その27 ハガノミヤ、被害者に謝罪する
「先ほど、ソレルに緊急で訪問したいと連絡を入れた。さすがに前侯爵の俺の手紙は無視できないだろう。近いうちに連絡は来るはずだ。
奴は勘が良い。エルフを邸に引き入れたタイミングで俺が訪問することを聞き、きっと彼女を隠すだろう。その隠し場所から奪還することが、今回の目的になる」
バージルはナッカスとクローム、ハガノミヤにそう伝えた。
現在、マーリンが授業を受けている間に、男爵邸ではこっそりと奪還作戦が立てられていた。マーリンやレモングラスを巻き込まないように、彼女達には内緒にしている。
そんな作戦会議中に何も知らず、客室と魔法空間の部屋をの扉を開き、彼らと顔を会わせたアリアリーズとネオラチア。
「ナッカス兄さん、ちょっとスコップを貸して欲しいのだけど………。あ、あー、あんた、悪の手下のアクネージ伯爵じゃない。なんで此処にいるのよ!」
嫌悪を滲ませるアリアリーズに、ハガノミヤは焦りを見せた。かつてアモンビラスの手足として動いていたハガノミヤは、例のアリアリーズ強姦未遂の関係者だからだ。
いくら逆らえなかったとはいえ、今でも彼はアリアリーズとネオラチアから見れば敵なのだ。証拠がないからと謝りもせず、加えて悪い噂を流した張本人の1人だ。生涯許すことは出来ないリストランキング10位入りしている極悪人。
「なんでこんな所にいるのよ!!!」
あまりの剣幕に、緊急で遮音魔法を使ったバージル。
「静かにしろ! お嬢様が驚くではないか!」
いつも穏やかなバージルが怒りを滲まるのを見て、急速にしゅんと静まるアリアリーズ。
「だって、だって………」
ネオラチアに抱きつく彼女は怒りを飲み込んだが、ネオラチアが冷静にナッカスに話しかける。
「ナッカス様、貴方はアリアリーズの苦しみを知っているはずだ。なのに、何故!」
ネオラチアの問いにナッカスは、静かに答える。
「………世界樹が枯れたんだ。ハガノミヤはその責任を押し付けられ、娘のジュリアが人間の愛人にされ凌溽されている。だから彼女を助けに行こうとしているんだ。アリアリーズの苦しさは忘れていないよ。けれどお前も彼女の気持ちは分かるだろう。きっと不安でいるに違いない」
ナッカスの辛そうな面持ちに、アリアリーズとネオラチアは押し黙る。その沈黙を破ったのがハガノミヤだ。
「済まなかった、アリアリーズ。今さらこんな謝罪は遅いかもしれない。けれど娘だけはジュリアだけは助けて欲しいんだ。それが叶えば、私ならどんな風に痛め付けられても構わないから。本当に申し訳なかった」
土下座して頼むハガノミヤは、ただ娘を救いたい良い父親に見えた。
「狡いわよ。なんでよ。人のことは物みたいに扱って、いざ娘が同じ目に合えばこの態度。なんでよ………」
思い沈黙が流れる。
ナッカスに国を去る決意をさせたのも、ハガノミヤを含む反対派閥の横暴のせいだったから。人の気持ちを蔑ろにした者が許せずに、今ここにいるのだから。
それでも彼は国を背負ってきたものだったから。
辛い目にあっている同種族を見捨てられないのだ。
「アリアリーズ。私だって今も怒りは消えていないよ。だけどまずは、ジュリアを助けよう。良いね」
駄目だと言えないと分かって聞くナッカスに狡いと言いたいけれど、助けてあげたい気持ちも強く込み上げていた。
「分かったわ。ジュリアはまだ120才なのよ。まだまだ子供なのに可哀想に。でもアクネージ伯爵は別よ。後で制裁はするからね!」
「ああ、それで良い。いくらでも受け入れる」
ネオラチアはアリアリーズの肩を後ろから優しく包み込んだ。彼女の優しさと強さから決断した気持ちを守るように。
ネオラチアにとっては、アリアリーズを危険に晒した家族など憎しみの対象でしかない。彼女自身も辛いはずなのに、助力を許可する気高き王女。ますます愛が深まっていくのを感じる。
そんなこんなで新たに2名、アリアリーズとネオラチアが協力することになった。
『愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ』と言う。
ハガノミヤは今正に、この言葉を理解する。
深い感謝と共に、己の過去の贖罪を知るのだった。




