その26 ジュリア奪還作戦
ジュリアの父ハガノミヤ・アクネージ伯爵は、ナッカスと反対派閥だった。だから脅されながらも、現国王のギガンティース達とつるむことにもなったのだ。
当然のようにナッカス派のクロームも、アクネージ伯爵と敵対することになるから、ジュリアと付き合っていることは誰にも内緒で先の見えない恋だった。
ジュリアの父アクネージ伯爵は1人娘を溺愛していたから、きっと知られれば別れさせられるだろう。
隠れて逢い引きする状態に堪えきれなくなり、結局別れは訪れた。嫌いで別れた訳ではないのだ。
そんな過去が2人にはあったのだ。
だからクロームは、ジュリアを救い出したい気持ちでいっぱいだった。エルフ国を後にする時に未練は捨てたはずなのに、どうしても黙っていられなかった。
助けてあげたい。
彼女だけが理不尽に犠牲になるなんて、そんなの許せない!
隠していてもナッカスは、2人のことを知っていた。クロームから相談されていれば、自分だけでも祝福しようと思っていた。
「行くなら準備を整えよう。彼女が怪我でもしたら大変だからね」
「………ナッカス様、俺は。済みません」
項垂れる側近に首を横に振り、謝ることじゃないと言う。
「仲間を助けるのは当たり前だろ?」
「……はい。ありがとうございます」
大きく頭を下げて、感謝するクローム。
そこにハガノミヤ・アクネージ伯爵が再び訪問して来た。バージルが迎えに出て邸に入って貰う。
応接室には既にナッカスが座し、クロームが後ろに控えていた。扉を開けて驚くハガノミヤだが、予想通りに国王に出会えた瞬間に土下座して嘆願する。
「娘を取り返して下さい。お願いします」
「もう、分かったから。まず座りなよ」
「はい。失礼します」
ナッカスとハガノミヤが座り、お茶の準備を終えたバージルはハガノミヤの背後に移動した。
今までの振る舞いを謝罪しながら詳細を話す彼は、エルフ国にいた時からは別人のように窶れていた。顔は痩け目の下には酷い隈、皮膚も痩せて張りをなくしていた。顔色が悪く憔悴が顕著だ。
余程娘が心配なのだろう。
「貴方の気持ちは解った。今は何があっても、人身の売買は禁止されている。人間も、エルフも、獣人も同じだ。それを問答無用で、いくらギガンティースがアホだからと言っても、勝手に魔力を封じたりするのも違法だ。だからこちらも違法を犯しても、文句は言わせないさ。ね、バージル?」
「………もともと私はソレルが嫌いです。あやつの息子もお嬢様を嵌めようとしていた色情狂ですから。多少の灸も必要でしょう!」
「じゃあ、計画の手順を詰めようか? クロームもバージルも座って」
「ありがとうございます、ナッカス様。このご恩は終身忘れませぬ」
「それはまあ、成功してから言ってよ。じゃあ、正面は私が、裏からはバージルが。中に行くのは、クロームとハガノミヤでね。まずはハガノミヤの魔力を元に戻すよ、エイっ」
光が部屋中に煌めき、靄のようなものがハガノミヤから出て消えた。これでハガノミヤも魔法が全力で使えるようになった。
「力が漲る。すごい、以前よりも多いくらいに。何故ですか?」
「答えは、エルフ達が魔力を注ぎながら作ったレモンかな? その紅茶美味しいだろ?」
「なんと、エルフが土に触れる労働を?」
「楽しいんだよ。私も時々手伝っているし」
「まさか、ナッカス様も。そうですか、貴方はもう違う生き方を選んだのですね。私達のせいで………」
寂しそうに呟くハガノミヤへ言葉は返さない。
まずはジュリアの奪還が先だ。
バージルは、久々に暴れられると嬉しそうだ。
その頃マーリンは、足元に眠るグレースの体温を感じながら、レモングラスの授業を受けていた。




