽培できる赤かぶやトマトがたくさん取れるのね。バージルが提案したビニールハウスもすごいわ。天候に関係なく甘い野菜が取れるなんてね。さすがにたくさんの知識があるから、いろんな応用が出来るのね。私も学ばないと」
窓からそっと、マーリンを見守るグレースは微笑む。
(そうよ。前を向かないとね)
気弱だったマーリンは、たくさんの人と関わることで少しずつ逞しくなっていく。
そんな彼女の裏で、大人達はバタバタと動いていた。エルフ国の問題はマーリンにも関係することだが、今は出来ることをして欲しいと願うバージルだ。
レモングラスから話を聞き、マーリンの成長に目を細めるバージルも彼女を孫のように感じていた。レモングラスも同様に娘のように思って接している。
マーリンが気づかぬうちに、どんどんと自称家族が増えているようだ。




